落語界、入門者が減っている。
橘家圓太郎師のマクラからも、落語協会の前座が減った影響が語られていた。
前座は外の会にあまり連れ出せなくなり、二ツ目が楽屋で太鼓を叩くようになっている。
客はなかなかそんな状態にあることに気づかないだろうが。
鈴本演芸場の最前列最上手、「い17」に座れば、二ツ目さんが太鼓を叩いている様子が見えるかもしれない。
落語協会の前座が減ったのは、直接的にはパワハラ事件の影響かなと思う。
女性前座がいなくなった(噺家の前座では、今でもいない)のを重ね合わせると、パワハラの影響なしには語れないだろう。上方ではセクハラもあり。
女性については、芸術協会でも入門が減っている。
師弟関係のパワハラは改善して欲しいが、まるでなくなるとも思えない。
厳しくされて育った人は、「厳しさのおかげで立派になった」と自分の人生を肯定したがる点がどうしてもある。
嫁姑問題と一緒。
厳しくするのが正義と思っている人は、世間が変わっても変わらない。
少なくとも自衛手段としては、そういう師匠のところに弟子入りしない策しかない。
あとは以前も書いたが、「こんなひどい師匠とは知らなかった」と弟子が気づいたとき、移籍が容易になるといいのだが。
落語界、「師匠選びも芸のうち」なんて言う。それはそうとして、失敗を入門者の自己責任だと捉えすぎでは。
ダメ師匠のところに入ってしまいドロップアウトする羽目になった人の中に、優秀な人材がいる。
その事実から、目をつぶりすぎ。
どう考えても、緩い師匠のほうがいい噺家を出す。
厳しい師匠は、わざわざ素質のある弟子をダメにしていくのだから、落語界の発展のために有害でしかない。
たぶん、完全放任主義の三遊亭白鳥師が、育成において最もいい師匠。
世の中だいたい、「角を矯めて牛を殺す」もの。よかれと思って余計なことをする人間が多すぎる。
よかれと思う以前に、ただの支配欲の発露であることが多い。
さて、パワハラ事件の影響は、10年20年は普通に残りそうだ。
その後落語協会が本当に風通しのいい組織に生まれ変わったとして、世間のイメージはそのままだろう。
女性もなかなか入ってこないと思う。
現在の女流ブームは嘘のように消え去っていく。
そもそも。
志願者は今後も増えない気がする。
もともと人口減少の世の中だ。増えると考えるほうがずっと不自然。
「老人前座じじ太郎」や「3年B組はん治先生」で、前座減少の未来を先取りしている三遊亭白鳥師は、実に先見の明がある。
パワハラの前から、志願者が少なめだったのが五代目圓楽一門会(円楽党)。
今後三遊亭けろよんさんが二ツ目昇進らしいが、そうするとまた前座は2人体制(愛二郎、げんき)。
近年はずっとこんな感じ。手伝いに来ている二ツ目さんの姿もよく見た。
三遊亭好青年さんみたいな外国人はあるいは増えるかもしれないが。
さて。
上方落語の入門者数が激減、2024年はたった1人……落語家志望の若者はなぜ少なくなったのか?(Yahoo!ニュース)
今日の記事はこれを読んで思いついた。
特に上方落語界は深刻な入門者不足のようだ。
2024年は1人だけだったと。
ただ、上方落語界の深刻度は東京ほどではない気がする。
長期的には確かに問題だが、たちまち全体のレベルが低下したりはしないはず。
寄席は2軒だし、楽屋にはお茶子さんもいるからたちまち人手不足にはならないだろう。
最近NHK新人落語大賞は上方勢が優位だが、その流れが急に止まったりもすまい。
上方は、落語界の需要に比して供給のほうがやや過大だったように思う。
東京のほうが、短いスパンでより深刻だと思うのだ。
東京の落語界は、供給が過大になりつつも、需要のほうも拡大してきたところであった。
この流れが数年後に止まるかもしれない。
止まるとどうなるか。こうなる。
- 二ツ目貧乏がいなくなる(楽屋仕事をするから)
- 寄席に出られない真打が減る
- 二世落語家が増える。そして、歌舞伎のように「血でやるもの」となっていく
- 女流落語家の減少(講談や浪曲についてはなんとも言えない)
- 十把一絡げ真打披露が減り、抜擢や一人真打も増える
- 神田連雀亭の定員問題が自然解消する
- 首都圏の小さな落語会の減少
- 首都圏の小さな寄席小屋の減少
- 大学オチケン廃部
ついこの間までの落語界は、「前座時代が忙しく、二ツ目になると仕事がない」という業界だった。
入門志願者が減ると、この問題だけは解消するであろう。
そして、寄席からお呼びのない芸人が、仕事にありつけるようになってくる。
なんだ、実は割といいこともあるのでは?
とはいえ、やはりダメージは徐々に積み上がってきそう。
なおボーダーラインの人ではなく、その下の実力に乏しい噺家は、落語関係者減少で一切得をしないと思う。
母数が多いのでなんとなく埋もれていた人が、目立ってくると逆に「下手すぎる」と廃業を迫られる気がしてならない。
ただ、入門したい人にとっては、チャンス到来と思うんですけどね。
