国立演芸場寄席@紀尾井小ホール2 その2(柳家わさび「券売機女房」)

先日、鈴本の披露目で半分寝てしまった風藤松原だが、今回はフルで聴けてよかった。
それにしても寝てばかりだ。
昔書いたクレイジーなラブレターのネタ。
風藤のごく緩いツッコミが時代にマッチしてすごく好き。あんまりボケを否定せず、たしなめる程度の。
内容的には完全否定すべきクレイジーさを、客にスムーズにつないでくれる。
意外と後半は変則パターンを入れてくることに今さら気づいた。
緩いたとえツッコミを、今度はボケの松原が引き伸ばしてくる。
非常にウケてました。

先日長井好弘氏が、最近増えた落語協会の色物の先生を褒めまくっていた。
内容についてはまったく同感だが、そのちょっと前に加入した風藤松原もいいよなあ。
漫才の空気が落語に近いのが利点であり、場合によっては逆にマイナスに働くかもしれないが。

続いて目当てのひとり、柳家わさび師。
一度らくごカフェの「月刊少年ワサビ」に行ってみたいと思いつつ、まだだ。
変な髪型なのに拍手していただいてありがとうございます。

この人が初めて、やや少なめの人数に触れる。
袖から見てたら、結構多く見えたんですけど、前だけでしたね。
前のほうに集中して座ってらっしゃる方がよく笑うかというとそうでもないです。昨日もそうでした。
ここは指定席ですから、自分の意志で席取ったはずです。自分で前に座ろうと思ったはずなのに。

ただ、私もかつてはオチケン出身のファンでしたから。最前列に座って笑わない、イヤなファンでしたよ。
昔、遊平・かほりっていう夫婦漫才がいらっしゃいました。末広亭で、私最前列に座って笑わなかったんですよ。
かほり先生、袖にハケる際にハッキリ言ってました。「なによあの子」。
次が橘家圓蔵師匠です。メガネスッキリ曇りなしのあの師匠ですよ。袖でかほり先生と話してる声が聞こえてきました。
「よし、俺に任せろ!」
圓蔵師匠、一席終えて袖で「ダメだったよ」。
ファンとしては、師匠方にそう言わせるのが快感なわけです。

いろいろなファンの方がいますよ。
中には、私のときだけ出ていく方なんてのもいらっしゃるわけです、私もこういう芸風ですから、好き嫌いが別れるみたいで。
そういうファンの方には、私は「さびぬき」ですね(拍手)。

先日シブラクで聴いたわさび師は、なんだかずっと怒っていた。それはそれで面白かったけど。
今回、寄席の緩い空間で、実に緩いいい仕事をしている。
かつての自分を含む痛いファンを描写する際は、談志みたいな斜に構えたポーズ。これが繰り返し出てくるのでいちいち笑ってしまう。

こんな緩い空気だから古典だろうと思ったら、新作だった。
この人は今後新作派としてやっていくのだろうか?
新作も作る古典寄りの人と認識していたのだが、わさび師の作る新作世界は、まさに新作派のものである。

羽織を脱いでからだったと思うが、最近の飲食店はみんなタッチパネルですねと。
中に、店員がいつまで経っても来ないので怒っているおじさんがいる。店員が見かねて説明に来ると、「わかってるよ」。
そしてタブレットに向かって「ラーメンひとつ」。
高齢者の知ったかぶりを扱ったネタは、高齢者に大ウケ。

そこからラーメン屋の券売機へ。
昨日、現金だけの券売機のお店で食べてしまったがゆえ、セブンのATMで手数料払っておろさなきゃいけなくなった身からすると、タイムリーだった。
タッチパネルと券売機とは時代がだいぶ違うのに、いたくスムーズにつなげてしまう。
新作作り慣れてない人の新作だと、券売機を無限に拡大してしまい、客が「今令和だけどね」とツッコんでしまう。
そんなこと、実にしばしばある気がする。

老舗のラーメン屋。爺さん婆さんふたりでやっている。
毎日来る常連客が、ここのラーメンは今どき普通でいいねと。今どきみんなとんこつだからね。
普通のラーメン喰いたかったら富士そばに行かなきゃいけないってどういうことだよと。

婆さんはいまだにそろばん使ってお会計。間違えることもある。
常連が、券売機入れたらどうと勧める。
店主も考えて、よし、いっそ作ろう。
これぐらいはネタバレして構わないと思うのだが、婆さんの体に合わせた券売機を外側だけ作成し、婆さんに中に入ってもらう。

吉田戦車のマンガみたい。
「伝染るんです。」にも、ハンドドライヤーに人間入れる4コマがあったのを思い出した。

爺さんも外側は立派にこさえたのに、印字するところまでは手が回らないので、食券は手書き。
婆さんがいちいち書いて出す。
券売機自体は古めのアイテムだが、常連客がやってきてPayPay払いしようとするあたりでちゃんと現代にフックが掛かっている。

演題は「券売機女房」。らしいタイトル。
普遍的なネタだし、今後も寄席で聴けそう。
世界観が白鳥師っぽい。

続きます。