金原亭杏寿二ツ目昇進フィーバーをウォッチ

美人前座で有名な金原亭杏寿さんが2月から二ツ目昇進ということで、主に沖縄のメディアが盛り上がっている。
沖縄に限らず、落語を知らない地方のメディアが出身噺家についてなにか書くと、必ず違和感満載の記事ができる。
日頃から接していないジャンルなんだから仕方ないとは思う。
苦情よりも、楽しもう。

「初の沖縄出身女流落語家」という触れ込みである。
つまり、男の落語家はいるのである。
当ブログでもよく取り上げている立川笑二さんが、初の沖縄出身者。高座では沖縄のマクラも頻繁に聴く。
ご本人のWikipediaにもこのように書いてあるが、厳密にいうと先輩の立川メンソーレが初めてではないだろうか。
もっとも二ツ目に昇進していないので、ノーカウントとも考えられる。

ちょっとニュースの周辺を取り上げます。
検索狙いの嫌らしい記事ですけども。

杏寿さんはついひと月前に初めて聴いた。演目は元犬。
前座の高座に遭遇してこなかったのは、別に珍しいことではない。
昇進前に聴けてよかったなと思っている。
実にちゃんとした高座であった。美人落語家、しかもいろいろあった一門なので、聴いていなければ偏見が消えなかったろう。
ウケてやろうなんて欲は抑えて、しっかり事象を描写する丁寧な高座。
それから演技を載せていく。まさに女優の落語。
そうこうするうち、本人の魅力が乗ってくる。
シロに飛びつかれるご隠居の描写は白眉であった。

落語は男のものなどという偏見を露骨に出していたらイマドキ笑われる。
とはいえ、肚ではそう思っている人は、まだまだ多かろう。
でも視点を変えてみる。
役者の世界において、男女どっちが演技が上手いなんて、そんな議論すら存在しない。
女優のスキルを落語に持ち込めば、同じ土俵で勝負になるでしょう。なるかもしれない。

これから先、杏寿さんの二ツ目時代が安泰なんて言わない。
笑点特大号の女流大喜利には一度出ると思うけど。
その後も続くためには、また強烈な個性をぶつけなければならず、実に大変。強烈な個性があるかないかは知らない。
それに、本業が上手くないとテレビにも呼ばれない時代になっている。

落語界、特に落語協会の昨年は、パワハラで大揺れであった。
杏寿さんの師匠も、自分のブログで姉弟子(乃ゝ香)の破門の経緯をこれでもかと書き殴ったことで、自らパワハラ師匠の看板を背負ってしまった。
余計なこと言わなければ、噺家の世界でたまにある移籍のひとつに過ぎなかったのに。
だがこのたびのめでたい報道において、そんなことを書けるわけもなく。

さて、報道。
“落語に魅せられて”『タレントから落語家』に転身 金原亭杏寿の覚悟の5年3か月(RBC)
※リンク切れ

なにさ冒頭、「おい世太郎!裸足じゃないよ」って。
よたろうで変換して、弥太郎ぐらいは出るけど、世太郎は出ないな。
師匠の名前が混ざっちゃったのかしら。
ちなみに「裸足じゃないよ」もなんのこと?
与太郎のセリフで、「裸足じゃないよ下駄履いてるよ」だと思うけど。

<『前座』としての裏方の仕事は、想像を絶するものだったといいます。>

杏寿さんの想像は確かに絶したかもしれないが、読者の想像を絶するキツさというのは違うでしょう。
こういう記事を読むと、本当に世間の人は「一般人が特殊な世界に入って厳しい修業を受け、生まれ変わって超人になる」というストーリーが好きだなと思う。
真打になっても寄席から呼ばれない超人がたくさんいるのに。

「このままでは何者にもなれない」タレントから落語家に転身 金原亭杏寿さんの決意<夢かなう>(琉球新報)

こちらは別に、おかしな記事ではない。
ご参考までに載せただけ。
だが、このリンクにこんな記事があって、笑ってしまった。

北山亭さんら軽快に笑い誘い、児童ら歓喜 名護の稲田小で落語会

先に、幻の沖縄出身第1号だろうと書いた立川メンソーレが、現在地元沖縄で「北山亭メンソーレ」として活動している。
プロの世界では廃業したアマチュアとして扱われるのだが、ラジオもやっているのでタレントとしては一応プロ。Wikipediaまで作られている。
それはいいのだ。
見出しが「北山亭さん」って。

「桂さん」っていうのは本当によく目にするところ。
「Z落語」が博報堂の実施したZ寄席にパクられたという初期報道にも書いてあった。
だが「亭」がついているさん付けは初めてで、かなり衝撃を受けた次第。
もっとも、地元では、ラジオでもそう呼ばれているのかもしれない。作った亭号だから他にいるわけじゃないし。

うっかりすると杏寿さんも「きんばらていさん」なんて呼ばれたりして。
きんげんていです。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。