テーブル掛けに覆われた釈台が出て、玉川太福(曲師みね子)。
太福師も芸協らくごまつりの話。
サイン専用の部屋を設けてもらって、そこに抜擢された。
ただ、両側が柳亭小痴楽、神田伯山。
遅れて行った太福師を尻目に、両方の列が長く伸びている。すでに並んでいる人たちは、いまさら移れないし。
自分の列だけ短くて恥ずかしい。なんだこいつみたいに見られる。
そこへご贔屓が、「ああ、玉川太福さんじゃないですかあ!」とわざとらしい大声で並んでくれる。おかげでようやく列ができた。
伯山先生は、お客さんにめちゃくちゃ丁寧。
写真撮りましょうかと常に声を掛けている。ラジオで見せている姿はなんなんだ。
遊雀師匠以外はサインしますのでぜひ来年もと。
お客さまが、私に一番やって欲しい話というのがありまして、それを今日はやります。
100歳を超えて現役の曲師、玉川祐子師匠のスマホ乗り換えについていった話。
玉川一門で一番下なのが私でした。なので頼りにしていただいていて。
もっとも私の弟子が入り、下ができたので今後はそちらに移るかもしれません。
3年前ぐらいの実話。
ガラケーからスマホにしたい祐子師匠。写真を大きな画面で見たいらしい。
赤羽駅前で祐子師匠と待ち合わせ、ソフトバンクへ。
赤羽に行くと近所の人と話をしていた祐子師匠、「私のいちばん大事な人」と紹介してくれる。
そしてお土産をくれる。これから寄席が2件あって荷物だが、もちろん文句言ってはいけない。
ソフトバンクに行って手続き。
電話帳を移す手伝いをしようとすると、丸ごと移さなくていいと。もう存命の方はこれしかいない、と手書きで書いてこられている。
順位の1番目は娘さん。2番目が私。
最後、2年契約か4年契約かで激しく悩む太福師匠。
「ちょうど時間となりました」の後で結論。さすがに4年にしました。
師の浪曲と同じく(この「祐子のスマホ」だってもちろん浪曲なのだが)、実に緩い、日常的な話で楽しませてくれる。
実話のあらすじしか覚えていないのだが、その間ずっと節を回しているわけである。贅沢な芸。
ヒザ前は三笑亭夢丸師。
本日トリの鯉八師は、瞬間カミシモとでもいうべき、複数の登場人物のセリフをつなげてしまうワザを持っている。
これは、夢丸師から来てるのではないかと私は勝手に思っている。
夢丸師も芸協らくごまつりの話だが、茶光さんや太福師とごっちゃになっちゃった。
私そんな人気のある芸人ではないが、ちょっと囲まれていると人気に見えるというような話だった気がする。
私、年に3回だけやる噺があるんですよ。
そうしたららくごまつりの会場で、「去年4回聴きました」という方がいました。
いいお客さんのときにしか出さない噺なんです。それで被っちゃったのかなと思います。
わけわからない噺なんですよ。大して面白くないし、ポカンとされることもありますし。
前フリで、やる噺はわかった。あたま山。
噺自体は非常に有名なのに、そうそう聴けない不思議な噺。
私は現場では、立川笑二さんから聴いたことがあるが、普通のあたま山ではなかった。普通のあたま山があるとしてだが。
夢丸師がどうあたま山をやるのかというと。
もう、最もついていけそうにないお客(実際には、この日の末広亭には少ないと思う)に基準を置いて、取り残さないように進める。
頭の上で花見をしたり、釣りをしたりするシュールな状況に、しっかり疑問をぶつけて進む。
別に本気でわからない客を救おうとしているわけではなくて、そのポーズだけ。
これは上手い方法だなと思う。
上方のラジオで聴いた笑福亭鶴二師の「粗忽長屋」。
鶴二師は、「当人呼んできます」のあたりで、地のセリフでもって「この噺はここらでちょいちょいわからん人が出ますねん」と断っていた。
実際に落語の現場にいる客は、「わからん人」ではなく、「腑に落ちない人」なのである。
だが最下層の「わからん人」(架空)に焦点を合わせることで、腑に落ちない人を残らず掬い取れる。
夢丸師が狙っているのもそういうところだと思うのだ。
最初から楽しいあたま山の世界に浸れる人も、演者の説明が過剰とは思わない。それは、自分より下の層に向けられたものに過ぎないからだ。
すべては、主人公ケチ兵衛さんがケチすぎるのでこうなったという説明がついているのも丁寧。
ケチだから落ちてるさくらんぼを拾い食いし、ケチだから種も飲み込む。
ケチだから桜を抜いた後で溜まった水を放置しておく。
座り芸の太神楽を挟みトリの鯉八師なのだがどうしようか。
この日の末広亭、寄席自体へは通ってる私をして、本当に楽しいものだった。2年に一度あるかないかというぐらいの。
だがトリだけ正直、合わなかった。
なぜ合わなかったかは、自分の中で明確にわかっているのである。「おはぎちゃん」というネタの問題。
「合わなかった」であって、「つまらなかった」「不出来だった」ではない。
トリが口に合わなくてもなお楽しかったこの席の最後、変な締め方をしたくないので、一旦ここまでにする。
鯉八師の何がどう合わなかったかは、批判ではないのだが記録しておく価値はあると思うので、別途書いてみる。
いつ出すかは未定です。
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