新横浜コットン亭4(上・春風亭貫いち「元犬」)

2024年に復活した新横浜コットン亭、当初は昼席と夜席を交互に実施していたが、2年目の今年からオール昼席になったようで。
昼席のほうが人が来る時代だというのと、働き方改革もあるのでは。
私は、現状家族に気を遣わない昼のほうが助かる。

昨年は復活回(馬久一花夫婦)を除いて、真打昇進直前の二ツ目を集めていたのだが、これもなぜかやめたようで。

先日東急電鉄に1,000ポイントもらったので、これでフリーパスを買って新横浜へ。
電車賃がタダで、入場料は予約で500円引き。助かりますなあ。
おまけにスタンプカードも4つ目を捺してもらった。もう1回来たら、その次は500円引き。

今回は、昨年もここで聴いた桂やまと師と、二ツ目の春風亭貫いちさん。
やまと師は、「雲助的なもの」を聴きたい気分にぴったりな人。なにしろ人間国宝に顔が似ている。
とはいえ、この師匠独自の若々しい斬れ味も濃厚。

貫いちさんは前座の頃から着目していた人だが、あるとき突然、落語協会前座香盤のトップに立っていた。

前座香盤6人抜きの怪(春風亭貫いち)

結局、ただの間違いだったようで。
結果的には世界一どうでもいい記事を書いてしまった。

元犬 貫いち
佃祭 やまと
(仲入り)
武助馬 やまと
天災 貫いち

メクリは貫いちさんになっている。
ということは、トリを取らせてもらうのだ。

派手な師匠のマネはせず、割と棒読み路線である。
二ツ目になってからは初めてだが、前座時代と大きくは変わらない持ち味だ。
柳家にいそうなタイプ。
常に基本の棒読みに戻ってくる人。演技は決して突出せず、かなり聴きやすい。

貫いちさん、入場していきなり、室内の配線のため10数センチ嵩上げしてある段差に躓く。

いきなり段差に躓いてしまいました。前途が思いやられます。
なんでも100人お越しだそうで。いいんですよ後ろ振り返らなくても。本当にそう聴いてきました。

平日昼間っからすごい入りだが、「仕事は何してるんだ」みたいなヒルハラは入れない。
うん。賢い。

春風亭貫いちと申します。昨年秋に二ツ目に昇進しまして。
万雷の拍手をいただきありがとうございます。お客さまに強要したような感じになってしまいましたが。
昇進したての頃は、拍手も大きかったんですよ。これが年を明けて1月2月と、段々お客さまの手の位置が下がりまして。
先月あたりはもう、拍手の形がこう(縦)ですよ。
お客さまをキムジョンイルにしないためには、言わないほうがいいのかもしれません。

前座の修業は大変ですよ。
一門にもよりますけど、基本的には朝早起きして師匠の家の用事をして、それから都内の寄席に出掛けます。
夜は夜で落語会です。私が入ったコロナ前は、日をまたぐ打ち上げも普通でした。
それに付き合って、また翌日早起きです。
365日休みはありません。
二ツ目になると、こうして羽織が着られます。
出囃子も付けてもらえます。名前がカンイチなので、金色夜叉です。
わかりにくい話ですみません。

池袋演芸場では、地下にロビーがあります。お客さまのためでもありますけど、芸人のためでもあります。
ここでお客さんに声を掛けられました。
「貫いちさん、いつも見てるわよ」
絶対ウソですね。見てません。
「貫いちさんは噺家になる前何してたの?」
今はだいたいそうですが、私も大学を出ています。そして、お客さまは、大学で何を専攻していたのかが気になるようで。
噺家になるくらいだから、言語学じゃないかとか。あるいは歴史であるとか。文系だと思われる方が多いようです。
私は(前に身を乗り出して)理系です。
生物学を専攻してました。
ニホンジカのフィールドワークをしてたんです。教授に従って、富士山の裾野を上がったり下がったりしてました。
ニホンジカは芽の柔らかいところが好きなんですが、季節が変わるとなくなります。
それで木の皮を齧るんですね。木が呼吸できなくなって枯れてしまうので、社会問題にもなってます。
ニホンジカの研究をしていて、今はハナシカになりました(拍手)。
これが言いたいだけなんですけど。

落語のほうにも動物が出てきます、
狐狸、それから猿ですね。

と振って、古典の動物小噺を一つやったあと、ドライブ猿小噺へ。
これはかなり大ウケ。
基本地味な芸風だが、この小噺はウッキウッキ、ウホウホ言ってハイテンション。

そこから動物つながりで、元犬に入っていった、
あんまり見ない入り方。

前座噺で飽きているものはそんなにないのだが、転失気と元犬だけはちょっと飽き気味である、特に元犬。
だが語りのベースが常時低位にあるので、とても聴きやすくていいなと。
前半はさりげないが、サゲ付近はなかなか画期的であった。控えめな人なので、「どうだ!」とはやらないのだけど。

女中のおもとさんという、取ってつけた登場人物が存在しない。
最後まで上総屋さんも奉公先にいて、一緒に隠居の話を聞いている。
隠居は「ちんちん」と「ほいろ」に関するシロの行動を非常に気に入ってくれる。

「おもしろいね」
「頭も白いんです」

作ったサゲまで書くのはどうかと思わないでもないが、いいでしょうこのぐらい。

飯を残さず平らげたり、猫と闘ったりするシーンはなくて、ちゃんと編集してある。
そして、上総屋さんも隠居も、面白がりはするがあまり不思議がらない。
芸風にもピッタリだし、そしてこのほうが古典落語っぽい。
雑巾拭きは、上総屋さんバカな褒めよう。

今後に期待大のいい一席でした。

続きます。