いつもより演者の一人多い亀戸梅屋敷寄席。
ヒザは三遊亭栄豊満(えいとまん)さん。
マクラは面白かった。
浅草の東洋館に出ていたため、順序入れ替えてもらったとのこと。着物のまま総武線で汗かきながらやってきました。
ダイエットに成功して16kg痩せました(拍手)。
ここが今日一番の盛り上がりです。
ダイエットは母親に勧められたものなんです。なのに最近、あんた痩せ過ぎじゃないって言われます。
田舎に帰ると、掃除するから外に出ろって言われます。三遊亭でしよ、飲む打つ買うしてこいと。
私愛知県半田市で、隣にとこなめボートっていう悪い遊び場所があります。3,000円やるから遊んでこいと。
なお渋ってたら、送迎までしてくれました。
1万円負けました。7,000円どこから出たのか不思議です。
本編は、割と大きいネタの水屋の富。
もちろん刈り込んでたと思うのだが、うとうとしてしまった。
いよいよトリの兼好師。
相撲の話はすでに弟子がしている。
政治の話でも出るかなと思うと出ない。
一番最後に出るからといって、一番面白いとは限らないですよ。
夏休みになるとお子さんが来てくださいますね。
お子さんは何しろ、先が長いです。いえ別に皆さんが短いというわけではありません。
黒紋付を脱ぎ。
暑いんで、今日は紗の着物です(透けてる)。
これが、着てると暑いのー。
高座よりも、普段着てる着物のほうが気を遣います。
特に50を過ぎた女性は、道で会うと、なんでしょう、必ず着物を触ってきます。
手にとって、「うん。ポリエステル」。
チクショーと思うわけです。
夏の着物には、絽と紗、それから羅があります。
絽と羅の性質は、師匠の好楽が詳しく教えてくれました。
紗はどうなんですかって訊きましたら「しゃあ?」って言ってました。
「四百四病」と言いまして。
昔あって、今なくなった病気もあります。
男性の疝気は言いませんね。
「今日休みます。ちょっと疝気が出ましたので」とか言わないですね。
それから女性の癪。
時代劇でありますよね。女性がこう(胸の前で)荷物持って。
そこへ悪者が出てきまして、女性をさらおうとします。
「あれ〜」と気を失いまして。そこに正義のヒーローが扇子かなにか投げて、チャンチャンバラバラ。
「引け〜」
「お女中、無事でござるか」
「あ、持病の癪が」
これですよ。
いきなり始まった時代劇、むちゃくちゃ面白かった。
この面白さこそ、兼好落語の核心ではないかと。喬太郎師の影響もうかがえる。
お女中の、胸前に荷物を持ってるビジュアルが実に響く。
合薬が出てきて、やかんなめ。
兼好師がお持ちとは知らなかった。調べると割と最近のネタみたい。
昔昔亭昇さんが最近売り物にしてるが、でも小三治が復刻したこともあり、落語協会のイメージ。
兼好師へもそっちから行っているのだろうか。
これがもう、やかんなめの最高峰。
基本いい噺のフレーバーの掛かった滑稽噺だが、兼好のもの、しっかりと面白かった。
でも、別にギャグたっぷりなんてのじゃないのだ。既存の世界観を引き継いで、でもしっかり面白い。
師が冒頭でいじっていた子供たちの笑い声が響いていた。子供にもしっかり面白いのだ。
魔法に掛けられたような面白さ。
面白さは誰にでもわかるのに、面白さの秘訣はわかりにくい。
だが考えているうちにわかった。
子供たちのおかげである。
子供の好きな落語の多くは、「アホな大人が失敗するもの」。
で、やかんなめもそうではないかと思ったのだ。
やかんなめのお武家、早飲み込みで、変な漢気に溢れ、そして誇り高い。
侮辱されたと感じ切り捨て御免といこうとするが、しかし主人思いに目覚め、改めて人助けのためおつむりを舐めさせる。
若干粗忽っぽいが、でも粗忽による失敗の噺でもない。
なのだが、少なくとも兼好師のやかんなめはお武家の失敗の噺に映る。
聴く客の脳が錯覚し、失敗によりもたらされる快を味わう噺。
騙しの得意な兼好師、客の感覚をも騙している。
なぜこういうことができるか。
やかんなめに本来的に濃厚に漂う人情を、捨てるのではなく、一度遠景に追いやる。
人助けを決意するまでに、すでにお武家、根がいい人であることは描いてある。
だから人情は遠景にやれる。
一度女中を成敗すると決めた(刀を抜いている)が、自らの性質に基づき、考え直す。
全部が自分の意志。意志に基づき屈辱的な目に遭う。
これはまさに、失敗談と言っていい。
やかんなめ、もともと題材そのものは面白いはず。
なのに面白くしようとがんばればがんばるだけ、結局いい噺で終わってしまいそうな気がする。
中間の可内を強調し過ぎても、焦点がブレるだけでそれほど効果はない。
さすが兼好師、いい噺で終わらせてしまう演者とは異なるものが見えている。
子供たちに手を振ってハケる兼好師。
熱気ムンムン亀戸梅屋敷、大満足の高座でありました。