横浜にぎわい寄席2(下・金原亭小馬生「大山詣り」)

春風亭昇々師の千両みかんの続き。
酷暑の中みかんを求めさまよう番頭さんは、主殺しのはりつけを恐れもうネジが外れてしまっている。
昇々師は、新作も古典もマンガ的造形が実に上手い。師匠譲り。
この噺、人の記憶に基づく磔刑の様子をいかに楽しく描くかがひとつの肝だと思っている。
だが、グロさ強化という反作用があるのは避けられない。なにせまだ生きてる人間の首をノコギリびきにするんだから。
この点、昇々師だとマンガだからセーフ。
そもそも、主人は若旦那かわいさに番頭を脅すけど、そんなにひどいことまでは言ってない。番頭の中で妄想が膨れ上がってしまったのだ。

そして、逆説的なのだが噺の流れが実にスムーズ。
マンガだからこそ、ご都合主義をものともしないのだ。
ある店の前でへたり込んだ番頭さん、神田にあるみかん問屋万惣の名を教えてもらう。

千両のカネは駕籠ではなく、大八車で運ぶ。
帰りの大八車にはみかんひとつ。

旦那に相談して手に入れたみかん、番頭がむいてやる。
若旦那が袋の数を数えると10。とふくろ。
番頭がいきなり「とふくろさん、とふくろさんよ」と唄い出す。なんだこの卑怯なギャグ。

終盤には「価値観の錯覚」という大テーマがあるわけだが、噺の流れは決まってるのでこんなのも入れてみたのだろう。

昇々師、こんな見事なマンガ古典を次々出していくのだろう。
マンガゆえに実にズシリ来る重みまで。

仲入り後は、寄席の売れっ子マジシャンダーク広和先生。
売れっ子なので最近よくお見かけするが、この先生はバラエティ豊富で、ネタもあまり被らないのがすごい。
そして軽いトークがたまらない。
「六角橋で生まれて西谷で育ったダーク広和です」
横浜に来ると、芸人みんな地元感出すから面白い。

私最近りょうしに憧れてるんです。
量子ですよ。量子の乱れに惹かれてまして。
急に思い出したとかで、アクリルでできたサイコロ状のキューブを持参。
6個のキューブを格納する四角い筒が2個。字が書いてある。
「量子の乱れ」
「テレポート」

字の説明をしないのが粋だ。
中のキューブを、客参加でランダムに積み上げさせてもう1組も揃える。

トリは金原亭小馬生師。この名になってからは初めて。
コロナ禍の4年前、馬玉時代に続けて3回4席聴いて以来だ。
ずっと聴きたかったのだ。
この人は伊勢原だが、地元ではないということかアピールはしない。

マクラは振らず、講を組んでお山にお詣りに出掛けた話から、すぐ本編へ。
大山詣り。たまには聴きたい大ネタ。
小馬生師にとっては地元であり、これ関連の仕事も多数もらっている大事な噺。

忘れていたが、コロナの配信で出した馬玉師の大山詣りでひと記事作っていた。

そちらにも書いているが、小馬生師はまさに音楽。
最後まで緻密な構成で聴かせてくれる。
聴いてる最中は、かつて配信で聴いた内容を思い出さなかった。噺に引っかかりを強く残しておく落語ではない。
その代わり何度も楽しめるはず。

にぎわい座の2階、チケット売場には展示コーナーがある。
現在は、「カメラ部」「手ぬぐい」とともに、「大山詣り」特集である。
この席は、小馬生師にとっては当然のように大山詣りなのでしょう。
ちょっと気になったのが、特集で取り上げられていた大山詣りのルート。青山発厚木街道経由なのである。
今だったら小田急線で行くのが普通だから、このルートが主に見える。
でも、落語の舞台は東海道神奈川宿だ。この一行は、藤沢の四ツ谷(辻堂駅の北)から大山に向かうのだ。こちらのほうが宿場が充実して便利だったろう。
このルートだからこそ、足を伸ばして江ノ島に寄れるのだけど。
展示物にも「様々なルートがあった」と書いておくだけでなくて、落語のルートはここですよ、というのを付記していただけたらなおよかった。

小馬生師の噺についてるアクセントは、「この噺は大山詣りと申しますが、大山は出てこないんです」。
このくだり聴いて、どこかで聴いたのをぼんやり思い出した。
ちなみに一行、前年は富士詣りに行ったらしい。富士は遠くて大変だったって。
富士詣りという落語もあるが、大山詣りに比べると小品。好きな噺ですが。

余計なことばかり書いているのだが、それだけ小馬生師の大山詣りにはムダがなく、スキもない。

  • 出かける前に熊さんに留守番頼む
  • 神奈川宿での風呂場の喧嘩
  • 熊さん丸坊主
  • 朝の模様
  • 籠を飛ばす
  • ウソ話でかみさんたちを言いくるめて坊主にする
  • おけがなくっておめでたい

すべてのシーンが楽しい。
贅沢な落語である。
熊さんが、マゲが自慢なのもしっかり描いてある。ならばかみさんたちを尼にしてもよかろう。
となるかどうかは知らないが。

今後も定期的に小馬生師を聴いていきたい。

明日の更新は夕方になると思います。

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作成者: でっち定吉

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