後半一席が始まったのは午後3時40分ぐらいだったか。時間はしっかりオーバーしてたっぷり高座。
出てきた三三師は、私が済むとお楽しみの解散です。歯を食いしばっていきましょうと。
一席めにも語っていたが、楽しめるかどうかはお客さまの想像力次第ですと。
三三師、独演会(とは銘打ってないが、そうでしょう)では結構ベタな発言多用するんだなというのが今回の印象。
らくごカフェとも、寄席四場とも作法が違うのは当たり前だが。
都内の独演会だとまた違うのだろうか。
トリの一席は素人鰻だが、初日のネタ帳に「鰻屋」と書いてしまった。
この、士族の商法を扱った噺も、寄席で掛かる小品とサゲは一緒。
素人鰻という演題が存在するのは知ってたけど、私、同じ演題でいいのだと思っていた。
「御神酒徳利」「強情灸」は中身のまるで違う噺があるし、「へっつい幽霊」も同じ演題で中身は相当にバラバラだし。
この噺、フリが面倒。
酒について振り、江戸時代の身分についても触れないと。
だからマクラでアレ? 本編変えたの? という感じになる。
三三師、お酒の噺してたのに、「前座二ツ目真打ご臨終」から身分の話に入る。
なので、酒はどこに行ったんだろうと一瞬見失う。
ちなみに、身分制度あたりから正蔵会長につながったのだったか。
お酒の小噺「お前の親父だ」を振る。
この小噺がバカウケしたのを初めて観た気がする。すっとぼけて語ると、すり切れた小噺も楽しいもの。
入念な下準備のもと本編へ。
今は士族となった元さむらい、女房どのの好きなしるこ屋を開こうと思うが、古なじみのうなぎ裂き職人金蔵と出くわす。
しるこ屋は利の薄いもの。うなぎがいいですよ旦那。
なにしろうなぎで儲けが出て、酒で儲けが出る。
金蔵はあたしに手伝わせてくれと言うが、旦那はいったん断る。
そなたの腕は有数のものだが、なにせ酒癖が悪い。
ではということで、酒を絶ってうなぎ裂きに精を出す。
お店は初日から大評判。
だが、鰻屋の主人の元同僚がやってきて、金蔵にご苦労だったと一杯勧めてしまう。
葛藤する金蔵に、勧めたほうが済まなかったと引っ込めると、途端に意地汚い金蔵。
たちまち大暴れの金蔵。店から飛び出す。
翌朝、金蔵が来ない。そこに吉原から使いが来た。
吉原にたんまり払って金蔵を受けだす。
この繰り返しが続く。仏の顔も三度。
金蔵ももうさすがに返ってこない。主人自らうなぎをつかむのであった。
ここから先は、いわゆる「鰻屋」とほぼ同様。
三三師は、士族を固く固く描く。口調もさむらいらしい。
これがぴったり。
しかし前半のハイライトは、なんといっても酒グセが悪すぎる金蔵である。
酒飲みというのは、わかっていてもタチの悪い酒を繰り返してしまうのだ。酔うと、タチの悪い人格が出てくるものだから。
しかし、素人鰻が珍品になり、鰻屋がメジャーになる理由はよくわかるなあ。
「士族の商法」と言われても、今では教科書に数行書かれる文化だし。
でもこの噺、今でも高い価値があるなと。
江戸の庶民はりゃんこがひたすら怖い。
そういう常識を背景にした落語も多い。今の時季掛かる、たがやとか。
宿屋の仇討なんかにも、濃厚にこれが漂う。
でも、本当はそんな単純でもないのだよな。
江戸の庶民、いっぽうでは新政府に反発を感じ、徳川びいきであった。これもまた、本当。
素人鰻は、士族をからかう噺でもあるのだが、それ以前の背景が実にしっかりしている。
しるこなんか儲からない、うなぎをやろうと言ったのは金蔵だ。
別に、士族の旦那をハメて金だけ出させようなんていうのではない。金蔵、旦那には本当に世話になり、四民平等になった世でも、恩返しがしたい。
これはどうやら、本音のようだ。
そしてまた、俸禄を失った士族のほうも別に、そっくりかえったイヤなやつではない。
これからの世をなんとか生きていきたいと必死だ。官僚が、サービス業に転身しようというのだ。
そして、奥さんと娘も一緒に働いている。人件費を削ろう(その分職人にいい仕事をしてもらおう)と必死なのだ。
腕は本当にいい、名指しで客がやってくる腕なのに、酒癖だけ悪い。悲劇は全部ここから始まる。
だから明治の客にとっても、「愉快だ」と「気の毒だ」とたぶんグラデーションで両方あったのだと思うのだ。
私の知ってる担々麺の店も、「料理人が帰国してしまったので店が開けられない」という内容の張り紙をして、もうずいぶん長いこと閉めたままである。
店と、商売の計画をムチャクチャにした金蔵は消えてしまう。
落語にはよく、主人公が途中でいなくなっちゃう(交代する)のありますね。へっつい幽霊や臆病源兵衛。
ここから、慣れないのにうなぎを捕獲してさばこうとする旦那。
「鰻屋」と違い、奥さんに手伝わせるのが愉快。
奥さん、殺生が恐ろしくてなかなか手が出ない。
手をにゅるにゅるさせながら三三師、「なんでこんな大きなホールで、こんな小さな所作の噺選んだんだ!」。
しっかり見えてますけどね。
もしかしたらだ。
演者が立ち上がってうなぎと奮闘し、壇上を降りて舞台を右往左往したうえで、袖にハケてしまうという演出もあるのではなかろうか。
そんなことはせずしっかり頭を下げる三三師。
ちょっとした不備もありつつ、遠征はなかなか楽しいものだった。
だからまた来る可能性はある。
みみっちい電車のルートも、乗っちゃえば全然どうということはない。
小田原駅付近に、名物でなくていいから手ごろな値段の、一杯やれる飲食店があればさらにいいのだが。
もしかしたら、いくつか目にしたイタリアンなど狙いめかもしれない。価格はわからないが。
(その1に戻る)