この会のプログラムはなくて知らない。
次に主役の歌近さんが上がる。もう一席、トリに上がるのであろう。
お集まりいただきありがとうございます。
4月21日に二ツ目に昇進しまして。地元市川で会をやるのが夢でした。
ただ、平日の昼間というのだけ誤算です。先ほども受付でだいぶお客さまがたに、もっと日を選んでくれと言われました。
今日はゲストを3人呼びました。ゲストを自分で呼ぶなんていうのも初めての経験です。
まず、師匠歌助です。師匠ですから当然呼びます。
まだ二ツ目昇進が決まっていなかったころ、師匠のがんが発覚しまして。
いろいろ考えてしまいました。江戸の落語というものは、真打になるまでは師匠が面倒を見るわけです。ですから二ツ目の間に師匠に死なれてしまうと、よそに入門し直さなくちゃいけません。
心配していたのですが、だいぶ最近は回復してきました。
私の二ツ目昇進が理事会で決定されたのは、師匠の誕生日でした。
ちなみにその1年前の誕生日に、がんが発覚しました。
それから小痴楽師匠です。
どうして小痴楽師匠かと言いますと、この人は大師匠の歌丸にずいぶんとかわいがられていたんですね。
歌丸にずっと付いて回っていた人です。
ただし難点がありまして。遅刻の常習犯なんです。この昼間の会に、ちゃんと来てくださるかが最大の問題でした。
今朝、今日も手伝ってくれている弟子のいっちさんからLINEがありました。
「師匠を起こしておきました。二度寝しなければ大丈夫でしょう」
おかげで先ほど到着なさいました。
小痴楽師匠は本当に優しい人で、いつもお世話になってます。
自分のトリのときはですね、二ツ目枠を増やしてくれるんです。通常はひと枠しかないんですが、若手のためと言って三枠作ってくださいます。
それから小すみおねえさん。
おねえさんは私と同じ市川在住です。
うちの師匠は学校寄席をよくやっていて、市川も担当地域だったんです。小すみおねえさんが学校寄席に出たこともあります。
ただそれだけではなくて。
楽屋で小すみおねえさんに声を掛けられたんです。「○○先生知ってる?」。
何かと思ったら、おねえさんの二番目の娘さんが、ぼくと同じ学校だったんです。
クラスは一度も一緒にならなかったんですけどね。世間って狭いなあと。
まず一席やらせていただきます。最後にもう一度上がります。
歌近さんを聴いて、カウンターとしてのわかりやすい二ツ目さんの失敗例が思い浮かぶ。
具体的に誰というのではないけど、ありがちな。
- 面白い話あるんですよ! 聞いてください、絶対に面白いですから!
- そんなに面白い話ないんですけど、ご挨拶代わりに最近の話題を
どっちも嫌い。
本当に面白い話なら、予告する必要はない。
それに、つまらない話を本当につまらなく話されるのも迷惑。マクラでウケるもんじゃないと思ってるのかもしれないが、客のこっちは本編に入る前に脱落する(そして本編が楽しかったためしはない)。
いっぽう、歌近さんは、こうですね。
- 最近の話題です。別にウケなんか狙いません。でも、退屈する話なんかしませんよ
マクラの役割が染みついてるんでしょうね。
落語界における、マクラの空気感をしっかり内面化しているのだ。
本編は真田小僧。
ずいぶん聴きやすい一席。
聴きやすさの秘訣は、こういうことかな。
- 既存のクスグリは強調しないでごくサラッと
- 自分で作ったギャグだけ、自信があれば思い切って押してみる
これも、カウンターとしてだめな人を想定してみる。
- とっておきのクスグリだ! 演者のオレはここが一番好きだ!
- どうだ! 古典落語に画期的なクスグリを追加したぞ!
いや、どっちもつまんないって。
ただ、ダメな人の後者、Newクスグリは、唯一救いの道がある。コッソリ出してクスッとされたら、まだ可能性がある。
それから改めて、強めにやったらウケるかもしれない。
ダメな人の前者は、結局そもそも落語に馴染んでない悲劇なんでしょう。
自分がかつて衝撃を覚えた古典落語のクスグリを好むのは構わない。でも、衝撃を受けた際のその出し方、きっと軽かったと思うのだけど。
金坊は、いきなりおあしくれと催促。
明日の分おくれはない。
おとっつぁんが家を空けた際の行き先は、横浜じゃなくて市川だった。
れん児改メ桂歌近二ツ目昇進記念の会に行ったんだそうな。
悋気の独楽のやり方。こういうのも、力を込めないから悪目立ちはしない。
おとっつぁんのほうは記号化していて、あまり感情が表に出ない。
内心焦れている様子は、金坊の語り口と態度から現れる。
1文しかくれないので金坊、親父にドスを利かせている。
こういうのもサラッとやるので噺は壊れない。
たったひとつだけオヤと思ったのは。
「横丁の按摩さんが、おっかさんの腰揉んでただけでした」
『だけ』って要らないんじゃ? と。
まあ、これぐらいだ。
金坊は間を取って、親父に衝撃が伝わったのを確かめてから逃げていく。
いい一席。
結局、外から人材を連れてこようとしたって落語に革命なんて起きない。
自分がかつての革命児であったと思いたい、痛いおじさんに革命は起こせない。
そうではなくて、既存の落語界を隅々まで観察した人の中から、次のエースが出てくる。小痴楽師もそうであるように。