最新テレビを買ったけども、テレビからラジオが流れている時間が一番長いのだった。
NHKラジオの「NEXT名人寄席」を聴いた。
開口一番が、二ツ目の入船亭扇七さん。最近昇進したばかりで随分早いメディア登場である。
NHKアナ出身だからなのかもしれない。だが、「フリーアナウンサー」の経歴は紹介されていたものの、その前の所属については放送では伏せられていた。
身内びいきと取られると公共放送としてはよくないものか。
扇七さん、二ツ目になってからの高座は聴いていない。このラジオが初めて。
「子ほめ」があまりにも上手いので驚嘆してして取り上げることにした次第。
高座の前には師匠・扇遊からのメッセージ。アナウンサー辞めて噺家になりたいというので、猛反対したのだと。
子ほめという前座噺は名作であって、真打までよく掛ける。
噺家にとってはもうかる噺であろう。
ストーリーがしっかりできている噺であるから、ひどい子ほめというものは聴かない。ただ、極めて凡庸な子ほめなら、しばしば見かける。
噺に内在するクスグリを順に入れてけばいいというもんではない。子ほめで一生懸命クスグリをタメて出す前座も見かける。
だからといって、オリジナルギャグでウケるような噺でもなくて。入れるところがないし。
どんな噺であっても、易しいということはないのだ。
扇七さん、さすがに声は素晴らしい。
かなりの武器だが、これだけに頼ってはいない。
扇七さんの最大の武器は、チェンジオブペースであった。緩急。
落語のリズムにもいろいろある。
棒読みというのは、最近改めて基本ワザだと理解している。棒読みの場合はリズムの緩急はあまり問題にはならない。
わりとよく聴くリズムは、一定の小気味いいペースで進めるもの。一定のビートを刻み続けるドラムに乗ったリズム。
非常に心地いいのだが、いっぽうで一定のリズムだと客の頭をすり抜けてしまうこともある。意味を失ってしまうのだ。
扇七さんのリズムは一定でない。極めて頻繁にテンポを変えていく。こんなやり方はあまり見ない。扇遊師のリズムに、さらにメリハリを付けたようなものか。
リズムを変えるといっても、露骨なペースダウンを楽しむというやり方ではない。ハイテンポ(アナウンサーなので、どこまでもスピードアップ可能)もスローテンポも、それぞれ独自のいいリズムなのである。
いいリズムを複数自然につなぎ合わせて一席作ってしまう。
前職のスキルを活かしきったプロ。もちろん、アナウンサーだったら落語を喋れるなんて関係にはない。
もともとアナウンサーには、喋りの緩急はさして求められていないと思う。司会など手掛け、話術の追求を始めようやく意識する人もいるだろうか、そんなところ。
なるほど、アナウンサーの使わない話術を、落語で見つけた人なのか。
というよりハイブリッドなこの話術、噺家の中でも最先端を進んでいる。
なんだか口調がいいなと思っていると、客はもう演者にのまれている。
といってリズムだけの落語ではない。
みんなが掛ける子ほめだが、扇七さんはきちんと噺に迫り、登場人物すべてについて完全に肚に収めている。
喋り方に合わせ、クスグリはあまり強いものは使わないようにしている。強いとせっかくの緩急が損なわれる。
八っつぁんの口の悪さも、客に直接刺さらないよう工夫しているのが現代ふう。
隠居、番頭、子供の生まれた竹さんと、それぞれいずれも口の悪い八っつぁんのセリフをさりげないツッコミでマイルドにしてくれるのだった。
失礼な面白さというものは子ほめにはしっかり内在していて、こんなやり方だとその味は損なわれる。でも落語はトータルで気持ちいいのがいちばんだ。
登場人物は絶対に対立したりはしない。往来で出くわす番頭さんも八っつぁんをひっぱたいていかないし、竹の野郎も失礼な八っつぁんに決して腹は立てない。
聴き返していろいろと素晴らしさを発見したが、とはいえ演者はどこまでもさりげない。
どうだオレなんて慢心はカケラもない。
大ネタももちろん仕入れているだろうが、どんなアプローチをするのだろう。
さすがにトリネタの場合はリズムだけでは取り切れない。
ただきっと、噺を肚に収めつつ、どうだ!とやらない点は一緒でしょう。
神田連雀亭に出るイメージはない。
早くから、真打の地方の会に帯同してそう。
勉強会でもあればぜひ聴きたい。