シブラクのトリは柳亭小痴楽師。
本日最大の目当て。
もっと聴きたい人だが、芸協の場合若手のトリはだいたい夜で行きづらい。ま、この日も夕方だけど。
終演時刻は午後7時だが、15分程度オーバーの熱演。
そして、圧巻。
小痴楽師はもちろん人気だけど、まだまだ過小評価気味だと思うのです。
マクラは旅について。
若い頃は時間があったので、若手でよく旅行してました。ベトナムやタイなどへ。
メンバーは、松之丞、鯉八、昇々。
松之丞は、海外まで来てタブレットを手放さないんですよ。何してるのかというと、エゴサーチです。自分の評価を見てニヤニヤしてるんです。
すぐに「あ、ここWi-Fi飛んでる!」とか言うんですよ。船に乗って、川の上でも。
ぼくはデジタルとかよくわからないんで、Wi-Fiと言われても、何言ってんだろうなと思ってました。
本編の舞台は神奈川宿。宿屋の仇討である。
なんとなくだが、落語協会の師匠に教わっていそうな気がする。
ちなみに先に出た小里ん師にもなにか教わってるはず。
お侍の万事世話九郎が、客引きの伊八に静かなる部屋をあないせよと。
「お主じゃな。ニワトリの尻から生き血をすするのは」
「そりゃイタチでございます」
って、この噺の鉄板クスグリだと思うのだけど、入ってない。
小痴楽師は、クスグリの取捨選択が本当にフレキシブルだ。笑いのための笑いは好きじゃないのかも。
確かに、このクスグリを入れると、世話九郎が最初からユーモラスな人物になってしまいかねない。
それじゃ、一晩掛けた壮大なシャレをやるにはマイナスだと思うのではないか。
そもそも、クスグリに頼らなくたって、この人にはキャラクターの造形力がある。
続いて、上方見物を終え、江戸に戻る最中のズッコケ3人組。源ちゃん以外は名前は出ない。
この3人組は、演者の分身。愛すべきチンピラである。
バカでおっちょこちょいで威勢がよくって、しかしながら二本差しにはからきし弱い。
常に楽しいことだけ考えている愉快な人たち。
芸者上げてどんちゃん騒ぎしてるが、隣に迷惑掛けてもまるで気にしないという意味でのチンピラではない。
気は悪くないのだ。ただ単純極まりないので、注意をすぐ忘れちゃうのだ。
これは演者が、客の前で見せているキャラと非常に近い。
もちろん、演者のキャラだって演出がたっぷり入ってると思うけども。小痴楽師は、永遠のバカでありたい賢者である。
芸者遊びはとっととやめて、今度は寝てるはずなのに相撲。
最初小声で上方の相撲取り、捨衣の話をしてるのに、そこから盛り上がって取っ組み合う流れが素晴らしくスムーズ。
この3人なら当然こうなるよねという。
そこからの色事告白も、実にスムーズ。
話の展開のためにこうなっていくというご都合主義がかけらもない。
小痴楽師の自然さを真似できる人など、そういないと思う。
そういえば、「くりゃれ」言葉の解説というわかりやすいクスグリもなかった。
武家の奥方から思いを寄せられ断るが、短刀を喉元に突こうとするので止めるというタイプ。
そこに義弟が来て修羅場になるから、源ちゃんは奥方といい目は一切見ていない。
源ちゃんは、草津温泉に湯治に行くつもりだったが、途中で治っちゃったのでおじさんのいる高崎に向かったのだそうだ。
よく聴くのでは、川越だが。
「源ちゃんは色事師!」も実に収まりがいい。やりすぎないけど、しっかり面白い。
再三静かにしろと言われてるのに盛り上がるやつは本物のアホだが、このアホ、また実に自然。
自然なわけないのにね。
3人組に焦点がピタッと合ってるので、その分お侍の世話九郎は要所要所でしか描かない。
小田原宿の様子を伊八が覚えて復唱するというギャグも、強調しない。すぐツッコミを入れて中断させる。
ちなみに、この源ちゃんの色事の話、どうして万事世話九郎の耳に入るんだろうと不思議になるものも多い。
でもこやつらは声がでかい。ここもまた自然。
色事師の源ちゃんは鬼瓦という二つ名を持っていて、モテるはずはない。
そう言ってるのに、劇中でもって架空の色事を、二人が受け入れてしまう。
伊八も、どうみてもこりゃ本当じゃないなと思ってる。
でも、お侍の勢いに押され、当人なのかどうかという点には、焦点が当たらなくなってしまう。
こんなのも、そうそう聴いたことがない。
非常に説得力に溢れているからすごい。
縛られた3人については、もうシモのほうはそのまんま漏らしてしまいなさいだって。
変なところがリアル。と言っても、記憶には残るが、違和感はゼロ。
柳亭小痴楽は改めてすごい。
既存の落語の進め方に、ちょっとずつ疑問をぶつけていって、自分だけのオリジナルを作り上げている。
満足のシブラクでした。