神田連雀亭ワンコイン寄席 66(下・三遊亭兼太郎「棒鱈」小もんしくじる)

林家きよ彦さん、兄弟子(プロではない)小林家さとし主催の会で、リングの上の高座に出た話も振っていた。
リングが目線に被って、お客さんから容疑者状態。
円丈師の昔の企画と同じ話だ!

本編は、「追っかけ家族」。もう4度目の遭遇。
他の噺のほうがそりゃ聴きたかったが、想像するにきよ彦さん、笑わない客に対し、自信作のこれで勝負に出たのだろう。
3度目ぐらいならまたかと思うが、それを超えるとなんだか逆に楽しくなってきた。
そして、細かい部分まで覚えたのを再確認。三遍稽古みたい。

この噺は本来実によくウケる。ウケどころで、客の私まで嬉しくなったりして。
だがこの日のお客、あったまった、かと思うとやっぱりそこまででもない。
ウケどころでの反応、なくはないけど、薄い。

私には笑わない客より嫌なものがある。
演者の「笑ってください。面白くなくても笑ってください」というやつ。
これは相変わらず嫌いだが、でも芸人がそう言いたくなる気持ちは今回、痛いほどよくわかった。

きよ彦さん、退場の際も「ああ蹴られた」という感じに見えた。

三遊亭兼太郎さん高座に上がり、「皆さまにご報告があります。小もんアニさん到着しました」。
トリはゆっくり来ればいい、そんなわけではありません。

兼太郎さん、最近非常に充実している。
バカっぽさをさりげなく出している感じが好き。
露骨に私バカなんですよとやらずにバカっぽさを打ち出す人は、実はなかなかいない。

酒の話。
酒といえば大師匠好楽。大師匠の話してたのは思い出したが、内容は何だったか。
ともかくここから棒鱈。

二人の町人を湿っぽく描かない。
酔っ払った弟分のほうが、仲居に「早くしろイ、バカ」と悪態ついてるものはあまり好きではない。
でも兼太郎さんだとバカっぽいから大丈夫。

で、ずいぶん細かいところをいじっていて、いたく感心した。

  • 弟分が、「1がちーは松飾り、2がちーはてんてーこてん」と、間違えずちゃんと歌う
  • 隣を覗いてくるという弟分を、アニイが叱りつけるシーンがない
  • それどころか「おお、行ってこい」
  • 赤べろべろを投げつけられた侍が、顔に当たったそれをそのまま食って「うまい」。芸者に焚き付けられてようやく怒っている

棒鱈はどの人も、演出(というか、クスグリ自体)が大同小異なのが難点。
兼太郎さん、そんな噺に新基軸を打ち出すのだった。
もっとも、いずれの工夫も狙いまではよくわからぬ。面白いなと思ったのは赤べろべろぐらいで。
ただ、一つ言える。こうした工夫をしている限り、絶対に紋切り型にはならないということだ。
赤べろべろは声上げて笑ってしまった。他の客が笑わないので、笑い声が目立ってしまう。

トリは遅刻の柳家小もんさん。
一瞬、遅刻したのでトリになったような錯覚を覚えたが、元々トリだから関係ない。
後輩に迷惑掛けたので、想像だがこの日の木戸銭を受け取らないに違いない。

小もんさんに遅刻癖があるのか、生涯にたった二度の遅刻にたまたまでっち定吉が出くわしたのかはわからない。
でも、私にとっては遅刻する人のイメージになっちゃった。

昨年珍しく聴いていないものの、過去いろんなところで聴いてきた期待のホープ。
声がいいのでナレーターにも駆り出される人。
軽く詫びて、自分の話題は振らないで、粗忽のマクラへ。
まず「お前の親父だ」。
こんな小噺も堂々とやると、案外面白い。
それから長屋の「カカア出てけ」の小噺。

「夫婦喧嘩はやめろよ」
「できねえよ。俺一人もんだもん」
「でも『カカア出てけ』って聞こえた」
「あれが来たんだよ。あの四つ脚」
「犬か」
「犬じゃねえ」

いや、犬だろ。赤犬。
犬が長屋の中入ってきたから、「アカ、出てけ」になる。
でも、犬じゃねえと言ってしまった。まだ寝ぼけてたのかもしれない。

どうするかというと、実際は赤猫だったことにする。
苦しいな! 赤いネコなんてニャロメしかいないのでは。
猫でちゃんと成り立つか、小もんさんヒヤヒヤしたと思うが、実は成り立つのだった。
ちゃんとこの後続けていた。
「熊の胆取ればよかった」
「猫から熊の胆が取れるか。鹿と間違えんな」

ナイスリカバリーに拍手したくなった。しないけど。
小もんさんも結構強情だね。
強情灸のマクラで使えるんじゃないか。
「これ本当は犬なんですけど、犬じゃねえって言っちゃったんで。仕方ないから猫を出しましてね、なんとかなったという」

こういう言い間違いは、メタギャグにして解決するのが普通だろう。
「お前、犬じゃねえって言ったじゃねえか」
「でも犬なんだよ」
「言い間違えたのかい」
「まだ目が覚めてなくて、ごめんごめん」
みたいな。

この日の客には、こんな工夫してもウケやしないだろうが。

本編は粗忽の釘で、極めてスタンダードなタイプ。
前座さんが教わりに来そうな。
どこをどう切ってもスタンダードな粗忽の釘が出てくる。でも最後までずっと面白い。
古典落語の力の強さを思い知る。
お隣では、家に来てくれた未来のかみさんが洗いものしてくれるのを、後ろでコチョコチョ。
最近では珍しいくだり。
いい意味でいやらしさがない、爽やかなコチョコチョ。

そんなわけで楽しい3席だったのに、客はピクリともしないのでした。
演者も誰も見送りに出てなかった。

「つ離れ」「内容よし」「蹴られまくり」
こんな珍しい三題噺ができた神田連雀亭でした。

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