いったん寄席の続き物に戻ります。
持ち時間の半分使って楽しいマクラを語った竹千代さんは近日息子。
桂二葉さんや笑福亭生寿師などが手掛けていて、上方からちょっと流行っている気がするのだが、気のせいかもしれない。
竹千代さんの近日息子は、本筋と直接関係のない、「そうとも言う」のくだりがなかった。
町内の知ったかぶりに、ツッコミの相方が日頃の鬱憤をここぞとばかり吐き出すくだりがない。なくても成り立つのだ。驚いた。
この部分が肝(副作用として、ぼうっと聴いている初心者を惑わせる)だと思っていたけれど。
ここがない代わり、悔やみのプロのくだりを充実させる。
大家の家の、ちょいと抜けた息子が新聞の字はどのぐらいあるんだろうと数え続けている。
親父が「近日開演」のくだりをほじくり返して小言を言う。そしてたばこ盆。
お前さんももう少し気を利かせなさい。
気を利かせたそして息子は医者を呼び、早桶を頼み、葬儀の用意に取り掛かる。
いい意味で前座噺っぽい。この噺のもともとのスタンダードな形はわからないが、竹千代さんのこれがそうかもしれない。
私はいつも前座噺がもうちょっと増えないものかなと思っている。この型すごくいいので、前座にやってもらいたいなんて思う。
まあ、前座噺が増えた例なんてあいにくひとつも知らないけども。消滅していった例なら知っている。
親父が次々襲いかかる災難にうろたえる間もなく、どんどん進行していくのがたまらない。
改めて面白い噺だなと。
続いて、秋の新真打である金原亭馬久さん。
真打準備の話を聴きたいのに、なにも語らない。でも本編はよかった。
今からやる噺には、非常にいい男が出てきます。皆様の想像力で、いい男を思い浮かべてください。
噺家がいい男だとよりいいんですけどね。
と振って、田舎から江戸見物に出てきた若旦那の恋わずらい。
これは「雪とん」ですね。正月の黒門亭で、入船亭扇辰師から聴いたのはもう5年前。それでも相当印象の強い噺だった。
ちなみにそのトリの一席のあとで、おきゃんでぃーずだった春風亭一花さんが結婚のお知らせで再登場したのだった。馬久さんも一緒に出てきた。
雪とん、途中の「親指と人差し指、2本の指で女を引き倒す」というくだりまで、そっくり扇辰師のものだった。
どう考えても直接教わってると思うのだけど、調べると雪とんは志ん生もやっていて、古今亭にもあるのだ。
よその一門の師匠から教わるかな? 出どころが一緒なのかもしれないが、扇辰師がアレンジを加えていないはずはないと思うのだが。
扇辰師とそっくりだとしても、実にいいものでした。
色っぽい噺というのはいいよね。
寝込んでいるくせに食欲旺盛な、田舎の若旦那。
おかみさんが心配して訊いてみると、糸屋のお嬢さんに恋わずらい。糸屋のお嬢さんといえば、町内の小町娘だ。
おかみさんに頼んで、取り継いでもらえないかと若旦那。若旦那は自分がもてる男でないことは重々承知していて、高望みする気はないのだ。
ただ、お嬢さんと話ができて、優しい言葉のひとつでも掛けてもらえれば満足して田舎に帰れる。
おかみさんはお嬢さん付きの強欲な女中に話をする。袖の下付きで。
扇辰師の雪とんは、おかみさんが無駄なく色っぽいし、強欲女中が見事なコメディリリーフ。
それを念頭に置いたらやや物足りないが、それでも面白い。珍品好きの馬久さんの面目躍如。
秋の披露目で出して欲しい。寄席は秋だからまだ季節は早いけど、その後披露目つきの落語会などあるでしょう。
雪の中、勇んで出かける若旦那。雪にまみれた真っ白い犬と遊んでいるのがアダとなり、実にもっていい男の火消しの佐七が身代わりに招き入れられてしまう。
佐七は下駄の雪を外そうと、糸屋の戸口を蹴っただけなのだが、これがあらかじめ決めておいたサインと一致してしまうのである。
ここがすなわち演題の「雪トン」。
このいい男を演じる時に、馬久さん、気取った声を出す。
いい男がやってきたのでお嬢さんも大喜び。炬燵に入って楽しい酒席に酌をする。
遅くなったので床をのべてもらう佐七。お嬢さんが挨拶に来たところで、2本指である。あーれー。
雪の中一晩さまよい続ける若旦那は気の毒だけども、でも実にこの噺好き。
馬久さんのところは、夫婦揃って噺を教わることが多いらしい。一花さんがNHK新人落語大賞に出した駆け込み寺もそうだったという。
一花さんも「雪とん」やりそうな気がする。若旦那も含めて、みな上手いと思うが。
明日は連雀亭の続きか、「東大卒エリートが落語家に転身」の続きか未定です。

