黒門亭28(中・隅田川馬石「王子の狐」)

昨日二ツ目の陽々さんの高座についてちょっと批判したのだが、追記。
「道具屋がしっかり驚いている」のがよくないかもと書いた。
だが登場人物がしっかり驚いている高座は、だいたいいいものだなとあとで思いなおし。
驚いている「様子」ではなく、「驚いている時間の長さ」がよくなかったのだろうと整理をつけた。
話芸は実に難しい。

マクラ爆笑の馬石師、もうほんとに客が一体になって手を叩いていた。
芸術祭の大賞獲った頃だってまだマクラは平凡だったのだから、それから一皮剥けたのだ。
王子稲荷の狐を振って、紋三郎稲荷に行きそうな気がした(扇辰師がそうしてた)のだが、王子の狐。
未聴のこちらのほうが嬉しい。
実に画期的な一席。
最近、「とっておきの演出を、昔からやってるようにさりげなく出す」雲助師の方法論に着目している。
弟子もそんな感じだなと。
これが白酒師だと絶対こうならないけど。

こんな一席。

  • 男は、人出の少ないところで参詣したいとつぶやいている(挨拶時のマクラ回収)
  • 狐が化けるのを一部始終見ていて、「これ見てなかったら絶対騙されてるな」
  • おたまちゃん、は昔の隣人
  • 眉にツバをつける所作が繰り返される
  • 熱燗を大量に注文している。狐に飲ませようと言うより、まず自分で飲みたいから
  • 酢の物の中身がわからなくて、まあいいや
  • 美人と同席して一杯。まんざらでもないらしい
  • 酒は本物かどうか吟味。最終的には「少なくとも酒の味はする」と納得して飲む
  • 狐が尻尾を出したあと、ひどい目に遭わされる場面を丸々カット
  • 男は友達の家になど行かない。玉子焼きも自宅に持ち帰り、いい気持ち
  • 夜中にうなされて後悔する
  • 詫びに行き、狐の坊やと話をする。坊やはひとの言葉を話していないが、男が理解するという描写がある

王子の狐は、人が狐を化かす噺。
ストーリー的には、最初から騙してやる噺だ。鰻の幇間を裏返したような。
だが馬石師の描く男はむしろ、狐と化かし化かされ合う展開をキワキワまで楽しんでいるようだ。
江戸っ子ですなあ。返り討ちに遭っても自慢しそうな。

勘定を狐に任せたくだりは、狐が起きてから明かされる。
客は狐の立場で驚くわけだ。

さして正体を現した狐が折檻され、最後っ屁で逃げ出すくだりは省略。
「やっとのことで逃げ出しまして」だけだ。
この楽しい噺から暴力を一掃しようということでしょう。きわめて現代的。
ただし翌朝唸ってるので無傷ではない。

扇屋の主人が奉公人たちを諌め、詫びに行くよというシーン、重要性はわかるけど、取ってつけた描写になりがち。
ときにムダに思うことすらある。だからといって、単に抜くと気が抜けたムードだったり。
再構成した馬石師のものは非常にスッキリしている。

男は夜中うなされる。
鳥居の横でぶら下がる人間の夢をみたり。あれは狐のたたりだ。
ここで脱線して、「噺家もよく夜中うなされます」。

人から言われたのでなく、自分自身深い後悔をして謝りにいくのが現代ふう。

狐の坊やが、ぱくぱく口を開く描写が一瞬あって、男が狐の言葉を自分自身で説明する落語ならではの技法。

とにかく圧倒された。

仲入り後は柳家花いち師。
池袋下席のトリなので、今月はまた聴くことになる。
待ってましたと声が掛かる。
お声かけてくださって嬉しいですが、別の人にどうぞ。慣れてないので。

今年の元旦も浅草演芸ホールで開口一番でした。かれこれ5年連続で。
朝9時の高座です。前座さんも出ないので、本当に最初ですね。
最初の頃はなんだか名人口調で入っちゃって失敗したので、最近は元気に入ります。
ただ、お正月のお客さんは、好きな師匠のために初笑いを取っておきます。それまで笑っちゃいけないみたいで。

前座の頃つらくて辞めちゃおうかと思ったことは何度もあります。寄席行くのも嫌で。
あ、協会でこんな話しちゃいけませんね。
前座の頃はよく失敗しました。
権太楼、小三治という並びがありました。
その日に限って小三治師匠が、出てくの早いんですね。袖で権太楼師匠とひと言交わして、そのまま出ていきます。
高座返しもしてないのに。そして袖から、めくりが権太楼になっているのがチラッと見えます。
仕方ないので高座返しの前座さんが、小三治師匠のあとについて漫才コンビみたいに出ていって。座布団は仕方ないのでメクリだけ替えました。
あとで叱られました。

この失敗エピソード、どう聞いても小三治が悪いんじゃないの?

小三治師匠はひと芝居のうち7日間出ることが多かったです。
私7日のうち3日間しくじりました、
7分の3ということです。なかなかの失敗率です。
浅草で失敗し、その後鈴本に向かった小三治師匠が、鈴本の前座に「浅草の前座はヤバいな」と話していたそうです。

数字が出てきたのが本編のフリ。
花いち師は古典落語も楽しいのだが、今日の顔付けだと新作だろうとは思っていた。ただ、新作被りしそうとは思っていたが、初めて聴く噺だったのは嬉しい誤算。

ちなみに、「心の支え」になる人が誰だったかいると言ってたけど誰だっけ?
師匠に話したら「俺じゃねえのか」と言われた。

本編、ボード見なくてもタイトルわかった「黄金比」に続きます

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