小説「絵本作家は褒められたい」(中)

その後、シンカマ先生のチャンネルからも返答があった。

 

「相変わらず光田くんは口悪いよね。私とおんなじレベルの悪態だよ。でも、楽しんでくれたようでよかったです。ドン・コアラはね、私の分身であり、かつて私を導いてくれた偉大な知恵者なのです! 森のどうぶつどもは気付いてないんですが、真の知性とは、焦らず、ジッと木にしがみつくことにあるのです!」

 

動画を観た光田は思わずつぶやく。

 

「なに言ってんだこの人」

「お前さん、相変わらずシンカマ師匠で儲けてるのかい? いいおもちゃだね」

「こらこら。おもちゃにしてるところまでは否定できないが、こう見えても俺はシンカマ先生を深く尊敬してるんだ。お前は、俺が尊敬してるフリだけして収入源を確保しているように思うか」

「この先生は世間で悪目立ちしてるけど、本当は愛されたくて仕方ない人だよね」

「よく見抜いてるじゃないか。そうなんだよね、ひたすら賞賛されたいっていうのがこの先生の本音なんだ。絵本作家組合の先生たちに崇め奉られたいんだよ」

「そこまでわかってて、付き合ってるんだ」

「だから、俺は先生のそういう、一見難しそうでやたら単純なところが好きでさ」

「まあ、それはそれでいいけど。またどうせ、コラボ考えてるんだろ」

「そうだな。俺から仕掛けたいね」

「それがいいよ。先生先生っておだてて下から迫っていくと、簡単にコラボに持っていけるよ。なにしろやかんの先生だから」

「うちのかみさんは、俺より口が悪いよな」

「口の悪い女房と、貞操観念の低い女房とだったら、どっちがいい?」

「なんの話だよ」

 

ほどなく機会は訪れた。

シンカマ先生が、「闘うえほんちゃんねる」に光田を呼んでくれたのだ。

先に仕掛けたかった光田としてはやや残念だったが、まあそれぐらいはいい。

なに、こちらの想定通りではあるだろう。

 

「光田くんは相変わらずご活躍で。まあ、なにに活躍してるんだか正直よくわからないんだけど」

「まあ、いろいろやってますので、シンカマ先生こそ、『夜のシャドウ』がヒットしてますようで、おめでとうございます。うちの近所の書店では、書店員の選ぶベスト5に入ってませんでしたけど、でもヒットしてますよね」

「やっぱり口が悪いよね。それにしてもどこの本屋だよ。見る目がないね、どうせ従来の絵本作家組合の本ばっかり推奨してるんだろう」

「そうですよね。先生こそ、古臭い絵本から子供たちを、いえ、子供たちにはそれほど響いていないようですが、絵本好きの大人たちを解放する貴重な作家なのです!」

「ところで今日はね、光田くんとコラボしたいなと思って」

「はい、ありがとうございます。シンカマ先生とコラボできるとは嬉しい限りです」

「光田くんもさ、絵本書いてみない?」

「え、ぼくが? 絵、描けませんよ」

「絵を描かない絵本作家でも別にいい。その場合は私シンカマが絵を描く。ただね、絵本の絵っていうのは、自由でいいんだ。ヘタでも人を熱狂させられれば全然大丈夫なんだよ。スケッチブック持ってきたから、描いてみない?」

「え、ここでいきなり?」

「そう。お題を出すから、描いてみて。飛行機」

「えーと、飛行機ですか。ここがこうで、羽根があって、尾翼があって。できました」

「ヘタだねえ」

「当たり前ですよ」

「でも、見込んだ通りだ。ヘタだけども味がある。もうすっかり数の減ったボーイング747風の先端もいい」

「本当ですか」

「もうね、いつも言ってるけど、このままじゃ絵本業界滅びる。子供たちがかわいそうだ。新しい血を絵本に入れないとならないんだ」

「はあはあ。おあつらえ向きの展開だ」

「なんか言った?」

「いえ何も」

 

というわけで、光田の絵本が企画されることになったのだった。

出版社を交えた打ち合わせがおこなわれた。

出版社は、シンカマ先生の「夜のシャドウ」も出版した、欲棒出版である。

担当編集者、鼓(つづみ)は、光田が引くぐらいノリノリだった。

 

「いよっ光田さん。ご活躍のご様子で。私ども欲棒出版に任せていただけましたら、もうベストセラー間違いなしですよっ! 出版不況なんていいますがね、あれはもう、売れる本を作れない連中の言い訳っ! 出版は文化だなんてね、もうちゃんちゃらおかしいですわねっ! それに引き換えわが社はもう、売れ筋第一ですからねっ!」

「え、鼓さんって、本当に出版社の編集の方ですか?」

「おや聞き捨てならないねえ。編集に見えなきゃ、いったいなんに見えますね?」

「どう見てもその、落語に出てくる太鼓持ちかなと」

「いよっ、お目が高い」

「なんか、噛み合わないですけど」

「光田くん、大丈夫だいじょうぶ。鼓さんは確かにちょっとクレージーだけども、優秀な編集者だから。カネの匂いをかぎつけたら天下一品の人なんだ」

「まあ、シンカマ先生がおっしゃるなら」

「そうそう。大船に乗ったと思って私、鼓に任せてください。豪華客船ベリッシマ号で行く日本一周10日ジャパネットたかたくらいの大船です」

「それはまた、でかい船ですね」

「でね、光田さん。ひとつお伺いしますけども」

「なんでしょう」

「どうやったら、あなたの絵本が売れると思いますか」

「ええ。私もそれなりにマーケティングの実践をしてきたつもりです。まずは内容。内容がダメだと、周りの方も頑張ってくださいません」

「ま、それはそうですね。より正確に言うならば、『内容がダメじゃないと周りに思ってもらうぐらいにはちゃんとしている話』ですね」

「ははあ。ええ、それから売り方ですね。本屋で売っても大して売れません」

「さすが、おわかりでらっしゃる」

「かといって、ネット書店ということでもありません。『本』にこだわっているうちはダメなので。となるとアニメ化はしたいですが、ただアニメ化を前提に本を作るとなると、これだけのチームではまず足りません。どっちにしても、ある程度優れた内容で、周りが『仕掛けたい』と思ってもらうコンテンツを作らないといけない」

「おっしゃる通り。コンテンツ、というのがいいですね。書籍の形状に執着してるうちはダメですからね。で、どこで売るおつもりですか」

「はい。絵本の内容と関係する、素案を考えてきました。実は」

 

シンカマ先生も、編集者鼓も、光田の提案には度肝を抜かれたのであった。

 

noteの完全版に続きます(15日アップ)。

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