神田連雀亭昼席9(上・立川うぃん「転宅」)

今年初めての神田連雀亭、それも昼席へ。
いいメンバーだと思うが客は5人。

転宅 うぃん
近日息子 竹千代
雪とん 馬久
花見の仇討 鷹治

立川うぃんさんだけ初めて。
立川流の二ツ目も聴いておくべきである。
こうした好きなメンバーに混ざっているとき、それもトップバッターのときは狙い目。

前説の竹千代さんは特に面白いことは言わない。
うぃんさんから。
ご本人の高座は初めてだが、ごはんつぶさんからマクラで聴いて、ご実家が馬車道でウィーンという喫茶店をやっている(た?)というのは知っている。
でも自分の話はしない。

縁起のいい噺について。
きつねたぬきは化けるなんて言って縁起がいい。
それから泥棒。お客さまから祝儀をもらうと言う。
足の速い泥棒の小噺から転宅へ。

私の抜きがたい偏見として、立川流の噺家はとにかく変わったことをしたがる印象。
好きな噺家に対してすらそう感じるので、あながち的外れでもないと思う。
ところがうぃんさん、東京の二ツ目全体の中でも本寸法というイメージ。
市馬門下にこんな人いるねというイメージなのだ。これで志らく門下とはびっくり。
クスグリはかなり厳選する。
転宅は遊ぶ気になればとことん遊べる噺であり、現代ではいかに遊ぶかがテーマになっている気がする。
ペーソスを強調する人もいて、その程度も千差万別。
流行に抗い、ここまで遊ばない転宅は、極めて新鮮。
「お菊さんに発見された後も食い続ける」というギャグもひそやか。
ひそやかなので、ウケを狙って蹴られる悲劇など微塵もない。
「マジメに働いててよかった」という、渾身のクスグリもひっそり。ウケればウケていいんだろうけど、とにかく狙わない。

頑張らないので聴いていて楽だが、でももう少し盛り上がりがあってもなと、前半は思わないでもない。とはいえ客が我慢を強いられている感もない。
うぃんさん、客の顔を堂々見られる強みもある。こういう人には心理的に反発はしづらい。
とにかく狙わないので、吐き出してしまうことはなく徐々に貯金がたまる。おかげで後半は同じ方法のままウケ出す。
「はんぺんだけにきぶん屋」というクスグリで初めて爆笑したのだが、でもよく考えればやたら楽しいギャグでもなく。入れ方が上手いわけである。

一夜明けてのタバコ屋の場面も引き続き軽い。
だが、前半を回収する展開のため、勝手にウケてくる。
ベテランの技法っぽいいっぽう、若さは失っていない。
前後半トータルでもって楽しませてもらいました。

転宅は本来トリネタだと思うが、うぃんさんの軽い一席は、本当に開口一番で違和感ないものだった。
気になった点がひとつ。といっても、全体の好印象からすると忘れてしまってもいい程度のものだけど。
声を妙に作るなあと。
この日3番手の馬久さんが男前の声を出しているのは、必要性も含めてよくわかるのだ。
うぃんさんは妙に三枚目のひしゃげた声にする。

また連雀亭で聴かせていただきます。

続いて桂竹千代さん。
振り返ると2024年は一度しか聴かなかった。
いつも活躍チェックしてる人だけど。もちろん今回も目当てだ。
例によってもったいつけた口調で、ついにチャンスが来ましたと。
ぼくは大学で古代史を学びました。大学院まで行ったので6年間研究していたわけです。少年院じゃないです。
そのつながりで、邪馬台国大分説を唱える先生と知り合いになりました。
大分には宇佐八幡がありまして、全国の八幡さまの元締めみたいなところですね。ここに邪馬台国の跡地じゃないかというストーンサークルがあるのです。
今年は宇佐八幡建立1300年という年でして。
昔テレビで特集した際のディレクターさんがプロデューサーになっているので、この先生の邪馬台国説を改めて取り上げようということになりまして。
どうせならドラマにしようということになりました。そして、ぼくにも役をくれるというんです。
当時の新興宗教の指導者という役で。顔が胡散臭いからいいだろうと。それはそれで嬉しいです。
そして主役は誰かというと、斎藤工です。ぼくはふだんドラマ見ないんで役者さんの名前は知りませんけど、斎藤工は知ってます。
斎藤さんは先生の役なのかというと違って、助手の役だそうです。先生の役を務める人はまだ決まっていないそうで。
先生が言ってくださったんです。どうせなら、ぼく(先生自身)の役は古代史に詳しい人のほうがいいよね。でも心当たりがなくて。
どうせなら、竹千代さん推しておいてあげようか。話だけはしてみるよ。
えー、すごいじゃないですか。もうぼく、5人の前で落語やってる場合じゃないですよ。
斎藤工の相棒になれるかもしれません。
ただ、放送局がフジテレビで。終わったー。
ドラマの話どうなってるかわかりませんが、たぶんないでしょうね。昨年12月にいただいた話なんですが、こんなことになるなんて。

楽しいマクラ10分。
本編、近日息子に続きます