神田連雀亭ワンコイン寄席69(上・田辺いちか「三方目出鯛」)

住民でもないのに文京区デジタル商品券を買っているので、使いに行かないと。あと墨田区もあります。
というわけで、落語と買い物抱き合わせ。日曜の神田連雀亭ワンコインへ。
抱き合わせと言っても、興味がまるで湧かない顔付けだったら行かないが。

楽しそうなメンバー。
講談師はきゃたぴら寄席があるため、ワンコインで出会う確率は低めになる。でもこの日は真打の決まった田辺いちか先生。
講談師の場合、二ツ目でも先生と敬称をつけていいものと理解していたのだが、最近それでいいのか自信がなくなってきた。まあいい。
20人超えて大盛況。

ちなみに翌月曜もいい顔付けだったので、同じ理由で出かけたのだった。

受付は、個人的に久々の三遊亭仁馬さん。高座では楽しい人だが、受付ではさほど愛想はない。

三方目出鯛 いちか
王子の狐 しん華
ん廻し 仁馬

 

開演前寝てたらいつの間にか桂しん華さんの前説が始まってた。ふわふわと何やら喋っている。
すでに釈台が出ている。
まずはいちか先生。業界一表情筋の豊かな芸人。
しん華ねえさん面白いですねと。

ねえさん?
これは、桂しん華ではなく、三遊亭日るねに対する敬称である。
しん華さんは芸術協会に再入門した際、落語協会の二ツ目だった前歴はリセットされている。
芸術協会(当然、日本講談協会でも)の人は、けじめをつけて、芸術協会加入時を基準に先輩後輩を判断している。
でもいちかさんはまるで関係のない講談協会。だから先輩として遇したままみたい。
しん華さんのほうもあとで「いちかねえさん」って言ってた。

以前、お茶の水太陽での、花いちさんとしん華さんの会に呼んでいただきまして。
私、結構しんどかった時期でして。うちの一門は緩いほうですけどそれでもなお。
そんなときにふたりののんびりした会に呼んでいただいて、本当にくつろげました。
太陽さんは着替えるところがないので、階段の上を仕切って着替え場所を作ってくださってます。
私下にいたら、キャ〜ってすごい悲鳴が聞こえたんですね。
慌てて駆けつけたら、しん華ねえさんが階段の手すりに手を挟んで抜けなくなってました。すぐ助けました。

われわれ講談のほうは、わりと立派な人が登場しますと振って、本編へ。
神田小川町と言いますから、まさにこのあたり。
ここに住む穴山小左衛門という御家人が出てくる。石高は100石のしがない侍。
隣人の松下という侍と懇意にしていたが、松下は出世して松下陸奥守となり、越していった。
向こうが出世したからといってひがみはしないが、ただ引っ越し祝いに持っていく手土産を工面するのもたいへん。なのでなかなか足が向かない。
奥方にへそくりないか訊いてみるが、令和の額にして2,500円しかない。
いっそ松下さまにお借りしては?
今まで気持ちよく付き合ってきたのに金の貸し借りはなあ…しかし背に腹は代えられない。
中間(なまえは平助だったかな?)に日本橋魚河岸で鯛を買って、手土産にしてこの手紙を持っていけと。

穴山、になんだか聞き覚えがある。
これは落語でいう陸奥間違いだ!
陸奥間違いも極めてマイナーな噺だけども、兼好師が掛けているからかろうじて知っている。

穴山は軽い身分だが達筆。見事な手紙をしたためる。
田舎もんの平助は、言われた通り日本橋から中橋、京橋から新橋と歩き、そこの床屋に手紙を見せる。この方のところへ伺いたいだ。

だが目上の者を敬うための欠字が仇となり。
尊称として名前を一文字消し、「松 陸奥守」と書いた手紙により中間は仙台公・松平陸奥守の邸宅に案内されてしまう。
大名宛の借金の申込みが大騒動になるが、わずか10両の借金を快く貸してくれる仙台公。
穴山の見事な手紙がものを言った。
穴山宅にその後お使者がやってきてもう大変。慌てて間違いであると申し出に役宅まで伺うが、もはや取り返しがつかない。
でもみんなハッピーエンドになる。

欠字、についてケツでジですかとツッコミが入る。
しかし下ネタを振っても、まるで品が崩れないいちか先生。
女流の噺家、講談師でも、下ネタを振るギャップで笑いを狙うのはしばしば見かけるが、そんなのではない。

それにしても、本当に楽しい噺で心底驚いた。
そりゃ、ストーリーはもちろんよくできてるのだが、いちか先生が語るから楽しい。
魔法のような。
ストーリーは完全なる講談だが、語りの楽しさはむしろ落語に近い性質のものであることを発見。
楽しさの大部分はセリフの上げ下げと緩急にある。これが演者の力。

落語も講談もひっくるめた、話芸の神髄だ。

続きます。

コメントする

失礼のないコメントでメールアドレスが本物なら承認しています。