古今亭志ん橋一門会 その2(古今亭志ん陽「夏泥」)

続いて古今亭志ん陽師。
私はもともと志ん朝の弟子でした。前座のうちに師匠に死なれまして。
どうしたらいいかと思っていたら師匠の総領弟子の志ん五(先代)が拾ってくれまして。
そうしたら二ツ目の時に志ん五に死なれてしまいまして。
志ん五の弟子が4人いまして、どうしようかと思っていたら志ん朝の二番弟子の志ん橋が、弟子まとめて引き取ってくれるというんです。
ありがたいですよね。兄弟弟子がバラバラになっちゃいけないというので。
おかみさんも喜んでくれました。

志ん朝の弟子も、皆亡くなりました。
今ご存命なのは志ん輔師匠だけです。この人が亡くなるといよいよ私がトップになります。

そして志ん橋師匠も亡くなりまして。私はもう真打になっていましたので、移籍する必要はありません。
私ぐらいですよ。師匠3人コロしたのは。楽屋では死神と言われてます。
師匠を3人持ってありがたいと思ったのは、それぞれ弟子の指導法が違うんですね。
志ん五と志ん橋、兄弟弟子ですから基本は一緒のはずですけど、噺の細かいところが違うんですね。
志ん橋も、違うと言って一から教えてくれました。勉強になりました。
こんなことならもう一人ぐらいコロしておけばよかったななんて思います。

最後のトークで実演していたところによると、カミシモの振りが違うのだそうだ。
志ん五はカミシモが早い。いっぽう志ん橋は、隠居が八っつぁんを確認する間があるのだそうで。

寄席で一日一回は出る泥棒を振って、雷門泥棒。
におうか、くせものってアレ。
こんなものウケるはずはないが堂々やって夏泥へ。

志ん雀師と同様、志ん陽師もマクラ10分本編18分ぐらいだったと思う。
しかし、本編もっと短い体感なのが不思議。
あまり聴いてこなかったこの師匠だが、編集上手なのであろう。
次の要素がない。

  • 畳を剥がして燻してなどいない
  • 泥棒が起こすまで寝ている
  • なぜ質屋に道具箱ほかを預けるに至ったのか不明
  • 大工の仕事はあるので、道具と着物があって、店賃払って飯食えば(多いけど)なんとかなる
  • 財布の隅をつまんでいたのもない
  • 泥棒、別に大工の物理的逆襲を恐れたりはしていない

随分とスッキリした噺になっている。
世間の夏泥は、いささかギャグ過剰ではないかな。

志ん陽師が狙うのは、ただただ泥棒と大工の心理攻防戦。ひたすらここを厚く描く。
どうやら大工、「質屋の元本」を泥棒が出してやるぐらいまでは、本当にもう刺されて死んだっていいやぐらいに思っている。
だから強い。
強いのを利用して、ああ、もうちょっと行けるなと、探りながら利息と服代、めし代ぐらいまでは嵩上げする。
最後の店賃(家賃って言う)あたりは、もう完全に心理的に勝っている。

泥棒は大工を恐れてはおらず、ただもう、自分の親切完遂が途中でやめられなくなってしまった。
これがよくわかる。
結局有金11円取られている。

上手いなあと思ったのは、大工と泥棒のやりとり。
「だって、泥棒にそこまでしてもらうのはおかしいよ」
「おかしいよ!俺もそう思ってるよ!」

落語の客の視点を盛り込んでちょっとメタっぽい。
客観的に明らかにおかしいのだけども、そこまでやらざるを得ない。泥棒が叫ぶと違和感がピタッとハマる。

ちなみに家賃はひと月2円50銭で、泥棒「俺より高いじゃねえか!」

一つ今さらながら噺の穴に気づいた。
この大工、弥七さん(質屋)に全部質入れしてしまってふんどし2本だけ。
質屋から帰るとき、ふんどし一丁だったということになるな。

結構な噺でもって仲入り休憩。
ところで、前座なんかいないんだから、メクリを替えるのは志ん陽師の仕事のはず。
替えないもんだから、次の駒治師、「古今亭志ん陽」のメクリのまま一席務めていた。
面白いことに、駒治師がハケるとき、メクリが違うのを気づかずに「志ん橋」に替えていた。
もし気づいたら喋ったほうが面白いわけで。

駒治師は、トリの志ん橋師が指摘してたが着流しで羽織を着ていない。
私にとってこの梶原いろは亭は最高のロケーションですよ。前が車両基地というね。
もうこっちじゃなくて、あっちに行きたいです。
ここに来るまでは横浜にいまして。横浜からどうやって来ようかなと思ってました。上中里に出るために上野で乗り換えようかなと。
そしたら、尾久の駅がありましたよ!思い出しました。
近かったですね。横浜から一本でした。

私は幡ヶ谷という街に住んでいます。
変わった街でして。駅は地下なんですが、改札とパチスロ屋が直結してます。
雨の日も濡れないでパチスロできるという駅です。
ここで生まれ育って、地元の小学校を出ています。会報が届きまして、卒業生の有名人が二人載っています。
一人は元大阪府知事の橋下徹さん。あの人東京出身だったんですね。
もう一人は、私です。だいぶ落ちますけど。

この幡ヶ谷という駅、幻の駅と言われています。
遊びに来る人が、新宿から京王線に乗って5分後に、だいたい笹塚から電話してきます。「幡ヶ谷、なかった」。
京王線と京王新線、トンネルが2本通ってるんですが、初台と幡ヶ谷は新線のほう乗らないといけないんです。
その5分後に、だいたい新宿から電話してきます。「幡ヶ谷、廃止になってる」。

幡ヶ谷のホテルに24時間営業のカフェがあって、私はよくそこにいます。
深夜ここにいると、「パチン」「パチン」と音が聞こえるんです。
フロントマンが、爪切ってるんですね。それも足の爪を。

続きます。

 
 

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