神田連雀亭はアメブロにリンクしていた月間スケジュールが真っ白になってしまい、最近はXで番組を知らせている。
私はもともと月間スケジュールを見て予定を立てていたのだが、当日見て決める寄席になっちゃった。
日曜の朝確認すると、吉原馬雀さんが出るという。
復帰してからのこの人の新作落語は、レベルが大変高い。
そして、高座で被らないのがすごい。一体どれだけ作っているのだろう。
ナツノカモなど協力者の貢献も高いのだろうけど、その作品には馬雀さん自身の個性を強く感じる。
もう頭に「パワハラ被害者の」とか「師匠を訴えた」とかの枕ことばを付けず、1パフォーマーの高座を聴く価値がある。
ツラい経験のおかげでスケールがデカくなった?
これは春風亭かけ橋さんや、桂しん華さんにも共通して感じる要素だ。
と言ってこの結果から、「やっぱり修業は厳しいほうが正解なのだ!」と言い出す師匠がいたらそれはイヤだが。
つ離れしている。
サポート詐欺 | 馬雀 |
干物箱 | 楽八 |
ねずみ | 文吾 |
馬雀さんは、いよいよ真打昇進が迫ってきましたと報告。
後ろ幕とか用意するのが大変です。先輩方も大変だったのでしょうね。
普通はこう語って客に拍手をさせるものだと思うが、実にすらっと世間話として喋ってしまう。
真打寸前になると、筋トレやダイエット始める人もいます。
俳優さんはすごいですね。映画のために体つきまで変えてきたりして。
ある俳優さんが短期間でボディメイクするため肉ばかり食べてたそうです。
インタビューで、体悪くしませんかと訊かれて俳優さん「大丈夫です。牛は草食べてますから」。
おかしい理屈です。人間も草食べませんから。
なんだったかダジャレと、それとワンセットの「これが言いたいだけです」から、振り込め詐欺の話へ。
師匠が警察のお仕事よくもらうので、その関係で結構作っているとのこと。
復帰後ここで聴いた「対策は合言葉」であろう、違う噺のほうがよかったなとは思ったが、まあそろそろ被って不思議はないところ。
しかし違う話だった。もともと振り込め詐欺防止の委嘱を受けて新作作ったようだが、たくさんあるんでしょうか。
父親がコンビニで電子マネー1万円分を買って帰ってくる。1万円、高いよなあ、初めて買ったよと嘆きながら。
中学生の息子の希望する誕生日プレゼント。息子はプロ野球育成ゲームに課金しているのだ。
息子いわく「俺の大谷」は課金しないので全然打たないらしい。俺の大谷って言うな。
父親が勉強部屋を覗いてみると、約束が違う。勉強しないでゲームしている。
約束違反だと取り上げる。
息子のためだ。こんなゲームやめさせたい。ここに解約のボタンがあるじゃないか。ポチ。
なんだ「このスマートフォンはウィルスに感染しています」だと? そして大きな音が鳴り続けている。
大変だ。息子のスマホ勝手にいじって大変なことになった。こんなのバレたら小遣いまた減らされるからなんとかしなきゃ。
ここにサポートセンターの電話番号が。掛けてみよう。
「対策は合言葉」と異なり劇場型振り込め詐欺でもないし、そんなもんに騙されるなよ、という感想も持ちつつ、この父親の感情が迫真のもので、見逃せない。
場面が変わり、こちらは振り込め詐欺チーム。
電話掛かってきすぎじゃね? 忙しくて仕方ねえよ。
もうスルーしたいけど、上に見つかったら叱られるし。おれら労組作らないか?
なぜ息子の野球ゲームから詐欺サイトに誘導されたのかが、若干わかりにくい気はした。
スマホを普通の方法で使っていて、いきなり詐欺サイト誘導はそうそうない。とはいえあることはあるので、そのたまにある状況の書き込みは必要な気はする。
世間を生き抜く知識の薄い男が、ああ、ああと面白いように騙されていくそのさまがたまらない。
これは間違いなく啓発になるねえ。
知り合いが騙されてもなお自分には関係ないと思っている一般人が、危機感を持つそんな落語。
「修理代金1万円です」と言われたらオヤと思うものの、電子マネー以外の方法だと3万円ですと言われると、案外騙されてしまうのだ。
啓発に「だけ」なるわけではなく、エンターテインメントとして極めて優れている。
さて、新作落語も盛況だが、その中にあって馬雀落語の何がユニークか。
私の考える、落語の世界観いろいろ。
参考にしたのは、小松左京の述べていた「SFの定義」である。
- 日常の世界(飛躍のない世界)を描く落語
- 日常の世界(飛躍のある世界)を描く落語
- 非日常の世界を、日常として描く落語
- 非日常の世界を描く落語
新作落語の場合、東京には1は少ない。
いっぽう桂文枝師の影響か、あるいはしゃべくり漫才の影響か、上方には多い。
ボケツッコミの会話と、関西文化論で乗り切る落語。
1は、基本的には私には物足りない。東京の場合、日常のネタでも2からスタートすることが多い。
ところが馬雀さんの落語は、ほぼ1。日常の落語。
でも上方っぽさはあまり感じない。
1と2の違いは、「飛躍」の有無。
古典落語のほうがわかりやすいが、おなじみの「重度粗忽」「与太郎」「甚兵衛さん」などが世界を変容してくれる。
馬雀さんの場合、エキセントリックな人物も出てこなくはないが、飛躍とは別の要素が支配しているように思う。
シチュエーションを徹底的に掘り下げるのが秘訣。
これが、他の日常を描く新作にない味を出しているのだ。
実に仕上がった噺だった。披露目で出るに違いない。