(タイトルが、兼好師が遅刻したように読めるなと思い修正しました。遅刻したのはわたしです)
私にしては珍しく、早めに買っておいた会へ。
横浜にぎわい座で落語教育委員会。
平日に昼夜ある。昼のほう。
昼だから買えたのだが、とうに売り切れ。
柳家喬太郎師は今月三度め。
思い切りしくじってしまった。
2時開演と思い込んでいて。
1時開演だった。
昼公演すなわち2時開演なんて思い込みはない。1時の会だってよく行くから。
なのに、今回は1時半開場と思い込んでて、野毛のモスバーガーでゆっくりコーヒー飲んでた。
現場行って気付いた。
落語教育委員会名物のコントは終わり、二ツ目の入船亭扇兆さんも終えたようだ。
焦っている私は、プログラムがどうなっているかも知らない。とにかく、スタッフに誘導されて入ったら、三遊亭兼好師が大きな声で喋っている。
兼好師の高座を、一番後ろで観せてもらう。
爆笑マクラがあったのであろう。それを悔やんでも仕方ない。
ま、こんなこともある。それでいいや。喬太郎師はまだ出てないようで、それだけホッとする。
| 小言幸兵衛 | 兼好 |
| (仲入り) | |
| 鹿政談 | 歌武蔵 |
| 紙入れ | 喬太郎 |
実は3人とも豆腐屋が出てくる噺。こんなのついたことにはなるまいが。
兼好師のネタは小言幸兵衛だ。聴いたことあったかな? 少なくとも現場ではない。
入居希望者の豆腐屋が来ている。
幸兵衛さん、豆腐屋なんていいじゃないか。とうふまで行かないとないから。
ここだけなぜかウケない。客も油断してるのか。
遅刻のショックで少々ぼうっとしながら聴いてると、すぐに啖呵に入る。
珍しく、土手っ腹に穴開けてトンネル作って汽車放り込むぞが入っている。
これは、難工事で知られた丹那トンネル由来のネタ。
幸兵衛さんは全然動じない。そのうちに仕立て屋が第2の入居希望者として登場。
この先、これは小言幸兵衛のニューウェイヴだなと嬉しくなってしまった。
ニューウェイヴという言葉がすでに古いのはさておき。
古い時代の、ハラスメントを濃厚に感じさせる噺というものがある。
小言幸兵衛や、化け物使い、それから淀五郎。
これら全部好きなのだが、ハラスメントっぽさ自体は濃厚に感じる。
極めて柔軟な喬太郎師の小言幸兵衛ですら、この要素は濃厚。
無理難題が面白いという噺なのだ。
ハラスメントに溢れるから聴けない、嫌いなんていうのではない。
現代では存在自体反感を買いそうな廓噺が大好きなのと同様。
ところが。
兼好師の小言幸兵衛からは、まったくハラスメントのニオイがしない。
明らかに時代を見て、師が注意深く取り除いている。
小言幸兵衛という噺は、「大家のほうが店子より偉い」という、確固たる常識を背景にしている。
人間、最初から平等ではないのだ。
だが兼好師の噺からは、最初からその前提が取り払われている。
入居希望者を品定めする大家は、明らかに遊んでいる。
ふたりの入居希望舎のほう、特に仕立て屋は、遊びに付き合っている。
別にそんな義理はない。豆腐屋のようにケツまくって帰ってもいい。
そういえば兼好師の大家、帰った豆腐屋に文句をくどくど言わない。この噺には上下関係はないのだ。
令和の、立場の差のない小言幸兵衛。
こうしてみると冒頭の長屋一回りが聴けなかったのが残念。
幸兵衛の妄想につきあわされる仕立て屋は不条理ワールドに迷い込む。
しかし、理不尽さはないのだ。
「私、越してきてないんでございます」という、不条理ワールドを確認するワードは出てきた。ごく軽い。
仕立て屋は不条理ワールドに巻き込まれてはいるが、わりと冷静みたい。
このままでは、入居もしてないのにひどい目に遭わされる、そんなおそれを抱いていないからだ。
仕立て屋のせがれと、長屋のお花ができてしまって心中する妄想にも、最後までわりと軽くつきあう仕立て屋。
心中の芝居仕立ても最高。
先祖伝来の業物がないので、警察払い下げのサーベルを持って家出するが、これがガチャガチャ言ってかなわない。
なので外す幸兵衛。外すもなにも、妄想だからそもそも着けてないけども。
息子はなんとか左衛門だが、親父の名は菊五郎だって。
2人目でサゲるが、新しい、軽いサゲが付いていた。
たぶんこの仕立て屋、大家の楽しい遊びに付き合ってくれたので、ご褒美に入居させてもらえると思う。
仕立て屋のほうも別段架空の非難をぶっつけられて、辟易してるわけでもない。
いやあ、実に新しい古典落語である。