グリーンホール寄席(下・古今亭菊正「大工調べ」)

仲入り休憩後はまた黒酒さんから。
先ほど出てきたとき、高座上がる前の拍手がなかったでしょ。嫌われたのかと思いました。今度はあってホッとしました。
ちゃんと頭下げてから万雷の拍手なんだからいいじゃないかと思うけど。
黒酒さんもお年玉の話を少々。
正月は道端で会ってもお年玉出さなきゃいけません。われわれもそうやって来たわけですから文句は言いません。
でもイヤですね。
立川流のなんだかわからない、お前年上だろなんて人に挨拶されたりします。

飛脚が交代しながら東京大坂を5日で駆け抜けたという話。
これは茗荷宿だ。師匠がよくやる噺。
白酒師以外では、わさび師と、オープニングトークで話題の出ていたしん平師から聴いたことがある。
白鳥師は「3年B組はん治先生」の中で、「小三治の小言念仏は手抜きだ。白酒の茗荷宿と同じだ」なんて叫んでいた。ただ、白鳥師のアジアそばも同じではなんて思ったが。

師匠に教わったはずの噺を、一席めと同様自分のものとして語り切る黒酒さん。
ストーリーが単純で、クスグリも決まっている噺だが、これが実に楽しい。

飛脚がやむなく山の中の宿で一夜を過ごす。白酒師は足を痛めたとしていたが、黒酒さんは日暮れになってしまったという理由にしている。
足を痛めてまた翌日走り出すのは変だということか。

客の来ない宿で夜を明かすご難ものだが、飛脚はわりとのんき。
慌てて沸かした湯はぬるい。理由を説明する主人に飛脚が「まず謝れ」というクスグリ、なんだかわからないが実に楽しい。
これだって、白酒師がやるから楽しいのだと思うが、でも黒酒さんは自分の肚で語って笑わせる。
夕食は茗荷尽くし。茗荷の刺し身に茗荷のお浸し、茗荷汁に焼き茗荷に茗荷ご飯。ただ、天ぷらだけはない。面倒だから。
茗荷の刺し身はただの生。茗荷の薬味でもっていただく。
「茗荷の開き」は刺し身と同じじゃねえかと飛脚。
このあたり、師匠の味でもあるが、なぜか白鳥師っぽい気もしたり。

軽い噺で大満足。

トリは菊正さん。
江戸時代は人のつながりが濃厚でした。
隣町に旨い店があっても、町内で食べたりしたわけです。
高円寺は珍しくつながりが強い街ですね。食べ物屋さんもチェーンは少なくて、
この街の落語会も大学自体にお手伝いしました。
カウンター5席しかないカレー屋さんで、よく小せん、小平太師匠を呼べたもんだと。
こういう文化は東京より地方に残ってますね。今からやる噺は、東京ではあまりやってないかもしれません。

大工調べに入る。
与太郎が最高。
昨日、小遊三師のことかなり好きなんじゃないかと書いたのだが、与太郎も小遊三師っぽい。
もっとも、直接教わってはいないと思う。噺じたいはご本人の師匠から来てるんでしょうね。
私、池袋の菊太楼師のトリで、大工調べを聴いたことがある。ブログ始める前のこと。
残念なことに、啖呵でつまづいちゃった。ご本人も、噛むとなんにもならないって嘆いてた覚えがある。大変な噺ではある。

細工は流々仕上げを御覧じろって振ってたから、フルバージョンかと思ったが啖呵まで。

菊正さん、とにかくうたい調子でいい気持ち。
そして茫洋とした与太郎が実に魅力的。
そして棟梁も大家も、自分の人生を生きてる感があって立体的。

与太郎のためた店賃は、1両と800。
多数派は1両2分と800だ。どちらでもいいが。
ただ、与太郎の放ったカネを大家が計6回拾っていたのが気になった。
1両2分だったら、1分金で6枚だ。でも1両ということは、1分金で2枚と、1朱金または1朱銀で4枚とならないと計算合わない。
まったくの想像なのだけど、所作だけ1両2分から来てしまっているのではないかと。
いや、こんなのはどうでもいい。

序盤からスピード速い。というより、スラスラ流れる。
啖呵はもちろん速い。
棟梁が啖呵を言い切ったら中手が入るところだが、菊正さん、すっと与太郎に振ってその間を与えない。
柳家の人は中手嫌いだが、客に手を叩かせないやり方は古今亭にも広まっているようだ。
確かに演者にはうっとうしいかも。客だって仕事としてやらなきゃいけない感も確かにあるので、これでいいのか。

ひとり啖呵を言い終わってからは、疲れたのか若干噛んでいた。まあ、お釣りだからいいでしょう。

クスグリもだいぶ厳選されている。
「取り上げババアか」「ジジイだよ」。ううん、とか入らないのが最高。
与太郎の「ぽんぽ〜ん」もなく、大家のかみさんに惚れてたくだりもない。
それでもしっかり、ボケつつ反撃する。

楽しい会でした。エンディングトークで告知と撮影会。
2月は高円寺落語まつりがあり、その大きな案内も配られた。
何かに来る予定。

帰り高円寺に歩いて、食事しようと思ったが、菊正さんの愛する個人経営店は現金払いだけである。
木戸銭払った私のサイフはからっけつ。
仕方ないから駅前の中華一番で。激安チェーンです。

(上)に戻る

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada コメント欄でも結構です(承認制)。 落語関係の仕事もお受けします。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

失礼のないコメントでメールアドレスが本物なら承認しています。