雲助白酒親子会@亀戸(上・桃月庵白酒「金明竹」)

よりどりみどりの日曜日、予定していなかった亀戸の会(亀戸寄席)へ当日券で。
いつも行ってる亀戸梅屋敷ではなく、さらに北、亀戸香取神社。
いつも亀戸寄席をやってる神社だが、初めて出向く。
当初想定していた行き先はまるで違う。
雑司が谷でワンコイン落語会(柳枝)を聴いたあと、副都心線に乗って渋谷らくご(馬石、きく麿)というハシゴ。
極めて私らしい一日。
渋谷らくごからLINEで割引券が届いたもので。届く前は、渋谷のはやおきらくごから雑司が谷という、逆ルートを想定していた。
私が暮らしている現代社会とズレのない落語会は、渋谷らくごただひとつだけではないかと思った。キャッシュレスOKだし。
メルマガで情報が届き、キャッシュレスで支払えるスタジオフォーと墨亭がほかではいいほう。

雑司が谷がすでに完売で、若干の当日券あり(電話で確認)と知ったあたりから想定が狂い出す。
大丈夫だとは思うものの、万一ダメだったときの転戦に気が進まない。
なら黒門亭1部でさん遊師のネタ出し禁酒番屋を聴いてから、亀戸というのもありか。
しかし結局、落語会ならハシゴなどしないほうがいいかなと思う。
で亀戸単独。なにもやむを得ず出向いたわけじゃないけども。

亀戸駅から梅屋敷の前を素通りしていくのは気が進まないので、裏から攻めることにする。このあたりのバス路線は頭に入っているのだ。

五街道雲助師は2022年秋以来。
国宝になった昨秋も座間で聴こうかと考えたが、生放送のNHK新人落語大賞の結果がWEBポータルに載るのを注意深く避けながら遠路帰ってくるのもイヤだなと思い、やめた。

社務所2階の立派な広間。椅子席だ。
いつもは独演会だが、15周年記念で親子会なのだそうで。
このくらい、150人くらいの規模で人間国宝を聴くのはいい。

金明竹 白酒
千両みかん 雲助
(仲入り)
狸賽 雲助
青菜 白酒

前座なしで、いきなり白酒師から。
すでにメクリが出ていた。

前座が今不足しているのでとのこと。
あいつら忙しいんですよ。声は掛けたんですが「埋まってます」だそうで。
弟子のぼんぼりにも訊いたんですが、「何時からですか? 難しいですね」だそうで。またお願いねって言っておきました。

バカばっかり出てきて、ひとりバカを選ぶ都知事選の話。
現職をいじりまくる。なにがプロジェクションマッピングだと。
大嫌いなんだって。
とにかく飛ばすなあ。まあ、どう見ても好きには思えないが。
2期やってるということは、この中(客)にも入れてる人がいるわけですからねと。
笑い声は大きいが、手を叩く人は半分。叩かないで笑ってる人が入れた人たちでしょう、きっと。

しかし、毒舌ではあるが「思想」のフィルターは一切被せないのが手練れの手法。
例によって、このくらいにしておきましょうか、みんな好きなんですからとフォローにならないフォローを入れてマクラの締めに掛かる。
バカを強調して金明竹へ。

この噺の好きな私からすると、この日の4席中唯一、決して好みとはいえない一席。
仕方ない。馬石師や小せん師が描くような優しさに満ちた世界とは、初めから食い違っているのだ。
ただ、植木屋のバカ夫婦を徹底的にコスり倒してなおいい気分の漂うトリの青菜と、なにが違うのだろうか?
違いは、金明竹の与太郎が受け身の点か。
与太郎、ひょうごのひょうごのは言うが、主体的に楽しんでいるふうでないので。

馬石師は柳家の金明竹なので松公でやるが、白酒師は与太郎。
言い立ても異なっている。
与太郎は奉公初日。
表とニ階の掃除がうまく行かず、スピーディーに店番を。
傘と猫と、旦那を貸すのを断るあたりも早い。
与太郎面白いことに、この3人の相手を終えるたび、主人(おじさん)に自分から声を掛ける。
タイミングは間違っているが、ちゃんと指示に従っていて、素直なのだ。
反射的に答えてしまうが、全部自分でやりたいわけではないらしい。
このあたり自由な、そしてより自然な形を求めて噺を動かすらしい白酒師。青菜もそう。

言い立てはこう(覚えてる範囲)。

わて、中橋の加賀屋佐吉方から使いに参じました
先度、仲買の弥市が取り次ぎました、道具七品のこって参じております
祐乗・光乗・宗乗三作の三所物
備前長船の則光
横谷宗珉四分一ごしらえの短刀小柄付きの脇差
あの脇差な、柄前はタガヤサン言うておましたが、埋もれ木やそうで
木ィが違うとりましたさかい、お断り申し上げます
続いて黄檗山金明竹
寸胴切りの花活け
のんこの茶碗
古池や蛙飛びこむ水の音申します風羅坊芭蕉正筆の掛物
沢庵◯◯木庵◯◯隠元禅師◯◯
この屏風な
わたいの旦那の檀那寺が兵庫におまして
兵庫の坊主のえろう好みまする屏風じゃによって
表具にやって兵庫の坊主の屏風にいたしますと
こないお言づけ願います

「遠州宗甫の銘」「織部の香合」はなかったと記憶する。
そのかわり、「短刀」や「芭蕉」が入っている。
沢庵木庵隠元禅師のあたりは4回聴いたがまるで聞き取れなかった。

この日、全般的に、師匠と弟子の声について、ヒアリングに差があった。
白酒師は非常にいい声だが、この日の音響ではよく聞き取れない部分も。
いっぽう師匠の声は完璧に聞き取れる。師匠スゲー。

旦那が帰ってきて上方男のことづてをおかみさんから聞くくだり、奥でやってる工夫は面白い。つまり、与太郎のいないところでやっている。
白酒師も、与太郎をこれ以上やっつける気はないみたい。
与太郎が消えてからは非常に楽しい。みんな入れる「与太郎のバカがうつったんじゃないか」もないし。

おかみさんによる祐乗・光乗・宗乗の再現は、「友情を工場長と結ぶ」だった。ソーメン工場。
友情を結んだのに結局ずんど斬りにしてしまうのだった。

雲助師に続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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