舞台の上にユニット型の長屋風高座が作られており、掛け軸は「萬國春風百花舞」。右から書いてある。
三三師はマクラで、ゲスト左龍師を紹介していた。
同期なんです。一緒に楽屋に入って、一緒に二ツ目になって、一緒に真打になりました。
この後死ぬときも一緒という仲です。
小はださんが高座返しをして、柳亭左龍師登場。
左龍師楽しみにしてたのだが、2階ではマクラがよく聞き取れなかった。
たまにしか落語聴けない人は、残念だろうなあ。
あたしはそうでもない。料金が倍するS席にしておけばよかったとも全然思わない。
もっとも今のあたしは全然平気だが、5年以上前だったら、こういう些細なハプニング、やや引きずったかも知れない。
音響の責任者であろうか。スタッフに呼ばれて、2階後方でしばし聴いていたようだ。
左龍師は、来年の大河ドラマ「逆賊の幕臣」の撮影(緑山スタジオ)に参加しているらしい。
江戸ことば指導らしい。
ずっと撮影を見ていて苦行らしい。
「らしい」が多いがつまり、内容よくわからなかったということだ。
まあ、どっちにしても長講の佃祭なので、マクラは短い。
本編に入ってしまえば、演出に違いはあってもわからない部分はないのである。新作だったらいざ知らず。
戸隠さまと梨のくだりは振らず、終い船の場面から。
基本は権太楼師のものかと思うのだが、結構独自の部分が見られた気がする。こんなの。
- 冒頭、治郎兵衛さんが佃に何をしに来たかは描写されない。助けた娘に対して初めて語られる
- 暮れ六つの鐘を聞いて飛んできた終い船は、もう満員。頼んでスペースをこしらえてもらおうとする(船が出ていく理由、そして転覆する遠因がちゃんとある)
- かつて助けた娘の亭主は気が立っている。「客(誰か知らない)なんか待たせとけ」と言い残してまた出ていく
- 改めて対面。亭主は、旦那がこのたびかみさんに命を救われたことは、話の最後に知る
- 葬儀の場面、ノリ屋の婆さんは、悔やみで「先祖の因縁」を説き、ツボを売りつけようとしている
- 与太郎が、治郎兵衛さん死んじゃ嫌だよと心の叫び
- 棺桶余っちゃったんで、婆さんもうじきだろ、引き取らねえか
こうしてみると、この噺の葬儀の場面の演出、結構バラエティに富んでるものだなと再確認。
治郎兵衛さんに世話してもらったかみさんののろけとか、これで借金棒引きとか、今回は入っていないこんなのも含めていろいろある。
左龍師は、佃に誘われた仲間に悔やみを言わせている。
ちなみに葬儀の場面に移るまで、笑いのシーンは一切ない。
ここを我慢できない人が、「旦那さえ助かればほかの客はどうでもいい」とか不謹慎なクスグリを入れるのだろう。
左龍師は、わずかに入れられそうな笑いもすべて抜く。これはもう、確信的にそうしているのだ。
といっても、人情噺として語る体でもない。
終い船が転覆した事実も、治郎兵衛さんはごく静かに受け入れている。
劇的に描いちゃいけないというポリシーは、わかる気がする。
劇的に描いていないのは、治郎兵衛さんが激しく動揺していない部分や、それから亭主がかみさんの「名前を聞かなかった不始末」をくどくどとがめず、ずっと祈っていたと語る部分に現れる。
治郎兵衛さんは泊めてもらったわけではなく、亭主が仲間に話を付けて、例外的に船を出す。
それでも夜明けだろうけど。
ちょっと葬儀の準備は早すぎるかもしれない。坊主も来てるし。
葬儀の場面は弾けてもいいはずだが、決して無理に笑いを入れていかない。
善意(お店の者はみんなうろたえて動けない)から、治郎兵衛さんの葬儀を出してやろうという配慮が、エスカレートしてしまう過程を丁寧に描くのだ。
権太楼師から来ているであろう与太郎のくだりが実は一番泣けるわけで、そう思うとあまり賑やかにするのもいけない。
与太郎いわく、みんながあたいのことバカだバカだって言うけど、治郎兵衛さんだけ「与太さんはそのままでいいんだよ」って言ってくれたんだよ。治郎兵衛さん死んじゃったら嫌だよ。
情けは人のためならず、を振ってサゲもなく静かに終える。
じわじわ来る一席。
治郎兵衛さんが、助けた娘のうちで酒を勧められてるあたりだったか。
結構な音量で携帯が鳴りだした。
左龍師、「携帯鳴ってますね。切っていただいて」。
噺の中でメタに処理するような場面でもないから、仕方ない。
私がかつて「理想の対応」として挙げた、「携帯が鳴ったことにはしっかり触れる」「とがめない」を両方クリアしている。
そりゃ、師の内心はわからないけども。
ここのスタッフさんはみな親切なのだけど、携帯の諸注意はちょっと足りないかもしれないな。
今月行った歌舞伎座で、「絶対に鳴らさないぞ!」と気合の入った注意を聴いたばかりなので、比較してしまう。
仲入り休憩。
ホールの1階からはお城は見えないが、2階以上からはよく見えます。
トリの三三師に続きます。