国立演芸場寄席@深川江戸資料館(中・春風亭一蔵「鷺とり」)

今回はちょっと嫌な客がいた。
「ほ」列の真ん中ブロックに座っていたご婦人である。
頭の配線がおかしな感じでつながっているのだろう、面白いと、手をひとつふたつ叩くという人。
たまに、自分が面白いとひたすら手を叩き続けるという人がいる。それよりはまだマシかもしれないが、ひとつふたつでもやっぱり場にはそぐわない。
このご婦人が一日の中で最も悪癖を発揮していたのが、春風亭一蔵師の高座であった。
一蔵師が好きなんだろう。そしていい出来の高座だったけども。

一人だけ笑いのツボで手を叩くというのは、あたしがここであんたの話をちゃんと聴いてるわよ、面白いと思ったわよという、自己顕示欲に満ちた無益なアピール。

一蔵師は、新真打馬雀師に触れてから、仕事で大分・佐伯に行った話。
出身者でもないのになんで呼んでくれたのだろう。
主催者に訊いたら「噺家さんなら誰でもよかったのよ!」。正直な人だ。
まあ、そんなことも地方ではよくある。笑点出てる兄弟子ならいざ知らず。
会場である佐伯の公民館に行くと、意外と入っている。
「入場料安いからね」
入場料は100円で、お茶が2本付く。客はお茶をもらいに来てついでに落語を聴く。
エレベーターの中でご婦人と話をしてみる一蔵師。
「今日何があるんですか」
「落語よ」
「誰が出るんですか」
「知らないわよ。あたしお茶もらいに来たんだから」

高座に上がったら、最前列にこのおばちゃんが。向こうも気づいたみたい。
マクラでエレベーターの話をしてみると、おばちゃんが全身身ぶり手ぶりでストップを掛ける。

本編は鷺とり。
どこかで聴いたなと思ったら、「ZABU-1グランプリ」でした。
すぐ潰れたしょーもないテレビの大会。そんなのもあっていいけど。

冒頭が、通常の鷺とりとまるで違う!
ストーリーは同じなのだが、隠居とプー太郎の会話の調子がまるで違う。
一蔵師らしく、ぶっきらぼうだが愛嬌がある若者。
さらに言うと、隠居(隠居じゃないと思うが、落語のキャラ的に隠居)のほうから訪ねてきている。
見事な古典のアレンジ。

米屋の払いは踏み倒す、から鷺とりを思いつきましたまでスピーディ。
鷺の様子を隠居の前で演じてみせる。右手を高く上げ、これが鷺の頭。なのに顔も出っ歯。
さっそく不忍池で鷺とり実践。
見張りのやつがサボってたんでボコスコ捕れる。
腰に巻き付けたこやつらが羽ばたいて、宮崎まで連れていかれる。
吉原馬雀誕生の一席。

色物は久々に観るおしどり。
奥さんは寄席の外ではいろいろある人だが、舞台はレペルアップしていた。
音楽系色物さんが増える中、寄席で生き残ってるのはすごい。生き残れてない人もいるから。
ある種披露目にふさわしい。
旦那のケンちゃんのテルミン演奏とパフォーマンスは初めて観た。

そう言えばおしどりさんに池袋でもらったハリガネのうんこ、長らく部屋に飾ってあったのだが気づくとない。
家内に処分されたらしい。

話はそれるが、いつも不思議に思っていることがある。
なぜ「原発推進派の左翼」っていないんだろう。
「貧乏人の生活を守るために電気代の引き下げを!地球温暖化防止のため化石燃料の削減を!そのために効率のいい原発稼働を!」って発想、非常に筋通ってると思うんだけど。
それが正しい考えだなんて言うつもりはない。
ただ、思想には足かせが多いなと。

落語に戻り、金原亭小馬生師。
しばらくご無沙汰だったが今年二度目。
縁起担ぎから、ざる屋。
金原亭しかやらないと思うが、これもめでたい披露目のために出しているわけだ。
なにせ、「米が上がる、米上げ笊」である。縁起いい。

小馬生師はとにかく声がいい。
この声でテンポよく進む噺はたまらない。
冒頭の、「暇そうな人に訊いてもつまらないから忙しそうな人に訊こう」からもうたまらない。

おや、と思ったのは縁起担ぎの旦那に招き入れられ、名前を訊かれた際に「上田ノボルとしときましょう」。
あ、本名じゃないんだ。それを旦那は気に入ってくれている。
金庫ごと持ってこい、とこんなめでたい噺もない。

仲入りは新真打の師匠、吉原朝馬師。
この人は初めて遭遇する。
声のいい人だ。

警察から委嘱され、特殊詐欺撲滅運動をしている。
メンバーには杉良太郎もいる。奥さんの伍代夏子さんは本当に綺麗だが、天童よしみや研ナオコの事務所からクレームがあるといけないのでこれ以上は自粛。

弟子に迎えた馬雀の作った噺をします。弟子の噺ですからそんなに面白くないかもしれませんが。

「詐欺に喝!Ⅱ」だそうだが、弟子から聴いたことはない。
師匠のために作ったので弟子はやらないのだろうか。
ひったくりから足を洗い、特殊詐欺への移行を宣言するアニキと弟分。
今から参入して間に合うんですが。
詐欺被害はどんどん増えてるから大丈夫だ。

海外に拠点を置く詐欺グループは巧妙。
東京03のナンバー偽装で電話を掛けてくる。
弟分も、稚内警察署から電話があり、LINE仲間になってしまった。

披露目の口上に続きます

(追記)

思い出したので。
朝馬師が、高座に置かれた小馬生師の腕時計について「おおい、忘れてるよ」。
そのあと、「まあ、これは私がいただいといて」と懐にねじ込むのがやたら面白かった。
忘れたというより、前座さんが持ってくべきだったんでしょうね。

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