国立演芸場寄席@深川江戸資料館(上・金原亭杏寿「小粒」)

落語協会の真打昇進披露もいよいよ最後、国立演芸場。
会場は深川江戸資料館である。
主役は吉原馬雀師。年功序列昇進にはあるまじき苦労人。これは参加しないと。
ただ、寄席四場と比べると口上の顔付けがややさみしい。国立の披露目はだいたいこんなもんだが。
その代わり、安い。2,300円から東京かわら版でさらに200円引き。
先日の浅草なんて4,000円で割引なしだ。
木戸銭が高くても安くても、来たついでにすみだデジタル商品券で買い物して帰るのだった。

深川江戸資料館は、2018年に笑点特大号の収録に出向いて以来。
国立演芸場の代替会場も、内幸町ホールが改装に入り、なかなか確保が大変みたい。
現に今月の芸協は、すみだトリフォニーホールである。

千早ふる 市遼
小粒 杏寿
鷺とり 一蔵
おしどり
ざる屋 小馬生
詐欺に喝!Ⅱ 朝馬
(仲入り)
真打昇進披露口上 馬雀・小さん・朝馬・小馬生・一蔵
禁酒番屋 小さん
小菊
サイン 馬雀

 

金原亭の芝居である。圓歌一門は一人もいない。
前座は桃月庵ぼんぼりさんか、隅田川わたしさんかどちらかであろうと。
しかし柳家だった。柳亭市遼さん。上手い人。

知ったかぶりを振るので転失気だろうと思ったら、千早ふるだった。
前座の千早ふるは比較的珍しい。
覚えて間もないのだろう、セリフが多少出てこないところもあったが、それでも上手い。
クスグリは厳選している。というか、柳家でそういうものを教わってるのだろうけど。
そして隠居が非常に軽い。
この隠居だと、あとで偽の歌のわけがバレたとき、シャレで済みそう。
訊きにくるほうも、さほど切迫感ないし。

隠居もまるで和歌に無知なわけでもないらしい。
金さんが一度だけ語った歌を、すらすら再現するのだから。

なんとかなるのは3年でなく5年。
そして、実家が豆腐屋という設定もない。
とにかく竜田川は豆腐屋になるし、なので千早花魁も当然乞食になる。
実にムリがない。本当は無理だらけなわけだが。

訊きにきた金さんが、千早が井戸に身を投げたあたりで非常に楽しくなってしまっている。
なのでこの先(ない)が気になる。
こういうフリがあると、「これ歌のわけですかい」が非常に効果的。
これ、二ツ目だって学べるテクと思う。
「とは」は当然本名。

番組トップバッターは金原亭杏寿さん。
二ツ目になってからは初めてだ。さすがに華やか。

名前を安寿だと間違って覚えられます。この字で検索すると介護用品が出てきます。
アンズのほうでお願いします。

人を褒めるのは難しくて、背の高い人にそう言って褒めても、当人にはコンプレックスだったりする。
高いところのものを取ってくれと頼まれるだけで。

始まったのは小男の留さんの噺。
幼なじみの大男に、いつも小さいとからかわれている。
こないだ縁の下の掃除、かがまないで入っていった、大したもんだ。
いくら小さくたって、かがまず入れるわけないだろう。
こないだお前がいなくなっちゃった。畳のすき間に埋まってないか心配で探したら、引き出しの中で仁丹を枕にして寝てたな。

ギャフンと言わせたくて大家に相談しにいく。
そんなところでしゃがんでないでお入り。
立ってます。

本体は一寸八分なのに大きな部屋におわす浅草の観音さま、その反対に仁王はでかいがしょせん門番。
太閤秀吉も大きな部下を従えている。
山椒は小粒でもピリリと辛いんだ。
と、いろいろ教わって、啖呵の切り方の手ほどきも受ける。

なんだっけこの噺?
聴いたことあるような、ないような。
だいたいの噺は、最終的にどこからか演題が落ちてくる。
大男に逆襲する際、「山椒はピリリと辛いんだ」と、小粒を抜いてしまい、またからかわれる。

ここで、そう言えば「小粒」という噺があったようだとかすかに思い出す。

落語は逆襲しようとしてもだいたい返り討ちに遭うのだ。
構造は春風亭かけ橋さんから聴いた「火の用心」に似ている。
小粒の場合、啖呵に失敗し、そして最後にもう1回失敗、というか裏切られて終わる。
小さい留さんが可哀想だけど楽しい噺。

杏寿さんは女優だったのに、逆に高座から過剰な演技を極力取り払っているのが面白い。
棒読み手法を高く評価する私には、なかなかよく響く語りである。
女流に限らないけれども、二ツ目になると前座と違う喋りを試みて、過剰演技で自爆する人たくさんいますよね。
意図的に語りをフラットにすることで、噺は乾いて余計な感情が発動しにくくなる。
実にいい手法だと思う。
まず棒読みで語れるようになってから抑揚を加えていくと、おそらく全然違うのだ。

続きます。

 

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