雷門音助落語会(下・火事息子)

着物も着替え、仲入り休憩後の3席め。
これはネタおろし演目の出番。と言ってもネタおろし含む3席と予告されているだけなので、この出番がそれなのかはわからないが、でもそうらしい。

先ほど春の噺をやりました。今度は季節を戻って冬が似合う噺を。
大岡越前守が命じたいろは四十八組の町火消しと、定火消しである臥煙の説明。臥煙が出てくる噺なんて火事息子しかない。
さすがに『へ組』ではカッコがつかないという小噺を振る。
へ、ら、ひ、ん組はなくて、百、千、万、本が振られた。
『ら組』は、「裸」だから、あるいは「魔羅」だからだと、だいたい説明が2通りある。
私は後者だと思っている。裸なんて問題にならないと思うのだが。

臥煙は竹を枕にして寝ていて、いざ火事になるとこいつを叩いて一気にみんな目を覚ました。
臥煙はみな、見事なモンモンを入れていたが、これは火災事故で万一亡くなっても、身元を明らかにするためなんだと。
この説明は初めて聴いた。
じゃあ、町火消にも入ってないとおかしい気もするが。

音助さん、半鐘の鳴り方の実演を入れる。
火の遠さによる3段階と、火が湿ったあとの半鐘。
声での半鐘の表現が、実に上手い。声を楽器のように使えてこそだ。

火事息子、現場で聴くのは初めて。
大ネタで季節ものだから、不思議なことではない。
臥煙が世間で忌み嫌われたというのは強調されない。こだわりなのだろう。
もちろん主役であるからして。

そういえば「相棒」に、変なストーリーの火事息子が取り上げられていたのを思い出す。
息子会いたさに自宅に火を付ける、と落語に詳しい右京さんが解説をしていた。はて。

冒頭、知らないシーンから始まる。
臥煙の男、すなわち若旦那が、おっかさんの夢を見て目を覚ます。
その話に付き合って、俺もそうだと自分の見た夢を語る同僚。
笑いも入って、人情噺のムードにはまだまだ早い。

この場面、従来の古典落語にあるのだとしても、なんだか現代の脚本家が加えてみたようなイメージである。悪いと言ってるんじゃありません。
ともかく、若旦那が生家の心配をして出向くというフリにはなっているのだった。

若旦那の生家は質屋。質屋のくせに、火が近づく中で蔵の目塗りをしておらず、通行人に陰口を叩かれている。
店のものは火事見舞いに出向いたので、高所恐怖症の番頭をはしごに登らせ、小僧の定吉とともに目塗りの準備。
そこへやってきたのが若旦那。番頭をぶら下げて手伝ってやる。

人情噺になるのはここからだ。
番頭が若旦那を引き留め、旦那との対面シーン。
そしてここからが最も感心した部分。

音助さん、ウェット感を一切打ち出さない。
人情噺を演じる方法論が、並の二ツ目と違う。泣かせてやろうとか、自分の気持ちを入れようとか、そんなことは一切ない。
音助さんは内面を描こうという誘惑を捨て去り、切り捨てて、ひたすら外面だけ描く。所作がいいから、外面をきちんと描ける。

外形的には、親父は勘当息子がノコノコ帰ってきやがって、怒りむき出し。だが、静かな怒り(それでもたまに噴き出す)ゆえに、客に全部伝わっている。
親父に怒鳴られ、帰る息子を番頭が止めて、母親を呼ぶ。
冒頭の夢がここで初めて実現するわけだ。母親は息子が帰ってきているのをようやく知る。
母親が出てくると、さすがの親父ももう弱い。厳しい態度は崩さないが、なんでもかんでも捨てちまえと。誰か拾うだろうから。

息子が火消し好きになったのには、説得力がある。
乳母が火消しの家の生まれだったのだ。亡くなった夫も火消し。
火事と聞くと、若旦那をほっぽりだして見にいっていた。
若旦那に与えられたおもちゃも纏であるとか。

火消しになりたい若旦那を止めようと、回状を廻し、これで安心だと思っていたら臥煙になってしまう。
この部分で、旦那の深い後悔がよく伝わってくる。町火消しだったら、ずっとマシだったのにという。

ネタおろしなのだとすると大変な一席である。
ひとついただけないのは、客にブラボーマンがいた。サゲの拍手が早すぎるだろう。
フライングはしてないから文句は言いづらいけど、むき出しの自我はなんかイヤ。

第二希望でやって来た会だが、非常に満足した。
音助さん、この日暮里は別にして、神奈川県でよく会をやっている印象。
チャンスを見つけ、もうちょっと聴き込んでいきたいものだ。

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作成者: でっち定吉

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