柳家甚語楼の会(上・林家たたみ「ろくろ首」が絶品)

今日も昼間の会へ。お江戸両国亭。
日頃決して数聴いているとはいえない柳家甚語楼師の会である。
数年ぶりに寄席で遭遇する程度なのだが、そのたび常に味わい深い人。
3席ネタ出し。

両国亭、昼間からなかなか賑わっている。
受付には相撲取り上がりみたいな人。

ろくろ首 たたみ
悋気の独楽(ネタ出し) 甚語楼
道灌(ネタ出し) 甚語楼
(仲入り)
宿屋の仇討(ネタ出し) 甚語楼

受付していた相撲取り上がりみたいな人が高座に上がる。また、ここは両国だし。
林家たたみさん。三平師の一番弟子。
協会の前座香盤2枚目になって初の遭遇だ。

えー開口一番、前座でお付き合い願います。
平仮名でたたみと書いて(間)たたみと読みます。今日は先に(客に)言われちゃいましたが。
林家三平の弟子です。
本日は浅草で、師匠のトリの千秋楽です。なのにこんなところにいていいんでしょうか。
先に依頼をいただいたこちらをお受けしています。
昨日の浅草は、アルフィーの坂崎幸之助さんがゲストに出まして。なんと入場券が抽選になったという大盛り上がりでした。

たたみさん、なんだか大物感があってびっくり。まだ若い(24歳)のに。
好楽一門みたいに師匠disでもやればウケるかもしれないが、そういう手段には出ない。
二重顎で相撲取り上がりみたいに見えたが、柔道やってたそうで、それでたたみ。
ご本人が語ったわけではなく、Web情報です。

落語の登場人物にバカも出てきます。
バカはものに動じないなんて言いますけど、本当はそうでないようで。バカは自分の置かれた状況がわからないので。気づくと大変驚くそうです。

これはひょっとして、ろくろ首?
そうだった。
私かなり好きな噺だけども、当ブログ2016年に始め、わずかに二度目の遭遇。
貴重な1回は春風亭かけ橋さん。
好きな噺なので前座がやってくれたらなといつも思っている。なので嬉しい。

時間は20分弱あってたっぷりだったが、「あなたや」「およめさんおよめさん!」のくだりはない。
おじさんがいきなり松公に、首が伸びるお嬢さんのところに婿に行くかと水を向けている。
ブレないいい語り口でびっくり。
三平師の弟子に、古典落語をちゃんと、どっしりと語る人が!

言葉はちゃんと自分で作っている。前座によくいる、「セリフを言わされてる感」はまるでない。
だから「寝しょんべんぐらいいいよ、あたいもちょいちょいするから」などの普通のクスグリがしっかりウケる。

鞠を使った「さようさよう」「ごもっともごもっとも」「なかなか」のくだりがしっかりある。
これも楽しい。
稽古してから、先方に出かける。
出がけにおじさんが松公に、「お前なんか人間の再生品だ。廃物利用だ」と言う。
ここでたたみさん地に返って、「えー、時代背景的に言葉がおかしいですが、教わった通りです」だって。
柳家の師匠に教わったのだろうな。甚語楼師じゃなかろうが。
ともかく前座のくせにメタを入れるとは、やるな。
ちなみに、外から工具の音が聞こえていた。これについても、本編に入る前にすかさず取り込む。
寄席では必要ないスキルだが、こんな臨機応変の心構えはどこでも役に立つ。

見合いの現場では練習した通り「さようさよう」「ごもっともごもっとも」。
入れなくていいアドリブをかまして「なかなか」を先に言う松公。
おじさんの叱り具合が実に適切でいい。

婚礼が決まり、朝まで起きない松公、つい夜中に目を覚ましてしまう。
おかみさんは美人だなと寝顔を見るが、寝相が悪いや。マクラからはみ出して。
ここから、目でもってお嫁さんの伸びる首を描写する高度な技術がスムーズ。

いやあ、大したもんだ。
キャリア浅くても、すでに立派な噺家だ。
高座の上から自分が俯瞰できている。すごいことだ。
三平師の弟子が林家で最も出世するなんてことがないとはいえない。いや、するんじゃないか。

一席終えて袖で甚語楼師に、「工事が入ってます」と語りかける声が聞こえた。

甚語楼師、今年も聴いてはいるが、私の抱いているイメージより痩せている。

今聞きましたけど、工事が入ってるそうですね。
そこはお客さまの集中力に頼りたいと思います。お客さまの集中力には期待しますが、私の集中力が持つかどうか。
おなじみの会で、おなじみのお客さまが多いですね。

凛気の話。
嫉妬というのは男にもありますね。色恋だけでもないです。同業者に対してもありますよ。
こないだ仲間が、北海道行ったって言うんですね。
家族旅行だったら羨ましくないです。仕事で行ったとなると、羨ましいんです。
「どこ行ったの?」って訊きます。「仕事?」って訊けばいいんですけど、それはしたくないんです。
帯広と富良野だそうで。まあ、あのあたりは落語会とかあるかもしれないしなと。まだわかりません。続いての質問です。
「誰と行ったの」
これで仕事かどうかがわかります。
そしたら、「かみさんの実家が北海道なんで」と帰ってきます。
え、奥さんの故郷に旅行なんてあんまりしないよね? これは奥さんの地元から仕事で呼ばれてるの?
九州だったら私もよく行くんで、羨ましくないんです。
北海道は10年ぐらい呼ばれてません。

と、ここからネタ出し悋気の独楽へ。
いいなあ、人さまへの嫉妬を隠さず拡大し、ネタにしてしまう。

続きます。工事はすぐ終わってました。

 
 

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