池袋演芸場36 その1(林家やま彦「疝気の虫」)

11月中席、林家彦いち師の芝居がある。
思いっきり新作の番組。落語協会の叡智を結集したような。
そして新二ツ目の披露目。
500円割引券(でかい)も出ているし、池袋の初日へ。
池袋は4月以来。
入替えはないので、ちょっとだけ夜に居続ける。
平日昼間なのに盛況。夜は夜で白酒師なので盛況。
居続ける人の多かったこと。
たいへん結構な番組でした。

子ほめ うどん
疝気の虫 やま彦
野村 枝平
八楽
出目金 志ん五
姫君羊羹 こみち
夢葉
インタビュー 百栄
背なで老いてる唐獅子牡丹 はん治
ニックス
山奥寿司 白鳥
(仲入り)
寝かしつけ きく麿
ほっとけない娘 小ゑん
橘之助
身投げ自演 彦いち
(以下夜席)
黄金の大黒 ぼんぼり
真田小僧 こはく
かぼちゃ屋 わか馬
にゃん子・金魚
鹿政談 龍玉
鰻屋 馬石

 

電車が遅れ前座には間に合わない。
初めて遭遇する林家うどんさんが子ほめをやっている。番頭さんに今だけ40になってくれのくだり。
堂々としている。自信に満ちた喋り。
驚いた。
二ツ目に昇進したばかりの兄弟子たたみに次いで、二番弟子も立派なもの。ちなみに体格も。
こんな感じのお笑い芸人っているなと思った。我が家杉山とか、ラジバンダリとかちょっと古めのしか思いつかないけど。
これはもう、三平師に師匠としてのメソッドがあるとしか考えられない。
そんなはずない!と思うのは自由だが、私は見た現実に忠実な人間である。

「初七日か」「お七夜っていうんだ」
のくだりで、初七日とお七夜をあべこべにしてしまう。客に悪ウケ。
しかし全然動じない。地のセリフでもって、「初七日とお七夜を逆にしてしまいまして」ときちんと(図々しく)説明する。
あまりにも堂々としていて、仕込んだのかと思ったぐらい。そんなことする人はいるまい。
後で百栄師が間違いを引用してた。

ジャワスマトラが入っていた。
面白いことに、通常描写されない赤ん坊の母親がいる。
しかし八っつぁんが「このお子さんはあなたのお子さんですか」と改まって尋ねると、母親はどこかに行ってしまう。
「どっちか絞め殺せ」はない。そんなに乱暴な八っつぁんではない。

うどんさんはこのあと高座返し。
二ツ目は林家やま彦さん。
私は妹弟子のきよ彦さんのファン。やま彦・きよ彦の交互は非常に多いのだが、行きたい日がやま彦だったらその席自体行くのやめたりしてきた。
別に、一生認めないなんて気持ちはない。出世してくれて全然構わない。
ただ、なんだか笑いのツボが変だよねと常日頃思っていて。
とはいえきよ彦さんもよく聴くので、最近噺が被りだしてきた。今日はやま彦さんでもいいかと思って。
来てよかった。
元々好きな人には平常通りに映ったのだろうが、私には一皮剥けて見えた。

二ツ目の披露目で、このあと桂枝平さんが出ますので盛大にお祝いしてください。
これはこの出番の義務である。
私の入門時も思い出します。
いろいろ落語聴いてて、彦いちに出会いこれだと思ったんですね。
鈴本に入門志願に行きました。
東日本大震災のあとで、この日はくまモンとのコラボというものをやっていました。
受付に、入門志願に来ましたと声を掛けたら、そのまま通りなさいと言ってもらえました。
楽屋を訪ねたら、いきなり彦いちがいました。
私緊張しちゃって言葉が出ません。彦いちが言いました。
「くまモンの中の人!」
違います。
弟子になりたいと言ったら、「出身どこ?」
大田区の池上です。「東京の顔じゃない!ご両親は?」
大田区で公務員をしてます。「公務員の出の顔じゃない!ご両親はどこにいるの?」
区役所の4階と7階です。「明日から見習いで来なさい」

まあ、師匠もこれだけ私に苦労させられるとは思わなかったでしょうが。

落語には擬人化というものがありますと振って、疝気の虫。
新作の芝居なのに古典落語か。
でも、この日顔付けされてる百栄師の得意ネタでもある。世界が新作っぽい。

いきなり出てくる登場人物は、医者とは明らかにされない。
疝気のことばかり考えていて、白昼夢を見たらしい。虫を捕まえて話をする。

チントトトンの、パッパ。
じゃなかった。
チントトトンのほうはちょっと違うがそんな感じではある。後半が、「ギュギュッとな」。
そんなの聴いたことないから、自分でアレンジしたものか。
疝気の虫が、おそばを食べると喉が渇くので、筋肉を絞って汁を飲むんだそうだ。

医者に責められ、弱点を自白する疝気の虫。
とうがらしが来たらどうするんだ。
「ひんはまに逃げます」
「はっきり言え」
「き◯◯まです」

後で志ん五師が、「チ◯◯コと叫んだらウケませんでした」と楽屋の話をバラしていたが、ワードが違いますな。

チントトトンとギュギュッとな、の所作を振り切ってやる。
振り切ってるくせに、「お前、トシはいくつだ。30にもなって恥ずかしくないのか」と自己ツッコミ入れてた。

医者も奥さんもなんだかトボけていて、切迫感がないのもいい。
いいじゃないか。
今まで聴いた高座の中で一番よかった。古典もいいんじゃないか。
別荘を探して見つからないあとに、オリジナルのサゲがついてた。
これは正直ないほうがと思ったけど。
でもよかった。

続きます。
書きたい内容盛りだくさんで、もしかして「その8」ぐらいまでいくかもしれません。

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