柳家三三平日昼の独演会 その2(柳家三三「小三治夫妻」※マクラです)

続いて主役の三三師。
出囃子は「ちいさい秋みつけた」。

秋なので、出囃子を「ちいさい秋みつけた」にしてみましたが。
寂しい曲ですね。うち帰りたくなっちゃいました。

今日のゲストは柳家小もんさんで。
来年の9月から真打になって、蝶花楼馬楽を襲名です(拍手)。
私に拍手してもらってもなんなんですが、でも今袖覗いたらそこにいました。だから聞こえますので今一度大きな拍手を。

彼は奥ゆかしいんですよ。自分では喋らなかったでしょ。
あんまり前に出ていかない人ですよ。
前座のときはシャイで、大丈夫かななんて思いましたけど、最近みるみる腕が上がりまして。

噺家は、「ぜひ一席やってください」と言われてから出る商売です。話があるまでは、仕事もないんです。
自分たちから出ていくのは立川流ですね。「よっ、どうですか落語!」みたいなね。
まあ、彼らは毎日行く寄席がないので、そうなるんですけど。
落語協会でもね、前に出ていく人はいますね。小もんさんは群馬の出身ですけど、林家つる子とはえらい違いです。
まあ、つる子はつる子でいいんですけど。

小もんさんのお師匠さんは、小里ん師匠で。江戸っ子ですね。
実にきっぷのいい人です。
私の師匠小三治とは懇意だったので、私も小里ん師匠にはよくしていただきました。
小三治も新宿生まれなんですけど、ご両親が仙台なので、江戸っ子の感じではないです。

小もんさんは前座のとき小多けといいました。
小多け(小たけ)はね、もともと私の師匠、小三治が名乗っていた前座名で。
その次が、小里ん師匠、それから私、そして小もんさんですよ。
名前が、小三治一門と小里ん一門を行ったり来たりしてるんです。
期待の名前ですよね。だから元小多けだった私も、前座のときから気にかけてました。

今ね、小多けがこの4人だけみたいな感じで話しましたけど。
本当はまだいたんですね。
私の兄弟子、燕路アニさんや禽太夫アニさんの世代ですけど、小三治の弟子に小多けがいまして。
珍しいことに、二度破門されたっていう人です。
実に暗い人で。
「暗くて落語好き」っていうのはどういう人かと言いますと、池袋演芸場にひとりで来てる人ですよ。

そりゃ、わしやないかい!
ともかく、かつて「前座失格!?」という暴露本を出した人のことである。
この人が、三三師のまえの小多け。
こんな話が聞けるとは思わなかった。
最近、「さんぽ」だった元兄弟子、三遊亭小圓朝の話も聞いたところだ。三三師に、一門についてなにか語りたいエネルギーがあるのかないのかそれはわからないのだが。
三三師の話は進む。

この小多けさんは、その後葬儀屋になりました。暗いのを活かせる天職です。
小三治は、朝仕事がなくてもどこかに出かけていく人でした。
なので、私は修業時代師匠と話をしたのは合計1時間ぐらいでした。いやほんとに。
そうなると、小三治が出かけたあと、昼間ずっとうちにいる小多けさんをおかみさんが持て余します。とにかくどよんとしてるので。
しかもこの人ドジで。
包丁とぎに出しておいてくれとおかみさんに言われて、そのまま包丁抜き身でぶら下げて出かけようとしたんです。

暴露本を出した話はなかった。
三三師、直接は遭遇していない元兄弟子なのに、伝聞として語らないのが面白い。全部、見た話のように語る。
恐らく、おかみさんから繰り返し語られて、「包丁をぶら下げてでかけようとする弟子」の姿が定着してしまったのであろう。
弟子の半分のクビを切った小三治を、私は尊敬はまるでできない。現に、切られた中に小圓朝のような有望株もいたのだから。
でも、この暗い弟子に関しては、なんだかちょっと、小三治夫婦に同情したのであった。
小圓朝に関しては、自分自身の体験として「上手い前座だった。柳家花緑師に匹敵するぐらい」と語っていた三三師である。
暗かった弟子に余計な感情は入っていないのだろう。弟子の本名(書籍の名義、藤原周壱ではなかった)を高座に出してるあたり、多少含みもありそうだけど。
もっともクビになり、葬儀屋になっても恨みは途切れず、やがて暴露本を出すに至った弟子への同情も私にはある。
切るぐらいなら、初めから弟子に採るなと思う。暗いのが合わないと思うなら採らないのがお互いのためである。
小多けを名乗らせたのだから、暗くても見どころもあったのだろうに。

私が前座の時代、すでに一琴アニさんは二ツ目でした。私の弟弟子の三之助は、私が二ツ目になって入ってきた人です。
なので、修業時代の私はおかみさんと一緒にいることが多かったですね。
おかみさんにいろいろ教わりました。
おかみさんはね、江戸っ子で。もう日頃から威勢がいいんです。
小三治に対しては、よく怒っていましたね。
また、小三治という人は、決して謝らないんです。謝っちゃえばいいのにというときも謝らない。
下を向いて黙り込むんです。そうするともう、おかみさんは口を利かない。冷戦状態です。
おかみさんの誕生日です。「いつもすまない。今日はお前の好きなものをなんでもやるし、旅行に行きたかったらそれでもいい」とか言えばいいんですけど、言わない。
なにをしたかというと、おかみさんがこう顔をはたく鏡台に、1万円札を5枚貼り付けておいたという。
師匠が出かけた後おかみさんが起きてきて、それ見てまあ怒るのなんの。
おかみさん、それで決意したんです。もう、あいつの一番嫌がることをしてやろう。
というわけで、犬を買ってきました。室内犬です。
師匠は犬が嫌いなんですね。着物に毛がつきますから。
師匠が帰ってくると、おかみさんが子犬を抱いています。
師匠、久々に口を開きました。「わかった。犬を飼うのは認める。だけど名前は俺がつける」。
というわけで、この犬には「ネコ」という名前がつきました。

これ読んで、小三治の魅力を再確認するひともいるのでしょうな。いいけどね。

本編、「女天下」に続きます。

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