新宿末広亭7 その1(柳亭小痴楽「写真の仇討」)

横浜・馬車道でもって県民共済シネマホール寄席というものが昼間にある。
ここで昼間に桂吉弥師を聴くつもりでいた。
だが急遽夜が空いたので真打披露に切り替える。
今日は入船亭扇白(遊京改メ)師。
急遽のため、前売りは買ってない。
早めに鈴本に行ったのだが、前売りないと立ち見だって。
横浜行くんだった。

なので新宿(芸術協会)に転戦。
寄席というところ、どこかが救済してくれてありがたい。
特別企画ではないごく普通の寄席だが、主任が小助六師とはいいじゃないか。
芸協さんは、若手のトリは夜ばっかりなので。
小助六師も、夜までいられれば聴くのにと思ったことは多い。

番組トップバッターは主任の弟弟子、来春真打の音助さんだが間に合わぬ。
とりあえず転戦先未定のまま御徒町から内回りに乗って、東京かわら版をチェックしながら向かったので遠回りになった。
末広亭はかわら版割引で300円引き。
ねづっちが漫談を終え、なぞかけのお題をもらうところだった。
スタッフに声をかけられる。
桟敷ならすぐ案内するし、椅子なら後ろで待ってくれと。
待つことにする。桟敷もいいが、ここの椅子は最高級。
開演中の「通路側の客どけて割り込む」問題というものがあるが、スタッフがちゃんと案内していれば起こらない。
浅草や池袋はやらないからな。
もっとも新宿にも弱点はあって、スマホは鳴る。
トリの一席でもバイブ音がヴイーンと鳴ってた。

ねづっち
写真の仇討 小痴楽
読書の時間 べ瓶
ポロン
茄子娘 朝橘
こり相撲 助六
陽・昇
星野屋 可龍
(仲入り)
短命 昇也
小すみ
石松代参 奈々福
電話の向こう 枝太郎
ボンボンブラザース
へっつい幽霊 小助六

 

ねづっちへのお題は、「味噌煮込みうどん」「田久保市長」「前橋市長」。
田久保市長については、「私東洋大法学部卒業ですよ。なので毎日複雑な気持ちです。実家に帰るとちゃんと卒業証書あります」とのことでした。
「卒ない」というのが答えだが、掛けてるほうはなんだっけ。社会人としてのマナーだったか。皮肉がきいてますな。
味噌煮込みうどんは「なごやか」。
話題の前橋市長は忘れた。

早くも小痴楽師登場。
本来クイツキだが、夜の仕事があるので昇也師と入れ替わってる。
この新宿末広亭は素晴らしいところで。
木造建築なんですよ。そして今や珍しい桟敷があります。
桟敷も水平じゃないんですね。畳がななめに敷いてありまして。
ななめに敷くとお客さまが前のめりになるからかなと思うと違うんですね。なんでも、傾いてると寝にくいからだそうで。

そして例によって、この小助六師の芝居が面白かったらまた来てくれ、面白くなくても来てくれ。
猛スピードでどこに連れてかれるやらスリリング。

寄席はだいたいいかがわしい場所にあります。
池袋演芸場なんか、北口すぐです。
池袋は東口はまともなんですが、北口西口はだいたいいかがわしいですから。

ご婦人のお噂から本編へ。
隠居を、たぶん八っつぁんが訪ねてくる。今日は婆さんいねえんですか。隠居の前だけどあの婆さんは嫌な婆さんだね。
人のかみさんになに言うんだ。
あの婆さんは生まれた時から婆さんだね。
ちゃんと若い頃があったんだよ。

婆さんをしばらくいじるが、別に本当に含みがあるわけではない。
八っつぁんは、隠居夫婦の仲の良さを確認し、自分を裏切った女への思いをどうするかについて相談に来たのだ。

珍しい、写真の仇討である。
小痴楽師のものは、演芸図鑑だったかテレビで一度聴いた。
小痴楽師には珍品派という印象はまるでないが、寄席の軽い出番で出せるこうした噺を持ってるから侮れない。
他には「両泥」とか。

衛星劇場でも出したそうで、その紹介によると「いとま乞いに信次郎の様子がおかしいので、伯父が問いただすと、夫婦約束した新橋の芸者に情夫がいたという」とある。
私が聴く限り、「おじさん」という言葉は確かに入っていたが、どう見ても八っつぁんと隠居というスタンダード古典の設定に思えたのだけど。
「八っつぁん」という名前はつけないまでも、徐々に変えてるんじゃないかと思う。

隠居が問う。何かおかしいなと思ったが女だな。白か黒か。
ブチです。
素人か玄人か訊いてるんだ。
そんなら吉原の女ですよ。
なら黒だな。
真っ黒です。

隠居は古事を語って聞かせる。
晋の国の智伯は趙襄子に滅ぼされた。
智伯の家来予譲が主人の仇を打とうとするが失敗。しかし命は助けられる。
またチャンスが訪れたが、趙襄子は服を脱ぎ、この着物をわしと思って恨みを晴らせ。
予譲が着物を突くと、恨みのあまり着物から血が流れたという。

お前さんも花魁からもらったものがあるんじゃないか。
もらったものはありますが、病院行って治しました。
もっといいのはないのか。
この写真があります。

ここまで聴いてようやく演題を思い出した。

それにしても驚いた。
男二人の会話で進められる話から色気が噴き出している!
女はほぼ描写されないのに。
雲助師や扇辰師なら、色気のある噺をたっぷり聴かせてくれる。
しかし、若い小痴楽師の語る、男だけの噺からものすごい色気が噴き出している。

すごいものを聴いた気がする。
色気とは? なんでしょうな。
よくわからないが、確かに感じたのだ。

続きます。

 
 

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