新作落語のサゲなんて忘れて全然構わない。実際、話を終わらせる機能しか持ってないことが多いし。
だが今回の花いち師の「チンチロ」。サゲを明確に覚えている。
でも別に、話を最後にひっくり返すような劇的なサゲというわけではないのだ。
いったい何が違うか。
最後、どんぶりに入ったサイコロの目が、サゲのセリフにより明かされないままで終わるのだ。なので客としてはその目が気になって仕方ない。
この構造のおかげで気になってサゲが頭に残っているらしい。
これってつまり。
「ここからが面白いところだがお時間が参りました」(講談)
「ちょうど時間となりました」(浪曲)
から来ているのでは。
ミステリのほうでは「リドル・ストーリー」というワザ。
続いて林家はな平師。
今年は細川肥後庭園の会に二度出かけて聴いた。穴場のオツな会です。
噺家というものは、基本、東京か大阪かです。
東京では江戸落語、大阪では上方落語。
東京の噺家だから東京出身かというと、そうでない人のほうが多いんです。
今日のメンバーでも、花いちアニさんは浜松ですし、私は福岡。さん花アニさんは千葉ですよ。
まあ、千葉ぐらいならそんなに訛りはないでしょうが、福岡ですとね。
東京の大学のオチケンで落語やってましたが、それでも楽屋入りすると訛りを指摘されましたね。
地域性じゃなくて、みんなで訛ってる言葉というのもあるそうで。
最近熊が出てますけど、あの「クマ」ね。
昔は「クマ」だったんですね。「ク」にアクセントを置いたそうです。
今は「クマ」ですね。
この「クマ」というのは、本来目の下に出るもののことなんだそうです。
今日は福岡出身の私が、江戸っ子に憧れてやる噺です。
まあ、大工調べだろうなと。
「クマ」のアクセントだが、個人的には「熊が出た」という際にはまだ冒頭高のほうがしっくり来ますな。
江戸っ子は五月の鯉の吹き流し 口先だけではらわたはなし
江戸っ子の塩辛は作りにくかったそうで、から本編へ。
さてはな平師の大工調べはこんなもの。
- 与太郎が抜けすぎず、しかししっかりぼんやりしてる
- 貯めた店賃は一両二分と800
- 棟梁が与太郎に言い聞かせるシーン。ダレ場なのに非常にいい気持ち
- 棟梁は最初からポンポン言う。大家のところでも必要以上にへりくだったり、もじもじしたりはない
- 大家はそんなにビビってないし、必要以上に嫌な男にも描かれない
- 啖呵に拍手を入れるスキがない(手を叩かせないように設計)
- 啖呵が済んでから、与太郎のオウム返しのシーンがフルサイズ
人物描写はハードボイルドである。
登場人物3人に、均等にスポットが当たる。
ひと昔前だと、「あれ本当は大家は悪いやつじゃないんじゃないか」と思われそうな演出かもしれない。
でも現代だと、別に大家が悪人じゃなくたっていいや、になると思う。
世の中複雑で、勧善懲悪ドラマなんてむしろ少数派なんだから。
与太郎好きの私には、この与太郎はいいなあ。
細かい仕事が得意で重宝されてる与太郎だが、やり取りが噛み合わない。
で、与太郎は別に、面白いことを言おう、ボケようとしてるわけじゃない。ここは肝心だと思う。
与太郎なりに、なぜ道具箱がないか、なぜ持ってかれてしまったかを語るだけなのだ。
棟梁が、「知らねえ奴が持ってったのか」と訊くものだから「知ってるひとだよ」になるわけだ。
棟梁も最初から「誰が持ってったんだ」と訊けばよかったのだが。
棟梁は江戸っ子の中の江戸っ子なので、相手が与太郎だからって手加減はしない。
これ(二分金6枚)持ってとっとと行ってこい!
立派な男だが短慮なところがあり、与太郎にきちんと謝り方と、800文足りない点もきちんと説明しなきゃいけなかった。
あとは正義のぶつかり合い。
棟梁を演じるはな平師、啖呵直前まで羽織を着ている。羽織の紐を外し、さあ行くぞ。
何を抜かしやがるこのしみったれ大家!
立膝ついたりはしない。
はな平師、口跡がはっきりしている人だとは思わないが、啖呵は見事だ。
めちゃくちゃ稽古してるんでしょうな。
大工調べなので、内容のいい悪いとは関係なく義務的に中手を入れるつもりだった。
もちろん内容いいんだけど。
だが、これはもう明らかに中手回避メソッド発動。
「この人殺し!」あたりを強調しないで、そのまま大家につなげてしまえばいい。気づくと啖呵の続きのシーンに移っている。
別に手を叩き損なったフラストレーションなんてない。
落語の常識もどんどん変わっていくから、気をつけないと。
中手回避メソッドは、柳家から出たものと思う。
で、柳家が主流の落語協会では、柳家の師匠が手を叩かせないよう工夫をするとなると、それが主流になってくるのだろう。
まあ確かによく考えたら、金明竹の言い立てで手を叩く文化のほうがどうかしている。
与太郎のしくじり啖呵が長かった。
聴いたことはあったと思うが、そんなに聴かない内容。
御奉行さまにかっこむ言及が長いので、このまま「下」に行くのかなと一瞬思った。
時間的には行けたと思う。
ともかく大変結構な大工調べでありました。
続きます。