「ファンタジイ」ってちょっと古めかしい表記だが、好きなんで。
ファンタジーと書くのが普通ですが。
ファンタジイ・アニメの話である。
「葬送のフリーレン」は原作マンガも多少読んだが、アニメのほうがよくできてるのではないかと思う。
プロットを無理な戦闘の盛り上がりにせず、日常の光景もしっかり描く。
だからこそいい作品だなと思っていたが、途中で一旦挫折してしまった。
1級魔法使い試験のため、多くの魔法使いが集まって対戦するくだりで。
ああ、この大会シーンはジャンプっぽいなと思って。サンデーなんだけど。
営業的なもくろみの無理くりなバトルシーン、仕方ないことと思うのだが。
ただこのたび、別のサブスクでもって挫折した部分から、改めてアニメ1期すべて観返したら、やはり面白かった。
大会のシーンも、キャラを増やした分、結果物語の厚みを増した。
さらに冒頭に戻り、繰り返し楽しんでいるところ。
少年誌の連載だが、女性のファンが多いらしい。わかる気がする。
何せ主人公フリーレン(女性)は千年の齢を重ねるエルフの大魔法使いなのに、日常生活はまるでだらしない。
朝は起きてこないし、趣味(魔法集め)に没頭しすぎだし。
いつも人間の弟子の世話になりっぱなし。
世界観が気に入るかどうか以前に、女性はまず、ここに惹かれると思う。
主要テーマにおいては、フリーレンが魔術を常にコントロールし、魔物の前で自らの魔力を常に低く見せている設定に。
能ある鷹は爪隠す。これまた、女性が好きそうな仕掛け。
対する魔族は、自分がいかに魔法が強いか常にアピールせずにはおれないんだそうだ。オラオラ系男子なんだね。
ユニークなキャラだが、声優は常に落ち着いたトーンでフリーレンを演じる。
私が日頃から主張している、落語の評価すべき棒読みに近い要素も感じている。
物語の時代よりもずっと前に、彼女たちパーティは魔王を倒す冒険の旅に出た。10年もの長きに渡り。
魔王討伐という、多くのファンタジイがテーマに据えてきたものを、すでに終わった過去のものとし、そこから新たな物語が始まる。この仕掛けも斬新。
ともかく10年の旅は、人間の戦士、僧侶、そして比較的長生きのドワーフにとってすら、人生を左右する大きな影響をもたらしている。当たり前のこと。
しかしフリーレンだけ感覚が違う。何しろ長年に渡って生きているので、大冒険もエルフ生におけるほんの一瞬のことに過ぎないのだ。
しかし心の恋人であるような(直接的に語られることはないのだけど)戦士の死をきっかけに、彼女はさして興味のなかった人間のことをもっと知ろうとし始める。
戦士の死は事故でも悲劇でもなんでもない。人間だから老衰であり、しかも英雄葬。
パーティの他の2人もみな老いていくが、フリーレンだけはそのまま。
さて、当ブログで扱っている素材とまるで異なるフィールドのアニメから、落語の演目「長短」が見えてきたという話。
人間は気が短い。エルフはどっちかっていうと気が長い。
その割に冒険パーティの頃から喧嘩ひとつしたことがない。
これでいて、案外気が合うのかな。
こんな感じ。
エルフのフリーレンにとっては、時間の観念が違う。
時間とは、実質無限にあるものなのだ。だから旅の途中、ひとっところに何年滞在しようが平気。
寿命を常に意識せざるを得ない人間の弟子を、時間の使い方で困惑させるエルフの長さん。
時間の流れが違うフリーレンも、自分の人生の一瞬の邂逅に過ぎない人間たちを理解しようと試みる。
だからこそ、横たわるギャップが印象的なのだ。
少女の姿のままのフリーレンは、長年生きたからといって、膨大な知恵を蓄えた賢人というわけでもない。
この点も、短い人生を精一杯生きていく人間と異なる。
フリーレンはむしろ、複数の時代を同時に生きているというべきなのだ。
自分が修行していた時代の、人間の師が生きていた頃、そしてつい最近に過ぎない魔王討伐の大冒険、物語の現代。
すべてが同時に進行している。
3つの時代は、必ずしも時系列が後の方が知恵において優れているようには見えない。
人類もエルフ個人も、そんなに急に進化するわけでもないことが暗示されている。
さてこんな設定から、「江戸時代から現代まで、300年以上の長きに渡って生き続ける噺家」という話を思いついた。
もしもエルフが落語家だったら。
このエルフ・フリーレンは、初代三笑亭可楽の弟子である。三笑亭江流婦。
そして、明治に入ると髷を落とし、三遊亭圓朝の活躍をそばで目にしていた。
戦時色が強くなり、はなし塚に禁演落語が埋められたのも見ている。
戦後は戦後で、GHQに噺の種類を制限される。
落語協会の分裂騒動も、小朝36人抜きも、人間国宝の誕生もつぶさに見てきた。
芸協新作が徐々に滅び、三遊亭円丈が新しい新作落語で客の度肝を抜くさまも。
ただし何しろ長生きしているので、悩みがある。
とにかくみんな先に死んでいくので、香典代が馬鹿にならないのだ。
これがほんとの、葬送のフリーレン。
飛んでくる石に対し防御魔法発動。