新宿末広亭6 その2(柳亭小痴楽「転失気」省略の見事さ)

思い出したが、銀治さんの饅頭こわいでもって、「アン殺」がやたらウケて、拍手まで飛んでいた。
まったくわからない客層。
ちなみにここの普段の客の質は、寄席四場では一番いいと私は思ってるのだが。その割には池袋派だけど。

続いては、春風亭柳雀師の代演(昼席から移動)で、三遊亭とん馬師。
あいびきは出していないので腰はよくなられたのか。
代演の説明はしない。
そして、「とん『ば』です。他の読み方はしないように」もやらない。
九官鳥小噺は「新聞屋です」だけ。
なるほど、演者の多い新宿ならではの作法。

犬の目だったが、繰り抜いた目を干してるあたりで寝落ちしてしまった。

続いて柳亭小痴楽師。
令和の落語界を背負って立つと、小痴楽師に高い評価をいつもしてる私だが、そんなに数聴けてはいない。
芸協の場合、若手だと主任もだいたい夜だし。
なので非常に嬉しい。
いつも、次の芸術協会会長になる人だと勝手に書いてるが、YouTubeで文治師もそう言ってるのを聴いた。

小さく痴◯を楽しむは振らず、芸協らくごまつりの話から。
下手を指して、「あちらでやってました」と言うが、そちらは代々木方面だ。
芸能花伝舎は、高座の後ろ側。
芸人が高座で方向を示すとき、合ってた試しがない。わざとなの?

小痴楽師は、トークを担当していた。そして、NHKラジオでもって生放送特大版。
あたしは普段からね、言っちゃいけないことを言う癖があるんで心配でした。
第1部は昇太師匠。
第2部は宮治、伯山といった人に出てもらう。
伯山は日頃、小痴楽師と共演NG。なんでかというと、「ぼくには将来がありますから」。
だから出てくれて嬉しかった。

1部は喋ってましたけど、2部はあたしあんまり喋ってないですよ。
らじるらじるで聴けるので、よかったら聴いてください。

はい、必ず聴きますよ。

なんてことない話なのだけど妙に楽しい。何喋ったって楽しい。
知ったかぶりを振る。
ああ、演芸図鑑で出してた覚えがあるが、転失気かなと。
千早ふるは持ってないんだろうか? やかんは確かやるはず。

前座噺大好きな私は、真打の前座噺ももちろん好き。
だが、転失気はさすがになあ。
と思ったのも束の間、転失気界のベストオブベストでした。すごい。

「おならってなんですか?」
「おならを知らんのか。アイドルじゃな」
という医者のツッコミボケは面白かったが、基本はそんな入れ事の芸ではない。
なによりも圧倒的なリズムのよさ。

次に面白いのが、雑貨屋と花屋のパラレルなセリフ。
「和尚によろしくな」
「ところで転失気ってなんですか」
「和尚によろしくな」
子供の質問をスルーする大人。ステキ。
ただ、真似したらコケそう。語りのリズムひとつに掛かってるから。

花屋ではいったん奉公人に振った転失気が、婆さん経由で爺さんに戻ってくる。
これは手水廻しに似ている。

さらに気づいたのは、省略の多さ。
次の、この噺に不可欠ではないかと思いそうな要素が、ない。または短い。

  • 「お前の腹から出た気持ちで」をまるで強調しない
  • 「あのくさ〜い?」「異なる臭いがするな」「あの黄色い?」「色までは知らんがな」
  • 「傷寒論によれば」
  • 「すなわち呑酒器か」
  • 「先生も転失気がお好きでしょう」に続くセリフがかなり短い

既存の噺って、いかに陳腐なのかよくわかるではないか。
というか、転失気を工夫する人こそ、このあたりに突破口を見出すものなのに、まるで方法論の違う小痴楽師。
そのうち、「気を転じ失う」だって抜いちゃうんじゃないですか。少なくとも一度は抜けるか考えてみたに違いない。

サゲは「どちらもツマミが必要ですから」で、オリジナルだろうか。

小泉ポロン先生はいつものマジックだが、池袋のように油断してる人を指名したり、客席に乗り込んで行ったりはしない。
毎度おなじみ積みマジの世界が、前回池袋で観たものとネタが違っていて感激。
花がオウムに変わるネタを購入したが、このオウムがどうもオウムには見えない。
フォルムはハトだし、尻尾のほうはどう見てもバナナ。しかも、バナナの上半身。
この不自然さを例えるのに、「上半身が女性で、下半身が魚の頭の人魚姫」「上半身が人間で、下半身が馬の頭のケンタウロス」を出してくる。
「私なにを言ってるんでしょうか」
でもこの鳥、可愛いから気に入ってるんだって。

続きます。次は襲名したばかりの七代目円楽師です。