本当にたまに書いてる落語百科事典です。
いろはにほへとが終わって、ようやく「ち」。
地下鉄戦国絵巻
古今亭駒治の新作落語。元々あった名作「鉄道戦国絵巻」の舞台を、東急線から都営地下鉄に替えたもの。
登場人物はみな「路線」である。電車ではなく、路線。
都営三田線が高島平方面だけ切り捨てて、都営地下鉄を離脱し、東京メトロに加わった。
取り残された浅草線、新宿線、大江戸線が東京メトロに戦いを挑む。
相互直通する京急や京王が助けてくれる。
ちくわ
柳家小ゑん作「ぐつぐつ」の主人公はおでんのイカ巻きである。
だがネタ交換でこれを手がけた故・初代三遊亭円丈は、主人公をちくわに替えていた。
落語協会の前座三遊亭東村山は、円丈の「ぐつぐつ」を聴いて噺家を志したという。それまでは吉本の芸人であった。
千早ふる
百人一首の「ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」の意味を訊きに、隠居を訪ねてきた金さん。
かるた遊びをしている娘に意味を訊かれ、なんでも知ってる隠居なら教えてくれるだろうと。
実のところ意味など知らない隠居だが、アドリブ巧者。
竜田川に突破口を見出し、江戸時代の架空の相撲取り竜田川の一代記を作ってしまう。
落語の中では「ちはやふる」と濁らない。ただし「水くぐるとは」と、こっちが濁る。
最後は「とは」に納得いかない金さんが隠居を問い詰める。
以前は「とは、は千早の本名だった」だが、三遊亭円丈が「戒名」に替えてそれが主流になったとのこと。
ちなみに今はまずやらないし聴いたこともないが、「陽成院」という落語もある。
同じく隠居が、「つくばねの 峰より落つる みなの川 恋ぞ積もりて 淵となりぬる」をこじつけてしまう。
茶柱
立つと縁起がいいもの。
長屋の花見を前半で下げる場合(ほとんどはそう)、「長屋にいいことがありますぜ。酒柱が立ってまさあ」。
茶の湯
家督を息子に譲って隠居するのは、商家の正しい姿。
根岸に隠遁している隠居だが、趣味がない。なので以前の住人の残した茶室ででたらめ茶の湯を始める。
フルバージョンだとかなり長いが、三軒長屋の住人を招くくだりをカットしたりなどする。
お茶の作法以前に、どうやって茶を点てるかも知らない隠居。
青ぎなこにムクの皮を入れて泡立て、それっぽいものを作るが、飲めたもんじゃない。
風流だなあ。
チュウ
ねずみが捕まった。籠の中を見て言う。
「大きいね」
「小さいよ」
「いや、大きいよ」
中でねずみが「チュウ」。
忠臣蔵
忠臣蔵は講談の題材によく使われている。
「冬は義士 夏はお化けで飯を食い」
落語にも忠臣蔵のネタはたくさんある。
- 四段目(蔵丁稚)
- 七段目
- 中村仲蔵
- 淀五郎
- カマ手本忠臣蔵
最後のは柳家喬太郎の新作落語。「白日の約束」もそう。
喬太郎以外にも「忠臣ぐらっ」(立川志の輔)とか「元禄女太陽伝」(春風亭小朝)などパロディは無数に作られている。
落語に関係するのは仮名手本忠臣蔵の四段目、五段目、六段目、七段目である。
中卒
中学を卒業して師匠に入門し、噺家になることは可能。
だが戦後しばらく経って以降、中卒の噺家は、三遊亭歌武蔵、柳家花緑、桂枝之進ぐらいと思われる。
高校中退は、立川談春、瀧川鯉斗、柳亭小痴楽など。
中継
落語の生中継は、今はNHK新人落語大賞と毎年1月3日の初笑い東西寄席だけであろうか。
新人落語大賞はさすがになさそうだが、東西寄席の寄席中継でいつかスマホが鳴り響くのではないかと予想。
収録である日本の話芸や、笑点特大号ではまるでスマホ鳴らしは気にしていなかった。編集で取れるからだろう。
神田伯山は寄席からではなく渋谷のスタジオで悪態をつきまくり、翌年外された。
そんなことがありつつ今では演芸図鑑のホストを務めている。
中風
中風は昔の病気の表現。
半身不随や言語障害など、脳卒中の後遺症を言う。
ちゅうふうだが、上方落語に出てくると「ちゅうぶ」。
「おっさんなら3年前からちゅうぶで寝てるがな」みたいに使う。これは阿弥陀池。
蝶花楼
蝶花楼は現在、桃花だけが名乗る亭号。元春風亭ぴっかり。
大々師匠の八代目林家正蔵(彦六)が五代目蝶花楼馬楽だったので、その縁だそうで。
馬楽は、六代目が、先代金原亭馬生が亡くなった後の落語協会副会長。
その弟子七代目が2019年に逝去し、現在空位。七代目は、馬楽襲名の前は蝶花楼花蝶であった。
上から読んでも下から読んでもという、「三遊亭遊三」「三笑亭笑三」と同じ種類の名前と思われる。
桃花に弟子ができたら、花蝶はありそう。
長短
のんびりした長さんと気の短い短さんの話。
雷門に伝わるものは長さんが上方の人。
柳家風柳のやっているものは逆に、いらちの関西人とスローモーな江戸っ子の噺。
町内の若い衆
妊娠中の柳亭こみちが大きなお腹で高座に上がり、妊婦のおかみさんを演じたというのが伝説となっている。
「うちの人の働きじゃないよ。町内の若い衆がよってたかって(赤ん坊を)こしらえてくれたんだよ」
ちょいと
そのこみちの一番弟子。まだ見習いなので落語協会の香盤には名前がない。
男性である。
痴楽
柳亭小痴楽の父は五代目柳亭痴楽。
襲名は既成事実のようになっていて、ヨネスケ・小遊三が「生きてるうちにやってくれ」と頼んでいる。
ただ小痴楽も、おそらく名前に「痴」が入っているがためXアカウントを凍結されたりしている。
難儀な名前。
小痴楽本人は、「小さく痴◯を楽しむと書いて小痴楽です」と挨拶している。
ちりとてちん
夏場になると頻繁に掛かる、腐った豆腐を食わせる噺。
似た設定の噺に酢豆腐がある。
東京でも、圧倒的にちりとてちんが数多く掛かるのに、Wikipediaではいまだに「酢豆腐」で項が立てられている。
古典落語の多くは上方発祥だが、ちりとてちんは東京の酢豆腐が元になっている。
上方のちりとてちんが、多くの落語と同様改めて東京に持ってこられたもの。
人間国宝・先代小さんによると、隠居はヨイショの男より、愛想の悪いほう(名前は寅や六)が好きなんだそうだ。
次回、「り」をいずれ。