池袋演芸場36 その5(林家きく麿「寝かしつけ」)

そういえば白鳥師、平日昼に大勢押しかけた客を見て「平日昼にね。皆さん何してるんですかね」。
かように自分の疑問をバカっぽく述べるのはまるで気にならない。
これが「昼間に何してんだよおめえら」だと私の嫌いなヒルハラになる。
まあ、噺家もコロナの苦境を経験して以後、露骨なヒルハラはなくなったかもしれない。

この番組はひたすら新作が続く。
池袋は台本まつりもやっているし、そんな番組も以前からあった。
だがだいたい古典派を挟んでいたもんだ。菊之丞師とか。
見事に古典派のいない番組。
しかしながら、本来特殊なはずの番組が、実に寄席らしく映るから面白い。
居続けた夜席は古典ばっかりで対照的なのに、ギャップがない。
新作も古典も、寄席に放り込むと結局最後は同じ感覚になる。
だから新作固めても意味がないなんていうのではない。こういうのも楽しい。
それでも結局、寄席という魔宮はすべてを吸い込むのである。
落語会では味わえない楽しさ。

仲入り後のクイツキは林家きく麿師。
小さなあいびきを用意して着座。
トリのときは必ず最後に小林旭を歌うきく麿師。
末広亭のお席亭に知らない歌のリクエストを受けたので、カラオケボックスに通って練習する。主任の芝居7日目にやっと仕上がった。
最近、高座でもってお客さんの思い浮かんだ情景が一緒になる瞬間がわかるようになった。
リクエストの歌を歌ったら、お客さん全員の戸惑いが一つになった。

歌のタイトルは忘れた。
本編は寝かしつけ。調べたら7年前に暮れの富Qまつりで聴いていた。
もう一度聴きたかった名作だ。だが、今回聴いて思い出した内容(ないけど)も、みるみる忘れていく。
小さい子供が夜寝ないので、どう寝かせばいいか、村で一番頭の良かった同級生に尋ねる。
俺、子供いないから知らないよ。だいたいここ村じゃねえよ。
以下、2人だけの登場人物の漫才が続く。ふざけた会話は漫才と評するのがぴったり。
きく麿師の新作づくりの根底は、漫才だと思う。事実「漫才やりたい」なんて作品もあり。
子供いないからわかんないけど、子守唄でも唱えばいいんじゃないの。
しかし「ねんねんころりよ」の「おころりよ」ってなんだと変なところに突っかかる。
うちだけあの唄を「おころりよ」と覚えてしまうと困る。
そしていきなり始まるアドリブ唄対決。
桃太郎の読み聞かせがいいんじゃないか。しかしそのストーリーに、結構難があると。後半残虐だし。
なら前半膨らませて、後半の前に寝かせてしまえばいい。そして桃太郎と犬の出会いを厚く描く。
…あんなに楽しかったのに、細かい部分は急速に忘れてしまった。でも、それこそこの作品の魅力という気もして。
動画上がってるようだが、あえて観たくない気がする。

ヒザ前。柳家小ゑん師はややご無沙汰。1年半振りだ。
例によって池袋の客持ち上げマクラ。
寒くなってきたからぐつぐつでも出るかなと思ったが、本編はほっとけない娘だった。もう何回聴いたろう。

しかし、古典落語だと思えばまだまだ楽しく聴ける。さん喬師が天狗裁きを出すような感覚である。
主人公さゆりの部屋にあるマンガが、ちはやふるから昭和元禄落語心中に替わっていた。
寺出悟がインドの「ルンビニ」生まれという設定がなくなっていた。
トリで出す際は鎌倉古寺の言い立てが入るが、これと坊主バーのマクラを抜くとヒザ前でもできる。

橘之助師匠のヒザを挟んでトリの林家彦いち師。

今日は江戸の風は吹きません。そんな番組です。
寄席の出番の前にカフェによく行きます。同業者がいそうなところは行きません。
池袋でも、あそこのカフェはアサダ2世専用、とかあるわけです。
新宿でも、カフェを探していました。もうなくなっちゃったんですけどもシアターモリエールにカフェがありまして。
ここは同業者来ないので快適でした。
あるときここに行きましたらカウンターに案内されて。カウンターの隅に、ドレッドヘアの外国人女性がいました。
私気軽にハーイと呼びかけて着席しましたが、その女性からは無視されました。
店員さんは英語メニューを持ってきました。外国人だと思われたようで。
いまさら日本人ですとも言えないので、そのまま注文しまして。
男の店員が、コーヒーを淹れながらドレッド女性に話しかけました。
「もう田舎帰っちゃうの?」日本語です。
「そうなのよ、もう夢は諦めた」
ドレッドの日本人でした。そして、このお店の辞めるスタッフだったのです。
女性は言います。「あんたこそ、落語家になる夢はどうするの?」
落語家?

その男性がコーヒーを持ってきました。
そして、「あれ、彦いちさん?」

彦いち師のマクラでは、「神々の唄」の際に振ってる新幹線乗変ネタと同じくらいの斬れ味でした。
実際はもっと、師自身の細かい感情の動きを語っているのである。

本編は、初めて聴く「身投げ自演」。
ただし、新作の速記本で読んだことがある。
彦いち師の得意な落語業界もの。

続きます。
法事がありましてアップ遅れました。
広告が表示されないのでやる気がちょっと失せ気味なのもあります。

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