ネタ出しの一席、演題は「妃殿下とDMV」という。
妃殿下とは?
紀子さまのことではなく、来日中の某国妃殿下。
なんと「非電化」に掛けているのだった。全然気づかなかった。
これぐらいはネタバレしてもいいだろう。
徳島に同行しない殿下は、電化なので電車のほうが好きらしい。
妃殿下は日本に留学経験もあり、阪堺電車を利用していた。
日本の鉄道がすっかり好きになり、この日はどうしても阿佐海岸鉄道を走るDMVに乗ってみたく、アテンドを頼んだ。
アテンドするのが、浜田くんの嫁はん、みちこさん。
みちこさんは色々とすごい人なので、こんな縁もあるのだった。
みちこさんから電話をもらった甚兵衛さんのいたずら心により、無事ふたりは徳島駅から遠く離れた阿波海南駅で遭遇する。
鉄道うんちくも多数折り込み、旅気分が味わえる楽しい噺である。
甚兵衛さんの口から、ちゃんと予約してから乗ったほうがエエというおすすめも語られて、実用的。
非テツだって、線路と陸路を両方走る乗り物と聞いたら、乗ってみたくなるだろう。劇中で紹介される、水中に入っていくバスと同じく。
実にうまい攻め方。
仲入り休憩を挟んで今度は山形編。
しん吉師前フリをする。この噺では、浜田くん失業しております。先に言うときますので驚かんように。
浜田くんはしょっちゅう家出するみちこさんを追いかけて全国に出向くので、仕事に支障をきたしついにクビになる。
失業保険をもらいたいのに、みちこさんが操作して、自分の口座に入金されるようにしている。
山形に出向いたみちこさん、そこで山形の大学に通ういとこの青年に遭遇する。
奈良に帰省する青年の部屋をちゃっかり借りて山形に腰を据えるみちこさん。
みちこさんはレジ打ちでもなんでもできるので、青年の代わりに働くなどなんでもないことなのだった。
この噺が最も鉄分高めかも。
山形の鉄道は、新庄から先の奥羽本線、陸羽東線陸羽西線、米坂線など県外に出ていく鉄道がのきなみ被災または国道トンネル工事のおかげで不通になっている。
ついには、福島と結ぶ山形新幹線E8系まで急にストップする事故が多発し、福島乗り換えを余儀なくされている。
山形新幹線のホームは下り線なので、上り東北新幹線のホームとは階段で移動しなければならない。
なので平均8分遅れが常態化している。なぜか大宮に着く頃には取り返しとるんやけどなとなんでも知ってる甚兵衛さんが解説してくれる。
いとこの青年は、みちこさんに替わって浜田くんのうちに滞在中。田舎に帰る前に大阪で遊びたいのだ。
ストーリーはなんでもないが、山形県の鉄道と極上さくらんぼに思いを馳せる楽しい一席。
まあ、浜田くんも無事再就職できたようだしよかったのでは。
演題はさくらんぼのことである「赤い宝石」。わりとしょーもないサゲが付いていた。
ちなみにいとこの青年、終盤まで女の子だと思いこんでました。
なのでみちこさんが大阪の家に泊まれと言うの、ちょっと変だなと。
ラスト一席は、東京編。
東京の鉄道など無数にあるのに、よりによって浜松町の小便小僧をフィーチャーした噺。
これも上手いなと。
しん吉師にとっては、東京の落語好きも非常に大事なお客さん。
その太い客の前で、誰にでも伝わるネタを繰り広げても仕方あるまい。
小便小僧はかすかに知ってはいても、常に意識するアイテムなんかではない。
私もあの区間通るとき、ごく稀にしか思い出さない。そして、実際に姿を確認することはほぼない。
高校時代の同窓会が、先生の居所である東京で開かれることになった。東京にいる卒業生も多いことだし。
浜田くんは、幹事である憧れのマドンナと会えると思うと嬉しくて仕方ない。
あの頃も美人だったが、きっと今でもそうだろう。
会場は東京タワーの近所ということだが、まるで馴染みがない。そうしたらなんと、マドンナg待ち合わせしましょうと言ってくれる。天にも昇る心地。
そして甚兵衛さんに相談に行くのだった。
東京タワーの最寄り駅は都営大江戸線の赤羽橋か。おまはんわからんやろな。
ええ、皆目見当つきません。
そしたら待ち合わせにええとこがあるで。新幹線を東京駅まで乗り通してな、山手線で戻るんや。品川駅からも行けるけどな、外回りのホームに着くさかいちょうどええ。
甚兵衛さんが紹介したのが、浜松町名物の小便小僧。
ここも当然、小便小僧のうんちくがたっぷり。今では同好会が月替わりで着せ替えをしているということまで。
待ち合わせは大成功。マドンナは今でも美人だった。
帰りの新幹線で隣同士座って話ができて、それはそれは大興奮で甚兵衛さんに報告に来た浜田くん。
しかし、さすが古典落語の上手いしん吉師、この噺に三枚起請を持ち込む。
すなわち、みちこさん登場。
小便小僧を回収した見事なサゲがついている。
楽しい4席でした。
大満足のため、夜に掛け持ちしたいとは思わない。
しん吉師、まだまだ活躍の余地は大きい。
芸術協会には鉄道落語ないから、末広亭の上方交互に呼ばれるわけでもないし。
しかし、きっちり東京に根を下ろしていることはわかりました。
そして、駒治師の鉄道落語とはかなり異なる路線を攻めている。
しん吉師の会にも、鉄道落語の会にもまた来ます。