落語のうまいへたはどこで決まる?  一言で言い切ります

落語の実力の判断は、なかなか難しい。
聴くだけの素人も、あの人は上手いだの、あいつはヘタだの気楽に意見は出すが、だいたい言語化できていない。
それを今日は、一言で言い切ってしまう。

上手い人の落語は、高座の自分自身を上から俯瞰してしっかり観察している

以上。
逆に、観察できてない人が、ヘタ。

マクラからすでに、上手い人が上手い理由は始まっている。
さらに高座に上がる前から準備は始まっている。前座さんや楽屋の仲間に客の様子をヒアリングし、そして実際に袖から観察する。
想定に沿って準備して、最終的にマクラ振りつつ高座で完成させる。

「上から見ている」は別に私が一から思いついたオリジナルではない。これに近いことを言っているプロもいたはず。
自分の高座の上の演技や口調、お客にアジャストしたその様子をじっくり観察するもう一人の自分がいる。
これができている人は上手い。
口に合わない客はいるにせよ、なお。
高座でグズグズになり、修正できない人には、高座を俯瞰するもう一人の自分はいない。いないから、客とズレたらお手上げ。
ズレる回数が多ければ、いい高座があっても評価は落ちていく。

私は20年にわたって競馬ファンだったのだが、この業界の名言を一つ知っている。検索しても出てこないのだけど。
野平祐二(シンボリルドルフの調教師)だったか。
「上手い騎手はスタンドに頭を置いている」
フレーズは正確じゃないが、意味は合ってるはず。
馬群の中で馬を操っていても、それを俯瞰して眺める視線を持っているかどうか、これが騎手のうまいへたの差。

サッカーだって、中田英寿のスルーパスの、3次元的視野がかつて話題になっていた。
スタンドからフィールドを観た視点がプレーヤーにあるのだろう。

野球はあまりたとえが思いつかないが、たとえば外野手がフライを追うときであろうか。
ヘタな外野手は、飛んでいるボールをまっすぐ追う。ボールはどんどん先に進むので、守備位置から補球位置まで、結局円弧を描いて走ることになる。
上手い外野手は、ボールの落下地点を予測してまっすぐ走っていくからムダがない。

上手い噺家は、ウケて単純に満足するのではない。一回ウケただけでは水ものだ。
高座の上で、今、どんな層に対しどうハマったのか、なにゆえハマったのかを常に見抜いていく。
ハマらなければ、その日のお客に合わせ修正していく。

修正の中身は、恐らくこんなところだろう。

  • 喋るスピード
  • 客への圧の強弱
  • 客にどこまで近寄るか
  • メタ感の導入(その高座のハマり具合そのものを客に説明する)
  • 政治やスポーツなど、客の感性がバラバラな対象については、危険なので注意のこと

そして最終的に高座で掛けるネタを決めて勝負する。
どうやってもハマらなさそうなので、リスク回避のためケガの少ない噺に逃げることもあるのでは。

ここまではみんなやるわけだ。
高座を俯瞰できているかが、最終的な差になる。
三遊亭白鳥師は、落語が上手いと私は思っている。
師はかつて、自他ともに認めるヘタだった。基本ができてないヘタなのに、変な新作ばかり掛けていれば当然仕事を失う。
師が現状打破のため試みたのは、高座を録音すること。
客が高座を録音するのは御法度だが、演者自身なら構わない。
録音して聞き返すことで、どこがウケたのかが徐々にわかるようになっていった。ウケた部分を膨らませ、ウケない部分は刈り込んでいく。
実に簡単な上達方法に思えるのだが、そうでもないみたい。
楽屋仲間に勧めてみたところ、「自分の高座なんて恥ずかしくてとても聴けない」という人がいたのだそうだ。
自分の高座が聴けなければ、上達するチャンスなどないだろう。

「高座を俯瞰できるか否か」という本稿のテーマは、恐らくこの話が元だったと思う。
あとは、常にメタ感を持っていた談志。

高座の技術は、実は聴くほうともパラレルではないか。
客の私、禁止されてる録音なんてしてないが、高座の内容はよく覚えている。
覚えているのは、色々考えながら聴いてるからだ。
ここまで書き進めて気づいたのだが、私は明らかに、「客席で落語を聴いてる客を俯瞰して」眺めているのだ。
自己のリアルタイムな感情を、第三者的に眺めると高座の内容は非常に覚えやすいものとなる。

ところで演者のほうにも、喋りながら「ここがウケた」「ここが蹴られた」とリアルタイムで感覚を記憶している人がいるのではないだろうか。
こういう人が具体的にいることまでは知らない。でも上手い人の中に、きっといる。
客の私は、色々聴いた落語の脳内データと付き合わせて瞬時に色々考える。
できる語り手のほうは、色々喋ってきてフィードバックを得た脳内データと付き合わせ、瞬時に色々考える。
なので上達が早い。これはいかにもありそうな気がする。

高座の内容を覚えておくには

 
 

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