続いて桂やまと師。
一席終えたばかりの貫いちさんを褒めまくる。
こういうのは勝手に褒めたってダメで、客が聴いたばかりの一席を評価しているからこそ響くもの。
貫いちさんは二ツ目になって半年ですか。大したものですね。
二ツ目昇進のこの時期、みんながみんな順調じゃないです。貫いちさんは堂々としていていいですね。
人生2周目じゃないでしょうか。
この新横浜コットン亭は、私も顔づけのお手伝いさせていただいています。
今後もどんどん若手の有望株をご紹介していきますのでご期待ください。
ははあ。そうじゃないかなと思っていたのだが、やまと師はこの会の世話人なのだ。
師のメガネにかなった二ツ目だけが顔付けされるのだろう。
どうせなら協会以外も呼んだらどうかと思うが、そのあたりは差し障りがあるかも。
最初に話が通ったのが落語協会であったなど(想像)。
私このたび、鈴本演芸場の6月下席(夜)でトリの出番をいただきました(拍手)。
ありがたいことで、久しぶりです。
真打になって、一度はトリは取れるんですよ。披露目の席で。
でもそのあと、トリの出番回ってこない人のほうが多い世界です。
拍手をいただいたということは、皆さんお越しくださるということですね。
10日間ネタ出しです。気になる演目がございましたらぜひ1日だけでも。
鈴本でトリ取るのは大変な栄誉。
トリ以前に、鈴本だけはお呼びがなくて出られない落語協会員がどれだけいるか。
やまと師は久々でも繰り返し鈴本からお呼びが掛かるのだから立派なもの。
ちなみに初日はいきなり「叩き蟹」だって。また珍しい。甚五郎ものの珍品ですな。
東京の落語家は、寄席からの評価で客観的な実力が明らかになる。そのため「俺は本当は上手いのに世間が認めない」という勘違いは極めて薄いようである。
やまと師も精力的に活動中で、チラシが多い。
町屋の独演会とか。
一つ気になったのが、神奈川県愛川町で「お札はがし」やるそうで。
ここはすごい場所。カーシェア出さないと行けない。行ってみたいが。
東京はこの時期、お祭りが多いです。
寄席発祥の地である下谷神社を皮切りに、三社祭、神田祭などいろいろ始まります。
とげぬき地蔵のご利益の話。
トゲの刺さった上からお札を巻いておくと治る。
魚の骨が喉に刺さった際も、お札をおまんま粒と一緒に飲み込むと治る。
やまと師は実際に、お婆さんにこう教わっていた。
トゲは抜いてから巻いたほうがいいんじゃないか。骨はご飯粒のお陰じゃないかとは思う。
それから戸隠さまと「ありの実」を振って、佃祭。
佃祭という噺、不謹慎なシーン(もちろんギャグ)が5箇所ほどある。
- 「旦那さえ助かれば、後はどうだっていいんです」
- 「次郎兵衛さんが死んだって? いやあよかった」(昨日佃に誘われたから)
- 悔やみに来て、愛妻とののろけ話
- 「おかみさん、次郎兵衛さん助かったってよ。女といたって」
- 「ノリ屋の婆さん、この棺桶引き取らねえか。そろそろ要るだろう」
やまと師から感じたテーマは、これらのシーンをいかに気持ちよく乗り切るか、である。
不謹慎クスグリのために、全体を壊すのはダメだ。
ちなみに「入れない」という選択肢はない。
結果すべて成功で、気持ちいいシーンばかり。
佃祭は、悋気のかみさんの扱いが難しいようで。演者が、かみさんがイヤでやらないこともあるようだ。
やまと師は、そこには焦点を合わせない。悋気は、次郎兵衛さんが家に帰らないといけない理由づけとして機能するが、実際にかみさんがぐずぐず言うシーンはない。
最後の、町内の悪い奴がかみさんを焚き付けるセリフはすぐにニヤッとして「これは冗談だから」。
亡くなったはずの人が帰ってきてよかったねという喜びに溢れている。
与太郎でホロっとさせたりはない。
もうテーマは出し切っているのだろう。
やまと師は感情豊かに語る人。
だが、やりすぎというのはない。
かつて身投げを助けた娘、今はおかみさんに引き止められて乗り損ねたしまい船が転覆したと聞き、「よく引き止めてくれた」となんとも言えない感情が溢れ出している。
私の印象では、命が助かったとしても、わりと達観して描くものが多い気がする。やまと師は客に届けるために、しっかり感情を語っている。
町内総出で弔いの準備をするが、フライング的な、集団粗忽的な描き方はない。
これはうっかりではなく、生存者がひとりもいないことが明らかになっている以上、やらないほうがどうかしているようだ。
次郎兵衛さんが生きて帰ってきたその際の「なんだか賑やかだな」に、味噌蔵と同じ要素を感じた。
この普遍的な落語のおもしろ要素、いずれ言語化してみたい。
「ありの実」を振ってるが、与太郎が活躍するサゲは「梨」だった。
鯉昇師などこのラストをカットしてるが、この蛇足のようなシーンもいいなと思った。
わざわざ仕込まないといけないので面倒だけども、大作の人情噺のラストとしてはなかなかいい。
ここで仲入り休憩。
続きます。