神奈川華高座(中・春風亭かけ橋「時そば」の失敗)

続いて柳家小せん師。
なんだか60代に見える。50歳なんだけど。
といってもヨボヨボで年寄りに見える人とはまるで違う。師の場合、積み上げた貫禄の賜物である。
老成を目指している風ではなくて。

高座の後ろにはエメラルドグリーンの後ろ幕がある。無粋だから和名でいうと、翠玉か。
小せん師、同じ色の着物を着てきてしまう。なんだかクロマキーみたい。
そのためではないかと思うが、一席黒紋付を脱がないで務め上げる。脱いだら背面に吸収されてしまう。

かけ橋さんは2か月に1回のペースということで、多いですね。神奈川県にゆかりのある噺家を集めた神奈川華高座ですが、ネタ帳見たら私は5年振りでした。
特別番組には出たんですけど。
もっと呼んでいただけるようにしたいものです。まあ、弟子もお世話になってますのでね。

私は横浜の舞岡というところの出身です。
昔は横浜の山は、手つかずでした。その山を超えて、明治学院に通っていました。
たぬきも見たことありますよ。リスなんかはしょっちゅう目にしてました。

御殿対宮殿の小噺。
信楽焼では、狸の置物は大福帳と徳利、それから大きなのをぶら下げて実に愛嬌あります。
比べると狐はちょっとキツい顔をしています。
でも狐はお稲荷さまのお使い姫です。伏見稲荷が総本山で、それから三洲豊川であるとか。
東京は王子が有名ですね。今でも王子のお稲荷さまは高台にありますが、崖の横の穴を住まいにしていたそうで。
狐がいなくなっても、その伝説だけは残ってます。

王子の狐に違いないと思ったら、さらに笠間のお稲荷さんが出てきて、紋三郎稲荷。
実によくまとまった一席だ。
江戸勤番のために駕籠に乗るお侍、平馬だが、最初はごく軽いいたずらだったのだ。
平馬が身につけた狐のしっぽ付きの外套を見て、駕籠かきが勝手にご眷属だと勘違いするのに、ちょっと洒落っ気で乗っかっただけなのだ。
しかし本陣の主人にも報告され、いよいよにっちもさっちもいかない平馬。
目が潰れるぞとか適当なことを言って、夜明けを待たずに出立してしまう。
小せん師はこういう、じわじわ来る噺が本当に上手い。

稲荷信仰がしっかりあった時代の噺。
お賽銭まで預かって調子に乗る平馬だが、さすがに怖くなる。
藩に知られたら大変だというのと、それ以前にお狐さまの祟りがあるんではないかと。

仲入り休憩後は、再度かけ橋さん。
この会みたいに呼んでもらえるのを待つだけではなく、自主興行にも力を入れることにしました。
談洲楼燕枝の島鵆沖白浪を連続でやる会を始めます。
せっかくだからチラシの写真も撮り直し、チラシも厚手のにしました。
オプション付けすぎて、全部の会が満員でも赤字確定です。

元の師匠の手掛ける演目をやるんだね。

屋台のそばを振って時そば。この冬、実に6度目の時そばだ。
まあ、いいです。ウケる演目だし。

二八そばのいわれは、もしかするとそば粉が2で、うどん粉が8かもしれません。

かけ橋さんはさすが、1周めが上手い。調子のいい男はいい気分だし、そしておそばもおいしそう。
しかし、好事魔多し。
1周めなのに「いまなんどきだい」「四つで」「いつむうななやあ」。

なまじ調子が良かったので、当人もしくじったことに気づかずいったん進めてしまう。
しかし冷静な判断のほうが遅れてやってくる。
「今、四つって言いましたよね。斬新な演出に見えましたでしょうか。違います」
もう、客にはバカウケ。
「どうしましょう。このあと、『四つ』で落とします」
悩んで結局、ちょっと遡りますと言って、やり直す。

もう考えないでも口からセリフが出る、こんな調子のいいときが一番事故が多いらしい。
といって、間違ってしまったものは仕方ない。あとはどう着地するかだ。
悩んでいる様子を見せてしまいつつ、なんとか着地点を探る。

大失敗はありつつ、2周めのそば屋は非常にユニークで楽しいものだった。
そば屋を始めたばかりで、なんだかおどおどしている。
繁盛して仕方ないというくだりはなし。さすがにそれはおかしいと思うのだろう。
このそば汁は、「無口」だった。甘口辛口のまえに、味がしない。
いっぽうでそばのほうはべちゃべちゃ。呑み込むのも苦労する。
客は「白湯をくんねえか。あ、この汁でいいのか。ムダがないね」

的に屋の刺さった看板のギャグがあったのだが、なんだっけ。非常に面白かった記憶だけはある。

勘定の段になって、ただ繰り返すわけにもいかないと思うらしい。
そば屋に「九つにします、四つにします?」なんて言わせていた。

ファイト。
続きます。

投稿日:
カテゴリー: 落語会

作成者: でっち定吉

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