ラジオ深夜便で林家咲太朗・三遊亭歌彦を聴く

「メディアの落語」というカテゴリを用意しているのだが、最近テレビ・ラジオで落語を聴く機会が一気に減った。
上方落語をラジオでずっと楽しんでいたのだが、ちょっと飽きちゃって。
上方落語に飽きたわけではないが、ラジオで聴くのは近頃義務的になってきていた。
radikoプレミアムも先月でいったんやめちゃった。土曜日の吉弥師のラジオも聴けない。
半年ぐらいやめて、上方落語をきく会の頃に復活しようと思っている。

ラジオは、もはやらじるらじるで聴くNHKだけ。
これも全部聴いてるわけではない。先日はたまたま喬太郎師の品川心中を聴けたけども。

土曜日の落語会、1日しか記事にしなかったので、今日はネタ切れ。
なのでらじるらじるを聴いてみた。
お盆のためか真打ち競演はなかったけども、ラジオ深夜便に落語があった。
この番組の落語は、無観客。笑い声は皆無だが、割と好き。

今回は落語協会の二ツ目二人。林家咲太朗と、三遊亭歌彦。
二人ともよかったです。
この番組に出て、なんじゃこりゃという人も正直いますよ。

咲太朗さんは、前座時代にも遭遇したことがなく、まったく初めて聴く。
口調は明るく、声は父・たい平に似ている。ウケ狙いは一切なく、古典落語をしっかり語ってラジオの客を楽しませてくれる。

「さく平」から咲太朗に変わった理由は、昇太師のせいにしていた。
さく平は言いにくいんだって。似てないモノマネで。
たい平師が「大谷翔平だ」と言うので林家翔平になるのかと思ったら、最近活躍している人は本名だと言うことだった。

披露した「つる」は橘家圓太郎師に教わったそうで。
「八っつぁん、あたしゃお前さんのことが大好きだよ」
「一緒になりますか」
「そこまでは好きじゃない」
というやり取りが入っていて、ニヤリ。

八っつぁんは、仕事がハンチクになった。
理由を珍しくも語る。雨が降ってきたので気の早い親方が打ち切ったんだそうだ。でも、雨やんじゃった。
隠居の噂をする若者たちも、「こないだ海老床で」と妙に詳しい。
こうしたものを入れる効果はさほどのものではないが、でも話を立体的にしてくれるという判断だろう。
少なくとも、入れて邪魔になったりはしない。

若手にも、古典落語のツヨさを信用できず、弱いギャグを入れてなんとかしようという勘違い野郎がたまにいる。
そんなのを念頭に置くと、咲太朗さんの描く世界は素晴らしい。
八っつぁんと隠居はまったく対立するところがない。隠居は決して怒らないが、だからと言って八っつぁんが調子に乗って隠居をいじりまくるなんてのもない。
非常にほどのいい人間関係。

隠居がウソ話を始めるくだりも、妙にリアル。
鶴はつがいで浮気しないという話を、八っつぁんが「隠居の話はつまらないね」と言う。
なら、とサービスでアドリブ話をしてやるのだ。
隠居、八っつぁんの失礼な物言いには腹を立てず、半笑いで話している。

いったんつるのいわれをしくじって、戻ってきた八っつぁんに対する隠居の態度は、世界一優しい。
どこかでしくじって来たことを早速見抜き、詳細を訊かずに再度教えてやる。

八っつぁんが訪ねていく相手のアニイも、また平和。
最初に「なんだバカ」と口悪く迎えているが、仕事忙しいのに非常に優しい。
元の形の上方落語のように、話を聞く暇なんかないと突き放すのではない。本当に忙しいから、今度一杯やりながらゆっくり聞いてやると返している。

つるの話だよ、という八っつぁんにアニイ、「都留高校か」。
なんだよそれ。小遊三師匠の母校だよ。

咲太朗さん、思っていたよりずっと上手い。
聴いたことなかったくせに何を思っていたか。たい平師が、「笑いを狙う芸風じゃない」と語っていたことに基づく。
二ツ目成立てで笑いを放棄しているようなコメントを目にすると、大したことないのかななんて思っちゃうじゃないか。

もう一人は、すでに腕を知っている歌彦さん。
演目は「のめる」。

若手はこの噺、それが悪いと言うのではないけど、みんな派手に演じる。
明るい噺なのに、根が地味だよね。そうすると、クスグリを強化しようと頑張る。
歌彦さんは、ラジオだからわからないがアクションは派手なのだろう。でも、クスグリは全然強調しない。
というか、声が良くてアクションがいいから、それ以上ハデハデしいやり方が要らないのだろう。

マクラは渋谷のナンパ術。「お嬢さん落としましたよ」と声をかけるやつ。
古今亭佑輔さんと、もと弟弟子の金原亭駒平さんがこれ入れてた。
共通財産みたいだな。

本編もまた、咲太朗さんの繰り返しになるが人間関係が非常にいい。
強情で口の悪い留さんと、おっちょこちょいでTPOをわきまえない八っつぁんが、それぞれ本気で相手の口癖を心配している。
八っつぁんが相談に行く隠居との関係も同様。

よく考えたら、二席「八っつぁんと隠居」でツいてますね。いいけど。

歌彦さんは、大阪でさん喬師匠を聴いて噺家を志したそうで。
さん喬師が小きちさんを採るまでに何人か断ったうちの一人なのかもしれない。
断った志願者たちには稽古においでとは伝えたそうだが。

ラジオも、聴いてみるといいことがあります。

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