神田連雀亭ワンコイン寄席74(下・三遊亭萬都「岸柳島」)

次の人はなんと9年ぶりらしい。前座のとき数回聴いてパッとしなかった人。
二ツ目になっても…
ひとりやたらウケてるお客さんがいたが、私はそのお客以外が、退屈しているそのさままでじっくり観察していたのだ。
演者が「噺をセリフで覚えず、自分で作りながら喋る」らしきことをしていた様子も見ていた。
かなり高度なワザだが、効果のほどは…

トリは三遊亭萬都さん。
売り出し中の二ツ目さんで、連雀亭で聴くのは初めて。
名前の由来と、「高知では上京ではなく脱藩という」を語るが、そんなに長くなかった。
どうやら本編が長いらしいなと思う。本来そんなに長い噺でもないけど。

「さあことだ」を頭につけた川柳を紹介。

「さあことだ研屋の親父気が狂い」
「さあことだ馬の小便渡し船」

ということは、私の好きな岸柳島。そんなによく聴けるわけでもないが。
季節もの。
素晴らしい一席だった。時間はそこそこ使うが、そのぶん中身が充実している。

  • 若侍はしっかり嫌な奴だが、落語の客の心中に刺さるぐらい嫌なやつではなく記号的
  • 老侍はしっかり風格がある
  • 屑屋は自然体。「くずーい」と声を張り上げたりしない
  • 船頭が、客の最大の代弁者っぽい
  • ワイガヤの衆たちは、「静かにしている」「焚きつける」「逆襲する」それぞれがナチュラルで見事

 

若侍、後から乗ってきたくせに偉そう。
町人たちが精いっぱいの抗議。これ以上進みますと川に入ってしまいます。
構わん。入れ。

このくだりでまず、心中ざわつかない。
非常に軽い。演者は、どういう心持ちでセリフを発しているのだろう。
シャレのめして言う人なら、キャラが変わる。
傲慢すぎる男なら、どうしたって腹が立つ。
でも、どちらでもなくてバランス最適。
ひとつだけ言えることは、萬都さんはここでウケを狙っていない。

雁首落として、周りはざまみろとくすくす。でも大笑いできない。
止めろと言われた船頭が変わっている。
めちゃくちゃ返答をゆっくりして、そうこうするうちに船がどんどん進んでいってしまうのだ。

屑屋があつかましく、雁首失くしたキセルの引き取り交渉。
のんびりした屑屋が、会話の終わりに「くず~い」。これが世界一自然でびっくり。
もともと、人に交渉持ちかけといて「くず~い」じゃなかろうに。
萬都さんは極めて中庸を大事にする人で、さりげなくここに進んでいった。

老武士が、若侍を持ち上げつつ屑屋を救う。
この際、近頃の町人は口の聞きようも知らないと、あえて屑屋を下げる。
この日の夜のアド街観てたら(高円寺。私もたまに落語で出没する街である)、三四郎・小宮が、カツアゲにあって助けられた思い出を語っていた。
これがたちまちリンクした。
助けてくれた人はカツアゲ犯どもに向かい、「そんなしょぼくれたなやつほっておいて、俺と遊ばないか」と言ったのだという。

老武士は、槍をつっかえ棒にしてようやく立ってるんだとワイガヤ衆。無責任でいい。
若侍が勝つよ。年寄りと屑屋を叩っ斬って、行きがけの駄賃にお前もばっさりだ。

老武士の策略で、槍の石突でもって岸をトーン。
何をしておる船頭。早く船を出せ。
船頭がよく喋る。最近あの手合いが多くて困っておりました。

「できそこないの菊人形」も入っていた。

若侍が泳げるかどうか、ワイガヤ衆が訊いた相手は船頭。
泳げません。泳げるならもうとうに泳いでこっちに来ている。
侍を恐れている町人どもは、大事なパーツではあるがある種情けない存在。
彼らのセリフ自体にもあるが、逆襲されないことを知っていると強い。
この人たちが、しっかり落語の登場人物で。愛すべきアホども。

しかし裸になって若侍は、短いのだけ差して飛び込む。
ここで初めてワイガヤ衆、老武士に、泳ぎの腕を尋ねる。だいたいワイガヤ衆はタイミングが悪い。

「水に飛び込んだ際に、しぶきが上がらなかった。あれはかなり水練の腕前がある」

緊迫感に満ちたシーンだが、もう楽しくて仕方ない。

サゲは、ほんのちょっと、絶妙に替えていて、驚いた。

萬都さん、噺をブラッシュアップしていくにあたって、まずは「絶対に不自然にしない」方針だと思った。
勘違いした二ツ目さんは、クスグリをちょっと変え、追加する。
でも、ギャグのためのギャグなもので、本編にはマッチしてなくて、得てしてつまらない。
萬都さんは、人物が本来の役割からはみ出ないためにどうするかを入念に考える。
そして、人物の心理をかみ砕き、再構築していく。
そういうことかなと思います。
不自然さが一掃された、楽しい一席でありました。

まだ先だが、私は萬都さんが真打昇進時に七代目圓窓になると思っています。

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