きく麿駒治二人会 その3(古今亭駒治「西武家の一族」)

駒治師は西武線が舞台の落語へ。
初めて聴く「西武家の一族」。最近できたみたい。

西武線は大きく分けて池袋線と新宿線とがありますが、西武は昔から池袋線ばかり大事にしますよね。
新宿線は不憫です。

駒治師の鉄道落語には珍しく、前半が地噺のような演者の語りになっている。
設定をダイジェストで伝えることにしたみたい。これが実に効果的。
西武一家の長女は池袋線。甘やかされて育ったのでわがまま一杯。
次女は新宿線。親は長女ばかり可愛がるのでいつも不憫。
その証拠に、西武新宿駅は新宿駅のはるか遠くにある。
池袋線の特急はラビューとか華やかだが、新宿線は、小江戸。
二人の姉妹は所沢で遭遇するが、仲が悪いので逆から入ってくる。池袋方面からと、新宿方面からが逆方向に入るのが仲悪い証拠。
新宿線沿線から飯能のほうに行こうとして、所沢で乗り換えて池袋方面に戻ってしまう客は引きも切らない。

長女池袋線はモテるので、有楽町線や副都心線、さらには東急とまで交際(直通運転)をしている。
次女新宿線は、かつて東西線と直通しようとしたが、裏切られ総武線を選ばれてしまった。東西線のほうは、相手が黄色ければ誰でもよかったらしい。
次に大江戸線と交際しようとしたが、姉の陰謀で中井駅のはるか遠くに駅ができてしまった。

新宿線は耐えかねて家出をした。すると、新宿線じゃないかと話しかけてくる親戚のおじさん。
親戚のはぐれ者、他の線と乗り換えのない多摩川線おじさんだった。
おじさんは武蔵境から是政を結んでるんだ。どこよそれ、初耳だわ。
おじさんは早くから一家と疎遠になり、多摩川の砂利をせっせと運んでいた。
今はお客も乗せる。ただしボートレースのファンばかりだ。

家に帰った新宿線だが、姉に知られないよういつも本川越で泣いている。
いつも泣いている新宿線に、立体交差する東武東上線が話しかけてくる。ぼくと交際しよう。お姉さんに知られないよう、川越でデートしよう。
東上線も、伊勢崎線という兄がいて不憫な身の上。兄も以前は普通だったのに、名前がスカイツリーラインになってから傲慢になってしまった。

しかし幸せも束の間、スパイであるJR川越線から報告を受けた姉・池袋線が妨害してくる。姉も東上線が好きだったのだ。
姉妹は、東上線を巡り駅の数で勝負することになる。

先日「マナー車掌」で京王線駅名言い立てを披露していた駒治師、この話では西武の2線の言い立ても入る。
京王は地元なのでスラスラだが、まだ西武は怪しいみたい。
新宿線の言い立ては、多分「東伏見」が抜けてましたぜ。隣の武蔵関も抜けてたかも。

史実もいろいろ入っていて、蘊蓄にも溢れている。
東上線の「東」は東京だと思うけど、「上」ってなに? まさか上板橋じゃないよね。
これは上州の上なんだ。上州まで延ばし、ゆくゆくは新潟を目指す計画だったが頓挫してしまったんだ。

鉄道落語の人気の理由がよくわかる。
東京の人間にとっては、「路線」さえ分かれば、マニアックな知識なんか要らないのだ。
亀戸に来た落語ファンがどこまで西武沿線の情報を知っているかわからないが、でもなんとなくわかるでしょう。
さすが亀戸で、スカイツリーはウケていた。

この噺を聴いたことない多くの人も、駒治ファンなら、腕を組んで「フッフッフ」と含み笑いするスパイ、JR川越線のキャラは想像つくんじゃないですか。

家出する新宿線がおじさんと会うが、私は伊豆箱根鉄道か近江鉄道じゃないかと思った。
それでも噺は作れるが、多摩川線という絶妙さ。

続いてはきく麿師。
久喜のほうで同期の会がある。鬼丸師匠がラジオやってるから埼玉では人気。
質問コーナーを設けると、わけのわからない質問が寄せられる。
「何を目指していきたいですか」みたいな、ひどく漠然とした質問が。
そういうときには、同期の仲間は皆小せん師を見る。小せん師が重々しく、「名人を目指してます」など答えると締まる。
きく麿師がまた妙な質問を名指しでされるが、オチはなんだっかな。

同期5人とは、扇里、きく麿、鬼丸、龍玉、小せんである。
その、埼玉の人気者だけがどうもね。後の皆さんはぜひ聴きたいんですが。

それから本編につながる祭りの話。
きく麿師の地元北九州では、神輿というものはなかった。
東京では、皆神輿の祭り。
柳家小里ん師は、いっとき右肩に神輿だこがあった。聴くと自慢げに見せてくれた。
意外にも、小満ん師が祭り好き。勝手に神輿に割り込んで担いじゃうぐらい好き。
二度目までは追い出されるのだが、なおもしがみつくと三度目で入れてくれるんだって。

あ、これウケませんでしたねときく麿師。
多分、「駆っ込み」で訴状を提出する際のしきたりになぞらえていたのだと思うけど。

本編は祭り屋台の噺。続きます。

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