新宿末広亭7 その3(春風亭昇也「短命」)

雷門助六師を聴いたので、三遊亭茶楽師も聴きたいなと思うがこの日はお休み。
代演は三笑亭可龍師。
ご婦人のお噂から星野屋へ。

芸術協会の実力派可龍師、この日はなんだか一皮剥けて見えた。
登場人物をまったく深掘りせず、どんどん場面を変えていくのが実に気持ちいい。
星野屋は場面展開が多い噺。

  1. 主人と妾のお花。商売が傾いたので手切れ金だ…そんな旦那…なら死んでくれるか
  2. 主人がとっとと飛び込むが、お花は躊躇
  3. 重吉がお花のもとにやってきて、主人の幽霊が出るんだ…実はこれこれ…なら供養のために坊主になったらどうだ
  4. 髪の毛切ってきたよ…おお騙されたな。全部狂言だよ。飛び込んどけば正妻になれたのにな…なに、カツラだよ…何だとこのアマ。手切れ金は贋金だ、返しやがれ…返すよ…バカめ天下の通用金だよ…おっかさん、こんなこと言ってるよ…なに3両抜いといた。

世界一短い星野屋のストーリー紹介でした。
この、一見わかりやすそうなのに情報量が多くてトリッキーな噺を、可龍師、しっかり各シーンごとに描写する。
そして決して突出して、噺を壊したりはしない。
入れ事なく、情景と人物をしっかり語る。
ストーリーそのものではなく、ちょっとズルい男女の企みをしっかりと描く。
このほうが結局伝わるんじゃないか。

明日出すつもりだが、トリの小助六師の一席とも共通項があるなと思った。
調べたら可龍師、来年が芸歴30年だ。何かイベントあるのかな。

仲入り休憩の後のクイツキは、小痴楽師と入れ替わりで春風亭昇也師。
私は、昇太会長勇退後の芸術協会が小痴楽会長になった暁には、昇也師に副会長をやってもらおうと勝手に決めている。
将来笑点に入ったとして、たい平師が長らくやっていた裏回しのポジションもハマるだろうと。
だから噺家として大好きなのかというと、実はそこまででもなくて。
だが、今回の短命は実に良かった。
副会長も裏回しも、小器用なイメージから出てくるもの。しかしもう少しスケールでかい落語を演じていった。

軽いマクラをオムニバス的にしばらく語る。
面白いおばちゃんがいて、昇也師の前で芸をするという。屁でドレミのこきわけ。ドが出ないでミが出た。
これだけ嫌い。三平師がやってるネタなんで。
この嫌いなネタ以外は忘れてしまった。学校寄席とかだったか。
あくまで個人的にはだが、あんまりいい入り方じゃないなと。

だが本編は素晴らしい。
どこにも原型がない短命だ。
この人、芸術協会において遊雀師のような、新たな型を作り出す奇跡の領域に進みかけているらしい。

隠居にイヤミならぬ悔やみを教わりに来て、その用事は最速で済んだ。なんかゴニョゴニョ言ってりゃいいんだと。
ところで、小痴楽師の「写真の仇討」とはツかないのかな?
まあ、間に落語4席入ってるから、これぐらいなら気にしない人も多いだろう(客も、演者も)。
八っつぁん(とは言ってない)は、旦那が3人死んだんすよと速攻畳み掛ける。
通常の、「また死んだんすよ」とはまるで世界観が違う。
いい男も頑丈な男も、とっとと死んで早くも3人め。さあ、という噺なのだ。

そして短命、どの演者のものを聴いても、勘の鈍い八っつぁんにリアリティがない。
あんた、「指先から毒が」とか、わざと頑張って外してるんじゃないのと。
この点昇也師は、最初からボケる八っつぁんにしたらしい。
ボケといっても、本当にわざわざ隠居の前で間違えてツッコまれるというのではなくて、真剣には間違えているようす。
だが間違え方が、わざと間違える人のそれ。役割ボケなのだ。
作為があるのに作為を感じさせない、ハイパーボケの八っつぁん。
茶碗をよそおって油断したところをすぐ刃物で攻撃を仕掛けるとか、ボケの作法が斬新。
そして「ふるいつきたくなるいい女」をキーに、お前さんだったらどうすると水を向け、ようやく真実に辿り着く。

うちに帰るとかみさんもすごい。
かみさんの、しゃもじ使わずおまんまよそう絵を先に見せておいて、そこで笑わせる。
ツッコむ前に、客はわかっている。ありそうでない形。

坂本頼光先生も不在で、桂小すみ姐さん。
玉川スミ師匠の種づくし、さわぎ、あとなんだっけ。
そして尺八を持ち出し、5つしか穴の空いてないこの楽器でいかにして西洋音階を吹くかを実演。
シャンソン「ラ・ヴィ・アン・ローズ」の実演。
実に楽しい。

釈台が出てきて、玉川奈々福師匠。
人気のこの人、私は初めて。
曲師沢村まみ。
まみさんはじっと私の方見てますが、彼女は今から私が何やるか知らないんですよ。
すべてアドリブで入れていきます。

それから初心者に向けてのお約束。
私が頭を下げたら「たっぷり」をお願いします。練習しましょう、バラバラですね。

広沢虎造ですと断って、石松代参。

…なんだか、声が出てないなと思ったのは私だけでしょうか。
座り高座だからなのか。寄席だから仕方ないことだしな。

続きます。

 

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