花みずき落語会(下・入船亭扇辰「悋気の独楽」「小間物屋政談」)

「上」は、3日の朝にアップするつもりだったのに2日の夜中にうっかり公開してしまいました。

思い出したので書く。
扇辰師、木戸銭3,000円もいただいて申しわけないですねと。
ただね、私を家に呼ぼうと思ったら1万円じゃ済まないよ。将来の人間国宝との呼び声も高いこの私がね。

私は今まで花粉症と無縁で生きてきたんだよ。なんですかその敵意に満ちた視線は。
そりゃ、ちょっと目が痒かったりなんてことはあったけど。それでも今年は多いのかね。
花粉症は気にするともうダメなんだってね。
なんでも喫煙者は花粉症になりづらいって言うんで。どうだかわからないけどね。
だから今後も吸うけどね。

マクラは25分ぐらいあった。大変くつろいだ。
扇辰師、誰かを非難しているわけではない。田嶋陽子の名だって結構気を遣って出しているのだ(フェミニズムに基づく落語嫌いをたとえると、この人になってしまうということ)。
ちなみに現代やってウケない噺とは、差別要素もあるが、尽きるところ「黄金餅」みたいなグロものがとどめを刺す気がする。
私は嫌いじゃないけど。

今からやる噺もね、嫌いな人がいるみたいなんだよと言って、悋気の独楽。
まあ、本妻の妾に対する嫉妬を描いた噺であり、嫌いな人もいるかもしれない。実際のところ、女性の好きな噺筆頭だとも思うのだけど。
扇辰師がやるとは知らなかった。

噺の骨格は珍しいものではない。極めてふつう。
今流行りの遊雀師のものから、特徴的なクスグリだけ抜いて普通にしたイメージ。
ではデキも普通か。普通ではない。顔芸炸裂。
扇辰師に顔芸のイメージはあるけども、ここまで顔をフル活用した噺は初めて聴いたかもしれない。
扇辰師の一般的イメージはどこまで行っても「本格派」だと思うのだが、イメージを裏切る本格顔芸落語。
定吉の喜怒哀楽が、顔をフル活用して描かれる。

旦那はおかみさんを偽り、夜中出かける。
行き先は鈴本演芸場。入船亭扇辰といういい噺家が出ているそうだ。
終演は午前3時なので、先に寝ているように。

おかみさんのスパイとして追いかける定吉、耳が遠い旦那だから聞こえないだろうと踏んでバカーと叫ぶのだが、聞こえてしまう。地味に丁寧なつくり。
帰れと命じられるが後をつけて、妾宅を発見。
ここは旦那と妾が玄関でよろしくやっているのを見つけて自らようようと声を発する。
これほど楽しそうな定吉、なかなかない。

お妾さんはさすが扇辰師の得意なキャラで、極めて色っぽい。
色っぽいのもやっぱり顔芸が活きる。

仲入り休憩があって、2席目。
2席やるときはいつも着替えてお色直しをアピールする扇辰師だが、この日はそのまま。
たぶん、家で着替えてきたのでは。
ちなみに1席めも2席めも、頭を下げるタイミングがヘン。そんな人だったか。
頭を下げるかと思ったら返し、それから結界としての扇子を置いて頭を下げる。

そんなに長くはやりません。もうこのあと飲むのが楽しみで。
今ではわからなくなった商売、背負い小間物屋について。
ということは、小間物屋政談。Web情報によれば最近ネタおろしした噺だそうで。

私結構好きだが、なにが楽しいのかわかりにくい不思議な噺。
ただ、扇辰師がなぜやりたいのかはわかった気がする。
要は、三方一両損やさじ加減と同じく、大岡越前守が出るからみたい。
でも、大工調べはやらないんでしょうかね。やりそうなのに。
小間物屋政談にはいなせな江戸っ子は出ないから、最後になったのか。

30分の噺の中で、大岡越前が出てくるのは最後の数分。扇辰師「お待たせしました。お奉行といえばこの人です」。
大岡裁きの場面でいったん、死んでしまえと言われた主人公小四郎。「ずるいぞ、えっちゃん」。
三方一両損、そして竹の水仙の細川公(越中守)もえっちゃんだったな。

落語には「間の悪さ」を楽しむものがあるなと最近考えている。聴いたばかりの「雪とん」とか。
小間物屋政談も、間の悪さで練り上げた噺。人助けをしたのに、旅先で客死したことにされてしまう。
特に、助けた若狭屋が亡くなるにあたっては、複合的に絡み合う要素があったことが強調されている。
罪もないのに追い剥ぎにあい、それが原因で亡くなる若狭屋が気の毒だけども、そこに引きずられないで聴けるなら、間の悪さが非常に楽しい噺だ。
遠いところを帰ってきたら、この世にいてはいけない存在になったとはトホホである。トホホも人生だ。
そして実際に楽しい語り。

愛妻が結果的に自分のいとこに取られてしまい世をはかなむ小四郎であるが、大岡裁きで3万両の身代と、超美人の奥さんがついてくる。
人生そんなことが幸せでいいの? と現代人が引っかかるポイントはあるだろうけど。
でもいいじゃない。

高座を降り、立ってこの噺もね、嫌いな人がいてねと語る扇辰師。

1時間半で3,000円は高いことは高いが、満足の2席でした。
地元でくつろいでいる扇辰師もなんだかいい感じ。

昨日フライングでアップしてしまったので、今日も合わせますよ。

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