梶原いろは亭音助・朝枝(下・「初天神」「長短」)

トークで一旦ハケる際、朝枝さんは先に出てしまい、音助さんがメクリを返す。
春風亭朝枝さんから。
出囃子が鳴る中、一度引っ込んだ朝枝さん、いつまで経っても出てこない。
変なムードが客席に蔓延する中、出囃子2周めになってようやく登場。釈明はしない。

音助さんみたいに親切な方、私の故郷・栃木にはまずいないタイプの人です。
音助アニさんにいつも持っていた、どこかでお世話になったような既視感ですが、考えてわかりました。
市役所で相談するときに、ああいう人いますよね。

小児は白き糸のごとしと振る。
うーん、前座噺か。1年前に聴いた真田小僧は良かったが、同じ噺だったら嫌だなと思う。
葬式ごっこ、懲役ごっこを順に振る。
いくら朝枝さんだからといって、こんな小噺がウケるわけではない。だが、様式美が実にサマになるのだ。

幸い、真田小僧でなく初天神。こちらのほうが好き。
ちょっとだけ、兄弟子一之輔の初天神を彷彿とさせるところがあるが、そんなにギャグはない。
極めてスタンダード。
この人は、「普通にやってるのに面白い」というより、「普通が面白い」。
真田小僧もそういえばそんな感じだった。もっとも、その前はこの人「隠れ爆笑派」と感じていたのであり、噺それぞれでムードは異なる。
スタンダードな演目から、また新たな芸人の魅力を感じるのだ。
演技が非常に上手いのだな。
落語という形式を確立して、その中で許される最もリアルっぽい演技をする。
リアルっぽい演技が突き抜けてしまい、味消しになる人もいる中、朝枝さんは決して突き抜けない。
これは師匠に似てるのだろうか。

相変わらずすごい鼻濁音。だが、やり過ぎなぐらいなのに自然だから不思議。

スタンダードな前座噺をやって、何がそんなに凄いか。
朝枝さんがやると、擦り切れた前座噺の、次の展開が楽しみになる。語り口一つだ。

川におっぽり込んでやんなと言うのはかみさんのほう。
カッパは省略。
泳げる金ちゃんにおとっつぁんが炭焼きのおじさんに頼んで山に連れてってもらうぞ。
いいね、四季折々の景色が。
よーいよーいが入り、人力の親子はない。

金坊が自ら、「あたい今日はあれ買ってくれこれ買ってくれって言わない、いい子でしょ」と親父に振る。
親父のほうは、出掛けに金坊に念押ししていないのだ。
面白いやり方だが、ひょっとすると仕込み忘れたんじゃないかなんて思う。でも、ここまで自然だと何をやっても許される。

金坊は基本、親父を舐め切ったモードなのだが、飴と団子を買ってもらうときだけは大声上げて実力行使。
「飴買って」と「ひと殺し」であり、シンプル。
こういうところで遊ばない。私の持つ朝枝さんのイメージからすると、遊びそうなのに。
団子は最初から蜜。あんこなど存在していない。

スタンダードな初天神だが、ちゃんと遊びは残してあった。
団子の蜜舐めを、これでもかと。
ここまで蜜舐めをたっぷりやる初天神は初めて。
スタンダード路線から、最後にやりたいことをやる。見事な切替え。
垂れる蜜を舐め、盛り上がった蜜を舐め、上から下まで団子を舐め上げ、さらに裏も横も。
ここまで団子に舐める箇所があったことに驚く。
ぽちゃんでサゲ。

続いて雷門音助さん。

私は出身は栃木、ではなくて静岡県です。
静岡の人はのんびりしてます。噺家はたくさん出てます。
首相が一人も出てないんですよ。
人を追い抜いて権力の座につくような人はいないんですね。天下を獲った人はいません。
天下を獲ったのは、昇太師匠だけですよ。芸術協会の会長ですからね。

東京へは1時間ですから近いです。大阪にも、意外と近くて2時間ぐらいですか。
味付けが東西両方の影響を受けてまして。
昔から、全国で販売したい商品は、静岡で実験的に販売すると大体わかるといいますね。

東西比較は長短の振り。
また、前座噺ではないけども寄席のスタンダード噺だなあ。
でもこの人の長短はふた味違う。雷門に伝わる、長さん(本名・甚兵衛)が上方の人というバージョン。

長さんは、一応用があって来ている。
塩辛をもらったが酒飲みでもなく食べないので、良かったらと持って来たのだ。
ただし用事を言うまでは、昨夜のはばかりから始まるのでやはり長い。はばかりから月が見え、これがほんとのウンの月。
短さんは、少なくとも表面的には意外なぐらい非友好的である。
塩辛の礼は言うが、長さんの態度がまどろっこしくて焦れていて、用が済んだら早く帰れと。
長さんは動じない。
東京でよく聴くスタンダードものと比べると、「友情を互いに確認」する場面が非常に少ない。
というか、普通のが多すぎるのかもしれない。
友情を確認し合わない証拠に、長さんはキセルの火玉を行方を知らせるのに、「人からものを教わるのは嫌いだろうね」を振らない。
いきなり、着物の端切れがあるのかから入る。それとも古着か。
こちとら古着なんて着るもんじゃないんだと短さん。

先に朝枝さんを聴き、音助さんも演技のあり方が似てるなあと。
決して踏み外さないで、最大限の演技を見せる。自然に見える演技を。
単純な噺がスムーズに聴けてしまう。

予告通りエンディングトーク。
1時間の会が延びること自体は私は全然歓迎。だが、あまり延びると次があるしなととちょっとだけ思う。
音助さん、朝枝さんと最後にいつ会ったか調べたらしい。
2023年のスタジオフォーではあったが、巣ごもり寄席のもう一人は昇咲さんでなく、立川志の大さんであったとのこと。
ただし、音助さんが昇咲さんと帰っていった記憶は合ってるよという。その前にそんな日もあったのだ。
あとはシブラクの吉笑アニさんの会で会ったり。

最後に、二人トシは近いけど、キャリアは案外離れてるんだねと確認。
音助さんが、面白いことを言いかけた。朝枝さんといえば、あとは…

明確にはしなかったが、流れからすると「抜擢真打」に言及したかったのだろう。間違いない。
まあ、私も早くから次の抜擢はこの人だと思っている。同業者にも、同じ感想があるのだなと。
抜擢に必要な華があるかどうかはやや微妙なところもある。でも、十把一絡げの昇進イメージのほうが薄い。
仮に香盤追い抜きがなくても、一人真打はありそうだ。

時間オーバーは10分弱なので、次に向かうのは問題なかった。
荒川線に乗って次に向かいます。

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(追記)

音助さんは真打昇進の話もしてました。
自分の高座でその話をしなかったら後の先輩が言ってくださるので、自分で言うことにしたそうです。

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