鈴本演芸場12 その3(隅田川馬石「浮世床・夢」)

仲入りは主任の兄弟子、むかし家今松師。
この人も、ブログ始める前だから、10年以上前に黒門亭で聴いて以来。
その後も何度かチャンスはあったのだが。

泥棒を本当に軽く振って、穴どろ。
黒門亭で最後に聴いた演目だ。何年か挟んで同じ演目というの、実によく経験する。結局得意演目だということ。
他の例として入船亭扇好師は「持参金」だったし、桂ひな太郎師は「たいこ腹」だった。

10数年前の穴どろ、実に印象が強かった。
私の中で穴どろのスタンダードになっている。

うーん。記憶が美化されてるのか、10年前の一席のほうが良かった気が。
なんだかスラスラと終わった。聴きやすいのはいいのだけど。
短くなっていたと思う。
仲入りなんだから「こっちの腕には昇り龍、こっちの上には下り龍」とか毎回入っていてもいいなと思ったり。

ちなみに「穴どろ」と「碁どろ」だけは、私はこう書きたい。泥ではなくて。
でも「夏どろ」とは書きたくないのだった。自分でもよくわからない。

仲入り休憩では、前座の翁家丸果さんが座席の前で諸注意。
この後はアサダ先生のインチキマジックの手伝いもして、忙しい。

アサダ二世先生は、寄席の顔付けはもうだいぶ減ったはず。77歳。
最近では、池袋のマクラで取り上げられる伝説のマジシャンになってしまったかも。お見かけできて嬉しい。
この先生は漫談だけで十分つなげるから、まだまだご活躍が期待できます。
今日はちゃんとやりますよからテキトーにやって、拍手が来ると「それほどのもんじゃないですから」。

風船割りマジックの際は、直前に楽屋口の戸がスーッと開く。

後半の落語はいつもより数が少なく、主任の弟子の隅田川馬石師。
クイツキのあと、もうヒザ前である。

いよいよ楽日です。毎日いらしてる方もいらっしゃいますし、初めての方も。
面白い芝居ですね。

平日は後半だけの幕見券で入れるにしても、毎日来ている人がいるなら馬石師も大変だなと思う。
床屋の説明から。
バーバーなんて言うから入ってみたらジジイがやってる。
池袋ではこんなの結構好きなんですと語っていたが、この日はスルー。

この浮世床(夢)が圧巻で。
主任を前にして、すばらしい一席を聴いた。
馬石師にしてはオーバーアクションの一席。この所作がたまらない。
半公を策略で起こすあたりからもうアクションが大きい。
もっとも馬石師、大きな所作を日頃使わないかというと、決してそんなこともないけども。ただ、あざとい使い方はしない人。

「浮世床(夢)」って、演題が完全にネタバレしてるよなと思う。
ネタバレしたって楽しいのが古典落語というものだ。
ヒザ前でやる噺としては、わりと大きなほうかも。
床屋の奥の座敷でわいわいやってる若い衆たちが、寝てる半公を起こし、そして年増としっぽりの夢を聞く。
夢の話を一生懸命みんなで聞いてる、実に平和な話。

馬石師は、「音羽屋」でおまんまっ粒を飛ばしたり、最後に寝小便でサゲたりしない。綺麗ごとですね。
そういえば、盃洗のくだりは詳しいのに、「ゆすがなかったのよ」をウケどころにはしない。そういうのは陳腐なんじゃないかと。
次の間をすっと開く場面が盛り上がりのMAX。

半公の話は、決してテンション高いわけではない。なのに次が聞きたくなる。
落語の客は先を知ってるわけで、それでも色っぽい話の先を聞きたくなるんだから、どうにも大変な話術ではある。
この噺の場合、「半公と若い衆」の会話が基本であり、そこに「夢の中の半公と年増の会話」が絡む。
この切り替えが実にナチュラル。渾然一体となってるところがすばらしい。

会話を止め、客を向いて「長え夢見やがった」。

ヒザは江戸家猫八師。
座り高座になったのは知らなかった。襲名披露でも立ち高座だったけども。
三代目は座り高座だったから、不思議はないけども。先日お見かけしたまねき猫先生もそうだし。
毎日来ている人は、猫八師が内容を毎日どのぐらい替えてるのか、きっとご存知だと思う。
今回は「羊とヤギとアルパカ」。
そして、全国の動物園飼育員と仲良くなって、カバの鳴き声を聞きにいく。そして無事マスター。
でも、親父(四代目)がこどもさんのリクエストにより堂々と披露した、カバの口を手で表現した「カバー」に勝るウケは得られない。

主任の雲助師、ネタ出し「木乃伊取り」に続きます