黒門亭27 その3(柳亭小燕枝「落語の神様」)

仲入り休憩後は柳亭小燕枝師。
最後に聴いたのは、まだ市弥だった5年前のスタジオフォー。
長い持ち時間を埋めるマクラの漫談がまるでつまらなかった。それ以来。
このスタジオフォー巣ごもり寄席では、入船亭小辰さんの不快な発言に「ヒルハラ」という用語を思いつき、さらにトリの三遊亭遊七さんの「三方一両損」には女流落語のあり方についてずいぶん考えさせられた。
期待して行ったわりには悪い要素盛りだくさんの日であった。
しかし市弥は小燕枝を襲名し、小辰は大名跡の扇橋を襲名し、遊七はすっかり上手くなったのであった。
さすがにもう、小燕枝師を聴くのに抵抗などない。

ちなみにスタジオフォーの後、真打昇進間際に東大島亭で市弥さんを聴く予定はあった。だが濃厚接触者になったので休演だった。
さらに遡ること、NHK新人落語大賞では激賞したんですけども。

今回はなんとドキュメンタリー風の新作落語。はん治師が古典だったので、いいかと思ったんでしょう。
夏休みによくある、子供たちに落語を教え、実際に演じてみようというワークショップの噺。
この夏も新宿区から頼まれたそうで。
Xに入船亭扇里師がアップされていたネタ帳によると「落語の神様」だそうな。神様なんて出てきたっけ。
なぜ私が控えてないかというと、帰る際に番頭らしい入船亭扇蔵師が、廊下でまだネタボードを書いていたからだ。
文生師が噺になかなか入らなかったため。

さて、小燕枝師の新作落語。なんとも複雑な感想で。
たまに新作落語を書いてる素人がいる。趣味が少ないので、落語書いてもほぼ落語界ネタになってしまう素人が。
しかししょせん素人で、プロとの付き合いもないから世界観に限界がある。
プロが作った噺にも関わらず、そんな作品に映ったのだ。
まあ、落語書いてる素人ってのはオレのことだけど。

プロも落語界ものの新作は書く。白鳥、彦いち、百栄といったあたり。
あの人たちのは本当に面白い。

落語ワークショップに、なぜか子供でなく、落語好きな孫のために落語を覚えて聴かせたい婆さんがやってくる。
お婆さん自身は落語が好きなのかというと、全然。
すでに設定は面白い。
でも、なんだかずっと聴いて気恥ずかしくて。実際、序盤はウケてなかったと思う。
まあ、新作はあまり掛けてなくて、手の内に入ってないんだろうとしか言えない。

最初に小噺を教える噺家。
「パン屋さんはどこですか」
「まっすぐ行ってそこの角をマーガリン」

スベリウケってのはつくづく難しいものだと思う。
客が笑うべきなのかどうか、困っちゃう。
あと、自虐ネタも多かった。これも扱いが難しい。

面白かった部分はちゃんとある。
噺家が懐から手拭いと扇子を出して婆さんに、「これがなんだかわかりますか」
「カゼとマンダラですね」
「なんでそんなの知ってるんですか! 今どき僕らでも言わないですよ!」

寿限無を言い立てるシーンがあった。
小燕枝師の寿限無はこうでした。

寿限無 寿限無 五却のすりきれ
海砂利水魚の 水行末 雲行末 風来末
食う寝るところに住むところ ヤブラコウジのヤブコウジ
パイポパイポ パイポのシューリンガン
シューリンガンのグーリンダイ
グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの
長久命の 長助

「雲行末」と「ヤブコウジ」になるバージョン。
実際に聴くものとしては、最も多いバージョンかもしれない。
まあ、覚えて帰ってきたということを言いたいだけです。

寿限無の言い立てバリエーション

「五却のすりきれ」は婆さんによると「筒香のスリーラン」。
「打てるわけないでしょ!今2軍ですよ!今巨人に勝ってるらしいですけど」

ああ、この人ベイスターズファンだったなと。
そのくせ弟子に「すわ郎」って名付けたというので、ヤクルトファンの駒治師が怒りのネタにしてた。

そばの食い方の秘訣をレクチャーし、客に参加させるあたりも面白い。
ほっぺたを内側にすぼめるのがコツ。
なんだ、振り返ると結構楽しんだんじゃないか。楽しまないと、ブログ1日のネタにはならない。
でも全体的な新作落語のデキとしては、やっぱりなんだかなという。
繰り返し掛ければ洗練されていきそうだけど。

最後に、ワークショップでの実話を兄弟子に話していたら、面白いじゃないか、それ高座でやればと言われたので、こうして掛けましたとのこと。
サゲが要らないのは便利。

古典メインなのに、自作の新作「うつけもの」でしっかりウケてる三遊亭円楽(王楽)師は改めてすごいですね。

続きます。

 
 

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