ヒザの三笑亭夢丸師も代演で、桂枝太郎師。
髪の毛をさらに短くし、体もますます大きくなって六平直政かと思った。
ぼやきながら本編に入り、振り込め詐欺の噺。これは聴いたことがない。
演題は「振り込む詐欺」というのではないかと想像したが違った。「電話の向こう」。
確かに振り込む詐欺では、単に間違えたのかと思われてしまうだけかも。
とにかくギャグをぶっ込んでいくこの師匠ならではのやり方。
必ずしもウケる必要はない、しょーもないネタばかり。
スベった感が湧いて高座の差し障りになりそうな時は、立場が上のものから「笑えよ」と一言入れておけばいい。
振り込め詐欺実行犯の立場から描いた人情噺。かと思ったら違ったけど。
息子のふりをして電話で老女に近づくが、しかし本当の息子はとうに亡くなっている。
息子が大きくなっていたらこれぐらいのトシだったろうと老女。
絶対にありえない(成り立たない)設定なのだが、それを気にさせない上手い作り。
ボンボンブラザーズ先生は今日も矍鑠。
助六師匠よりさらに年上である。
この日は帽子投げをメインに。桟敷の方に投げさせるがなかなか難しく、最後は手で受けて頭に乗せる。
トリは雷門小助六師。
最近よく聴かせていただいているが、初めて聴いたのはまだ3年前の国立の披露目(柳雀)。
それ以来脇でばっかり聴いて、ようやく寄席四場で遭遇である。
実力派で主任の芝居もたくさんあるので、こちらの都合に合わないだけ。
なので鈴本に入れなかったこの日とはいえ、嬉しい。
小学生の時に初めて連れてこられた寄席の思い出を語る。
そしてその後は自分で来ていた。
当時の色物の師匠たち、みなさんいなくなった。
ただ、ボンボンブラザース先生だけは出ている。
噺家になったばかりの頃、ボンボンブラザースにヒザを務めてもらうことはさすがにないだろうなと思っていたが、「まだ出てますね」。
筋金入りの寄席通い。
なかよしおじさんズでも瀧川鯉橋師が語っていた。小助六さんは噺を知らないということがないので、立前座としてネタ帳を付けるときは重宝したと。
ちなみに10月5日に梶原いろは亭でなかよしおじさんズがあるが、これには行けない。
本編はへっつい幽霊。季節的には涼しくなった9月はぴったり。
いい一席であり、ハネた後に電車に揺られながら「雷門小助六 へっつい幽霊」で検索したところ当ブログが出た。
驚いた。2年前に雑司ヶ谷で聴いて激賞してる。
今回聴いてる最中、2年前の一席のことをすっかり忘れていたのだ。こんなこと、普通にはない。
2年前のへっつい幽霊、消化に悪いところが一切なく、完全に吸収し栄養にしてしまったらしい。
しかし当時インパクトに欠けたわけでもなんでもなかった。なにせ小助六師を聴いて、権太楼師のものを否定してしまったぐらいなので。
前回も今回も、引っかかるところの多いへっつい幽霊でストレートに楽しませてもらったということ。
へっつい幽霊(若旦那の出てくる長いバージョン)はいろいろ突っかかるのだ。
- 主人公がいきなり入れ替わる
- へっついの現在地が、若旦那宅→熊さん宅と移動してわかりにくい
- 若旦那が吉原で150両ひと晩で使い果たすエピソードの意味がよくわからない
それを解消するためだろう。へっついが最初から熊さん家に行くバージョンもあり、さらに若旦那のいないバージョンも私の知る限り二つある。
かえってちゃんとしたものを聴くとき、混乱したりなんかして。
この、深い考えなくして複雑化してしまったらしい噺を、実にわかりやすく小助六師は演じる。
消化にいい。
道具屋のくだりは、主人を強調しないようにする。
そして何人かに売ってことごとくへっついが返ってきた後でようやく、正体を知る。
その途端売れなくなる。
長屋のはばかりの熊さんが、1両つけて誰かに引き取ってもらおうという話を耳にし、ここでスムーズに主役交代。
なお熊さんも、性格等は一切描写されない。終盤に向けてだんだん地が出ていくけども。
幽霊の卵が出てきて300両。
150両ずつ使ってそれぞれ吉原と博打場へ。
打つと買うの究極の遊び。いいですな。
このくだりは楽しいはずだけども、一方で噺のわかりやすさに傷をつけていく。
なのでやはりサラッと描く小助六師。若旦那の生家から改めて300両ぶん取ってくるのもサラッと。
わかりやすくいえば引き算の美学。
ただ引き算しっぱなしでは客に響かない。常に全体をコントロールする見事なコンダクター振り。
こんな感じで、ずっと目の前の楽しい遊びを目撃しながら終盤に連れて行かれるのである。
ちなみに、幽霊が生前丁の目にしか張らなかったことも、直前にサラッと。
こういうところ、むしろ強調しそうなものだが助六師は発想が違う。
へっつい幽霊は、わかりやすくするたびに説明が障る噺。なら、各シーンの情景を描くことに特化し、それを妨げる要素を減らすほうがいい。
小助六師は優男なので、本来熊さんは描きづらいが、なんの問題もなし。
無理に怖いキャラなど作らず、ビビってる幽霊との対比で描かれる。
さすがに二度聴いたので、もう忘れてしまうことはない。
いや、雑味は忘れてしまうと思う。
三度目を聴いても、また楽しめそうだ。