花いち師、訳のわからない話をしますと。
「黄金比」は、二人の若い女性の会話でできている。
おばちゃんでも若い子でも、女どうしの会話が上手い人だ。
女性ファンが多い(はず)なのは、馬石師と共通している。そして私はなんだか、女性の好む男の噺家が妙に好きで。
話を聞いてくれと友達を呼び出す。
どうぞカルピス。
何よこれ、薄いわね。どんな配分で作ったの。
氷2、カルピス2、水4で作ってたわ(うろ覚え)。
カルピスは、氷2、カルピス2、水2で作るのよ(うろ覚え)。これがカルピスの「黄金比」。
黄金比に詳しい女性は、毎回ポーズをとって右手を回し、「黄金比」。
そして二人は、めんつゆの割り方から始まり、ありとあらゆる黄金比を述べるのだった。
液体だけではなくて。
教えを乞うほうが間違った黄金比を語ると、「それは◯◯の黄金比」。この繰り返し。
1対8は、仮面ライダーの黄金比だそうだ。ライダー1に対し、ショッカー8。
この際の「黄金比」のポーズが仮面ライダー2号の変身ポーズだったので爆笑。そして、それについての解説は入れない。
もう一つ、定食屋のあさり汁の黄金比もポーズ付き。あさり汁は生きたアサリ4に、死んだアサリ2、開かないアサリ1だったかな。
この際、パカッと貝が開く仕草でもって「黄金比」。
演者自身の叫びも入る。
黄金比6対4。新作落語を掛けたときのお客の反応。今日は逆かもしれないだって。
元々友達に来てもらったのは、彼氏と付き合い出した報告なのだった。
とはいえ、だいたいわかっていたので驚かない。これも、彼氏ができたと聞いて驚く割合の黄金比がある。
実に面白かった。また聴きたい。
トリは柳亭左龍師。ネタ出しは三方一両損。
もっと聴きたい人。ずっと落語会で聴きたいものだなと思っている。
やっぱりべらぼうの話題はなし。
左龍師登場していわく。
今花いちに、すいませんすいませんってやたら謝られました。面白かったと思いますけどね。
なんだかいつも謝ってる花いち師であった。
ウケてたけどね。
江戸っ子の、よそのうちにメシをやって芋を食う小噺。
これが面白いことに、芋をやる家では、主人の留の野郎が出奔してしまったそうなのだ。
なのでかみさんと子供が腹を減らしているのだそうで。
なるほどねと思った。いくらなんでも、亭主が働いているうちで芋だけ食ってるのはリアリティがないということなのだろう。
ネタ出しの、三方一両損へ。
イメージとしては扇辰師の噺。
扇辰師だったらいなせなおアニイさんであるが、目の前にいる噺家はゴツゴツした人。いや、ふっくらもしてるけど。
この、いなせな江戸っ子ビジュアルからはほど遠い噺家の描く江戸っ子に聴き惚れたのである。
三方一両損は、ストーリーに頼らない噺である。
この噺のストーリーは、小噺のそれに過ぎない。ひたすら、江戸っ子の思い込みを描き、それを笑いつつ同調するという噺。
この噺のツッコミは、妄想を壊す方向には働かず、すべて強化する方向に作用する。
ということは、客の目を覚まさないでいてくれる人が最強。
左龍師、とことん覚まさないね。
ということはだ。師自身が、この噺の愉快な江戸っ子たちの感性を信頼しているのだろう。
大事な財布を落としてしまってスッキリしてる野郎の、痩せ我慢ではない心境がリアルに客に伝わってくる。
ああ、本当にスッキリしたんだな。
そしてさらに説得力のあるのは、若い二人にツッコむ、それぞれの大家。
カネなんか拾わないよう、男は反って歩けという大家に、強い説得力を感じるからすごい。
拾う時点で江戸っ子じゃねえなと。でも、ネコババせずに届けるところは立派な江戸っ子だと褒めてもくれる。
違う噺のことも思った。水屋の富でも800両盗まれて、水屋本当にホッとしたんだろうなと。
その江戸っ子の了見はわかって損はないと思う。
左龍師の語りから、三方一両損の真の骨格が見えてきた気がする。
ただ困っちゃうなと思うことも。今後二ツ目さんがこの噺掛けたら、すべてウソに聞こえそう。
まあ、ウソなんだけど。
財布を神田堅大工町に届けてやるのは左官(しゃかん)の金太郎。
落とし主の吉五郎に「シャッキンか」と言われてる。
初めて気づいたのだが、大工の吉五郎は堅大工町。
そして左官の金太郎は白壁町に住んでいる。
町名と職業が一致しているのだった。
大岡裁きの場面は、割とスピーディ。
痩せ我慢の江戸っ子に説得力を与えたい左龍師からすると、御奉行さまこそがフィクションなのだろう。
だから二人が2両ずつもらうのを承諾する部分については、大きな理由は不要。
実に楽しい3席でありました。
帰りに湯島のサミットでもって、文京区デジタル商品券を使い果たして帰る。
私は3両落っことしてスッキリする江戸っ子にはなれそうにない。