新宿末広亭6 その1(坂本頼光「一寸法師ちび助物語」)

25日、日曜日は家族から解放される。
これは夜出かけなければもったいない。
昼でよければ、昨日ちょっと触れた神奈川華高座などあったのだけども。

しかし日曜日夜の落語会、びっくりするほどやってない。
なら寄席。
鈴本の主任は柳家小平太師。ネタ出しで「愛宕山」。
好きな人だが、鈴本も最近続いている。愛宕山も嫌いな噺ではないけども、ネタ出しで聴きたいほどでもなく。
浅草演芸ホールは女性を集めた「桃組」。画期的な席だが二度目だし、強い興味まではない。

それから芸協の新宿末広亭。主任は瀧川鯉八。
これが一番魅力的な番組で。
芸協は、この日芸協らくごまつり。そちらの催し参加はやめておくが、新宿ならフルメンバー。
鯉八師ねえ。
いまだにアレルギーがある。とはいえ大谷骨折ギャグの是非は今さらいいのだ。
でも、あれをきっかけに色々考えてしまい。
寄席では、あれ以後国立で一度聴いた。もう2年前のこと。別に不満はなかった。
でも今日はトリか。

主任にだけいささか問題のある番組だ。あとは本当にいい。500円の割引券は出てるし。
いざとなれば主任の前に帰ればいい。さすがにそんなことはしないけど。
昼の主任、三遊亭遊吉師から入りたかったが、割引券は夜席限定。

まつりの空気を客も演者も吸い込んだ、なかなかすごい番組でした。
笑点メンバーこそいないものの、夏のにゅうおいらんずを思い出した。
そして新宿は、少なくとも前半は、寄席の基礎に満ちている。

小噺・道具屋 伸都
饅頭こわい 銀治
坂本頼光
犬の目 とん馬
転失気 小痴楽
ポロン
うつけもの 円楽
粗忽長屋 傳枝
コント青年団
僕の彼女はくノ一 今輔
(仲入り)
つる 茶光
陽・昇
祐子のスマホ 太福
あたま山 夢丸
小助・小時
おはぎちゃん 鯉八

前座は初めての、桂伸都さん。出囃子は「前座の上がり」ではない。
声大きくてオチケンっぽい。悪い意味ではない。
4分で高座降りちゃった。
あんまり末広亭来てないけど、さすがにこれが普通じゃないだろう。お祭りから転戦したお客を楽しませるため、早く降りてるのだと思う。
道具屋だが、鉄砲見せろの客しか出てこなくて、「値は」「ズドーン」で終わり。これはこれで斬新。
与太郎に対し「馬鹿に丈夫な甥っ子がいるって聴いてるよ」までは普通。
それを与太郎が受けて、「そうなんだ。俺風邪引いたことないんだ」。
「そうだろうね」
結構ウケた。

続いて二ツ目、兄弟子の銀治さん。
さっそくお目当てのひとり。
名前のネタ(伸ぴんが中古になるかと思った)と、なんだったかもうひとつ振って、饅頭こわい。
もう3席めだ。得意ネタなんだろうけど。
この人オリジナルは、葛饅頭投げつけと、足の速いやつが医者に走る準備してること。
重ねて聴いても面白いけど。

最初の色物がさっそく坂本頼光先生。
前座さんがスクリーンとプロジェクターを持ってくる。
私の注目している三笑亭夢ひろさんがいた。
もうひとりは知らない人。
その後出てきた前座と合わせ、「桂あま夏」「桂伸球」のどちらかである。

頼光先生みずからスクリーンを引き上げて設置。
この先生、クイツキでしか見たことがなかったので、こんな様子は初めて。
今日の芸協らくごまつりの話から。今回初めて参加したそうで。
活弁教室を開催した。
「いやあ私なんか」と遠慮する人ほど、本番が始まるとノリノリなんだそうで。
今日の活動写真は、昭和10年のアニメ映画「一寸法師ちび助物語」。

当時はもうディズニーの影響を受けていて、なんだかぬるっとする動きですとのこと。
よくわからないが、頼光先生、こんな動きですと実演してくれる。

このアニメがやたら面白くて。
映画、というか編集されたビデオの冒頭は、お椀の船に乗ったちび助ほか、一行が川面を都に進むシーン。
ちび助の箸の櫂は折れてしまうが、そこから2本の櫂でもってボートのごとく漕ぎ出す。
岩に乗り上げてしまうが、それは亀の背中。無事都まで運んでもらう。

基本一寸法師なのだけども、鬼退治の部分はマッチを使って火攻めするという、当時の最先端ギャグ。
桟敷席から坊やの笑い声が聞こえてきてなんだか私も楽しかった。令和の坊やにも、90年前のアニメーションが響くのだ。
こんなにユーモアに溢れる我々の父祖、ネット時代になるまで「真面目一辺倒で面白みのない民族」と評価されていたなんて信じられない。

ちび助はなんだか知らないが妖術が使える。
木のうろからなんだか知らないが巨大な印形を取り出すと、これを地面に押して次々と自分の複製を作る。
分身の術と火攻めでもって鬼を見事退治。
頼光先生が、「室町時代にない近代兵器」だって。

いいものを見せていただきました。

続きます。